告げる
「この建物です」
建物にたどり着いた。ロゼアさんが先に立って、重そうな扉を押し開ける。扉は軋むような音を立てた後、僕たちが中に入ったところでバタンと閉じた。
屋内は薄暗くて埃っぽかった。元は小さな工場だったみたいだけれど、今は二階の床も抜けてしまっていて、完全に廃屋になっている。
「あの、お爺さん? どこですか?」
僕が呼びかけると、大きな機材の影からお爺さんが姿を現した。手には大きなドライバーを持っている。
「良かった、あなたでしたか。あの怪物が入ってきたのかと思って肝を冷やしましたよ。こんなものでは役に立ちそうにありませんし」
そう言って、手元のドライバーに視線を落とす。確かに、それが吸血鬼の前で役に立つかどうかは正直かなり微妙だ。
「それはそうと、先程戦っていたあの人は?」
「……」
ロゼアさんのことを言っているのだろう。僕は顔を引きつらせながら「あそこです」と斜め後ろの辺りを指差した。
ロゼアさんは、なにやら機材の周りで「なんだこれ、すげぇ……何を作ってたんだ……どうやったら動かせるかな……」と、一人感激に浸っていた。その姿を確認したお爺さんも、苦笑いを浮かべた顔で僕を見つめている。
「……あの人は一体、どういった人なんですか?」
「とりあえず、恐ろしくゴーイングマイウェイな人だとだけ」
二人一緒に溜息をついて、まだ機材に感激しているロゼアさんを僕が引っ張ってきた。
「あのロゼアさん、目的見失ってませんか?」
「あ、いや、良い感じだったもんだから……。――それで」
ロゼアさんは急に真面目くさった顔をして、お爺さんと向き合う形になった。
「今から、あなたの魂を吸い取ります。その魂は売買されて、私達の生活費用になります。ここまで理解して、あなたは私達に魂を捧げてくれますか」
しばらく、重い沈黙が流れた。数秒経ったようにも、数十分経ったようにも思えたその時、お爺さんははっきりと口を動かした。
「――――、はい」
夜の静けさが、よりいっそう深まったように思えた。横目で見ると、ロゼアさんは鋭い眼差しでお爺さんを見つめていた。