混血の悪魔
蹴り飛ばされた俺は、思い切り地面に叩きつけられた。
「ぐ……っ」
体中に痛みが走る。寄せては返すような眩暈と吐き気を抑えて起き上がろうとすると、急に透明なロープ状のものがぴったりと体に巻きついてきた。吸血鬼がやったのだろうか。きつくて苦しい上に、ちょっとやそっとのことではちぎれそうにない。おまけに、
「うっ……ぐ、がっ……!?」
光で断ち切ろうとしたら、封じられてしまう上に、自分にダメージが加わるしくみになっていた。――非常にまずい。
「ソレ オ前ニ 切レナイ……」
はっと見上げると、俺と戦っていた吸血鬼が俺を頭上から見下ろしていた。
こいつ、言葉が話せるのか?
「おい、これをほどけ」
「断ル」吸血鬼は薄ら笑いを浮かべた。「コノ捕獲縄、昔ノ悪魔ノ落トシ物、トッテモ便利。ホドクノ ムダムダ」
なるほど、捕獲縄か。罪人を縛り上げるためのものだから、さぞかし丈夫にできているのだろう。
「俺は悪魔だ、お前らの食糧じゃない。縛り上げても意味ないだろう」
下手に出て交渉を図ったつもりだったが、吸血鬼は首を横に振った。
「オ前、確カニ悪魔。ダケド人間ノ匂イ スル。オ前、本当ノ悪魔 チガウ」
「なっ……!?」
驚いた。
俺は、――俺は、人間と悪魔のハーフだ。お母さんが人間で、お父さんが悪魔。だが、術式も難なく使いこなせるので、黙ってさえいれば今まで気づかれるということはなかった。実際のところは、俺が最年少のソーセオストということも手伝って、俺がハーフであることを知らない悪魔もいないのだが。
でも、吸血鬼はそこまでわかるものなのだろうか。
「オ前ノ血、オレトコイツ、飲ム」
流石に首筋が凍った。でも、もう逃げ場はどこにもない。後ずさろうとした体は、その場で空しく左右に揺れた。
「俺には家族がいるんだ、今も俺の帰りを待ってる」
「ソノ家族、人間カ?」
ぞくりとした。こんな奴等に無惨にも殺されるお母さんと妹たちの姿を想像したら、柄に合わず涙が滲みそうになった。殺されるのが俺でよかったのかもしれない。
「……家族は、かぞ、くだ……」
視界が歪んできた。さっきからこの捕獲縄に体力を吸い取られているような気がする。うまく声が出せない。
首筋を、鋭い痛みが襲った。吸血鬼の牙が食い込んでいくのがわかる。叫びたいが、もう声すら出ない。体に力が入らなかった。
頭の中に、沢山の思い出が現れては消えていった。ごはんよ、と呼ぶお母さん、いつも肩車をしてくれたお父さん、無邪気で可愛い妹たち。これが走馬灯というやつなのだろうか。
静かに目を閉じる。
こんな、
こんなことになったのも、全部お前のせいだからな、ルエル。
遠くから誰かの声が聞こえたような気がしたが、意識がそこで途切れ、あとは何もわからなくなった。