らしくない
「ロゼアさん!」
目を開けたルエルが、俺の名前を叫んだ。
「早く行け!」
吸血鬼の両腕を掴んで動きを抑えながら、俺はやけくそのように怒鳴った。
行けッ、同じ事何度も言わせんな走れ。
ルエルは、ひっぱたかれたような顔をして、また建物の方へと走っていった。
あの時――ルエル達が襲われていた時――咄嗟に体が動いていた。何か叫んでいたような気もする。息をするのも忘れて走って走って、真っ白な頭のまま、襲っていた内の一体を思いっきり投げ飛ばした。
実に俺らしくない行動だった。普段の俺なら、もっと確実な方法を取っていたはずだ。だが、その「確実な方法」を今も思いつけない程度には、俺も冷静ではないということなのだろう。
自分の両手に神経を集中させる。青い光が走って、吸血鬼の動きを一瞬鈍らせた。
術式は、そう多くは使えない。調整が済んでいない上に、まだきちんと呪文が覚えられていないからだ。こんなところで基盤の変換が響いてくるとは。俺は内心で臍を噛んだ。
とにかく、今は術式以前の塊と直接攻撃だけで戦うしかない。危機的状況であることを充分理解しながら、俺は吸血鬼と真正面から向かい合っていた。
襲いかかってくる蹴りをかわし、青い光をぶつける。普通ならとっくにやられているはずなのに、この吸血鬼はなぜかやたらと強かった。土気色の顔に薄く浮かんでいる笑みに、少なからず背筋が凍る。――相も変わらず不気味な顔だ。
蹴って、殴って、光をぶつけて。状況は、良くなるどころかだんだん悪化していっている。向こうはだんだんと前進し、俺はじりじりと後退していく。
そして、吸血鬼の蹴りを何回か受けて、最後のひと蹴りで、俺は蹴り飛ばされ、宙を舞った。