出発
「ルエル、おい、ルエル。もういいぞ」
「おい」
「もういい」
「もういいっつってんだろ!」
「駄目ですっ、僕がよくないんですー!」
僕達は、救護術式を止めるの止めないので押し問答になっていた。もうかれこれ四回目である。
「なにがよくないんだよ、もう大丈夫だつーの!」
「さっき大丈夫じゃなかったじゃないですか!」
「あれから何分経ったと思ってんだ、そろそろあの爺さんも待ちくたびれすぎて寝てるぞ!」
そう言って、ロゼアさんは無理矢理僕の両手をはねのけて上体を起こした。それと同時に、僕のオレンジ色の光もふっと消えた。
「心配してるのにー!」
「頼んでない」
バッサリ言い捨てると、ロゼアさんはそのまま立ち上がった。「はっ」とか「とうっ」とか言いながら跳躍をしたりバク転をしたりと、わざと元気なところを見せつけてくる。僕の脳内で、シャツの上にチョッキを着た猫が躍り狂っている映像が再生された。
「おい、なに笑ってんだ。殴り倒されたいのか」
キレイに着地したロゼアさんが僕を睨んだ。しまった、顔に出てたか。いそいで取り繕う。
それにしても、わがままな人だなあ……。救護したんだからもう少し優しくしてくれてたっていいのに。まあ、元々の理由が僕とおじいさんを助けるためだったから、文句は言えないのだけれど。
「そろそろ行くぞ。場所案内しろ」
ロゼアさんが歩き出したので、僕は泡を食って後に続いた。
――まあ、なにはともあれ、かなあ。
両手をズボンのポケットに入れて歩くロゼアさんを横目で見ながら、僕はちょっとだけ嬉しくなった。
遅れてるんです、ええ、遅れてるんです!!
理由は近いうちにどこかしらで……。