救出
「すべての者に宿りし生命の源よ、今ここに現れよ! ロヴィンズフレイ・ラルファント!」
まばゆい光、とまではいかなかったが、オレンジ色の光が辺りを包み込んだ。吸血鬼達に意識を集中させる。二体の胸からポウッと紫色の球体が抜け出してきた。吸血鬼達はうつ伏せにドサリと倒れて、動かなくなった。
――僕が唱えたのは、魂吸引の呪文だった。成功するかどうかは、完全な賭け。なにしろ、まだ一回もまともに成功したことがなかったからだ。むしろ、成功したのに驚いたくらいだ。
吸血鬼二体の体を引きずってどかす。正直怖かったけれど、今はロゼアさんを助けるのが先決だった。
「ロゼアさん、聞こえますか」
ロゼアさんからの反応はなかった。元々白い肌がもっと白くなって、紙のようになっている。首筋から滴る真っ赤な血が、インクを垂らしたみたいに不自然に浮かび上がって見えた。体中に、なにか透明なものが巻きついている。もしかして、これが術式を使えなかった原因なんだろうか。
口元に手をかざす。微かな風圧が僕の手を撫でた。――呼吸が浅い。急いで助けなきゃいけない。
僕は両手に感覚を集中させて、ロゼアさんの心臓の辺りについた。すぐにオレンジ色の光がロゼアさんの表面を覆った。ロゼアさんにみっちり教え込まれた救護術式だ。呪文を唱えなくても使えるので、悪魔や魔法使いなんかにはかなり重宝されている。欠点といえば、自分には使うことができないということくらいだ。首にできた噛み傷が、次第に癒えていくのがわかる。
五分は経った時だった。ふいにロゼアさんの左手が僕の手首を握った。驚いて視線をずらすと、目を薄く開いた顔が僕を見つめていた。
「ル……エル……?」
いつもと違って弱々しいその声に、なんだか僕は泣きそうになった。
「ロゼアさん大丈夫ですか、どっか痛くありませんか、なんかおかしいとこありませんか!?」
両肩をガクガクと揺さぶる僕を、ロゼアさんは呆れ返った顔で見つめている。
「何があったんだよ……。あと、そんなに揺らすな、気持ち悪い……」
「あっ、ご、ごめんなさいっ!」
慌てて手を離す。ちょっとやりすぎた。
「そんなこと言ってる間に、早くこれ解いてくれ。これがあったらいくら救助術式かけたって意味ねえんだよ」
よく分からないけれど、解けそうなところを探す。途中に赤いボタンのようなものが見えたので押してみたら、それが解け目だったらしく、透明なものは一瞬にしてボタンの中にシュッと引っ込んだ。
「それ、便利そうだから持ってけ。昔使われてた捕獲縄だとかなんとか。俺が捕まってたんだから、強度に関してはお墨付きだ」
「は、はい」
鞄を持っていなかったので、捕獲縄は取りあえず胸ポケットにしまった。
「――よし、戻るか」
「え、どこに」
それを言った瞬間、ロゼアさんの手が僕の頭をはたいた。
「い、痛い!?」
「痛いじゃねえ、どうせ人間ほっぽってきたんだろ! さっさと行って吸い込むぞ、もたもたすんな!」
そう怒鳴って立ち上がったロゼアさんは、二、三歩歩いたあと、足をもつらせてフラリと倒れた。
「……いや、そりゃそうなりますよね……」
「眩暈がする、頭痛いだるい眠い。ルエル、救護術式ぐらいもうちょいましな完成度にしろよ……」
なぜか体調不良な先輩に文句を言われる僕。そりゃ完成度は低いけども。
「おい、ルエル」
「……なんですか」
「完成度が低いならせめて時間を伸ばせ。なるべく急ぎたいけど仕方ない」
「……文句を言ったくせにもう一度やれと……」
「おい、聞こえてるぞ?」
「あ、なんでもないです、ハイ」
僕はロゼアさんの心臓近くに手を当てると、もう一度救護術式を発動させた。
遅くなってしまい!! すみません!!(スライディング土下座)
何故いまだ女の悪魔がでてこないかって……?
救護術式をするときに変態扱いされるからですよ……(真顔)
……ごめんなさい、なんでもないです。ただ単に戦闘能力に乏しい女性悪魔が多いだけです。