幕間『敗走の狩人』
三話に何の予告も無く登場したオリキャラの少年視点で語られる回想込みの後日譚。超短いです。まぁ幕間なのでね、CM感覚で読んで頂ければ幸いです。次回予告詐欺サーセン(殴
元の世界での俺は、世界中を旅しながら、辿り着く町や村で人々に迷惑をかけている妖怪や怪物を退治する依頼を受けて生計を立ててきた。この幻想郷に迷い込んでからは、そんな人に害を為す妖怪が殆ど居なくて、平和な日常を謳歌しながらも心のどこかでは退屈していた。だから、久しぶりに妖怪退治の依頼を受けた時は狩人の血が騒いで勢いに任せて飛び出してきてしまった。それがこのざまである。
「ちっくしょ~……あんなの聞いてなかったぜ~……?」
あんなのとは、依頼の標的である妖怪の少女が自分の好みのタイプだったこと。そして、その妖怪少女の傍にいた黒髪黒服の青年が邪魔立てをして、更には予想外で不可解な能力の使い手だったということ。鋼鉄をも容易く切断する自分の愛刀の手入れや、長い一人旅で身に付けた技の鍛錬は、平和な幻想郷に来てからも怠ってはいなかった。切れ味が鈍っていたなどということはないはずなのに。
「あー……勝手に飛び出して来たから、まーた咲夜に怒られるかも……」
普段は普通の人間は寄り付かないあの屋敷を訪れたローブを着た男。かなり怪しい風体だったが、退治屋としての自分の噂を聞き付けたのだろうか、妖怪退治の依頼を持ち掛けてきた瞬間には興奮で他のことには意識が廻らなかったのだ。あの時は先輩は休憩時間だったから、門前に門番は誰も居なかった。もし何者かの侵入を許していたら、きっとタダでは済まないお仕置きを受けるだろう。
「メシ抜きとかならまだ良いけど、いや良くないけど……あの説教はもう勘弁だぜ」
幻想郷に迷い込んで右も左も分からない自分を、出会った瞬間倒して捕らえてその夜のディナーの材料にしようとした瀟洒なメイドの少女の、笑顔に見えない笑顔による説教を思い出して身震いする。手品なのか魔法なのかよく分からないが、自分の全周囲に切っ先をこちらへ向けるナイフを設置しながらの説教は精神的にかなりのダメージを受ける。出来れば二度目は御免蒙りたかった。
「うあ~……帰りたくねぇ~……」
紆余曲折あって、最悪晩飯の材料へと転生することは逃れたが、その代わりあの屋敷での様々な雑用を押し付けられる運びになった。見ず知らずの土地に来て帰る当ても寝床も無く、途方に暮れるだけの運命よりかは、部屋付き雑用執事の職を貰えただけかなり有り難い方ではあるのだが。炊事洗濯掃除門番、ありとあらゆる雑用をこれでもかとばかり押し付けてくるのは正直キツイ。
「でも帰らないわけにはいかねぇよなぁ~……」
その中でも取り分けキツイのが、少々気の触れた、館の主の妹様、その面倒というか遊び相手をすることである。あの子は見た目はかなり幼いクセに身に秘めた力は途轍もないモノで一歩どころか半歩間違えば命の危機に直結するまさに命懸けの仕事である。確かに、無邪気に遊んで可愛い笑顔を振り撒く姿は心癒されるものがあるが、可愛い笑顔で容赦なく破壊の力まで撒き散らされるのだから堪ったものではない。
「咲夜の説教とフランの遊び、か……どっちも嫌だ」
自分の中で、どちらが肉体的精神的に負担が軽いか天秤にかける。導き出された結論はどちらも過酷な結果が待ち受けているという事実。肩を落としてゲンナリする。しかし、弱々しい足取りながらもその歩は確実に自分が帰るべき館へと進んでいた。他に行くアテもない。ならば帰るしかない。悪魔が棲む、あの紅い館へ。
「咲夜もフランも機嫌が良ければいいけどなー」
望み薄と分かっていながらも、なお僅かな希望を抱いて俺は敗走の道を往く。館に帰り着いて、メイド長の全周囲捕捉ナイフ付きの説教を受けた後、気の触れた妹様の遊び相手をするという運命が待ち受けていることも知らずに―――
この少年が再登場するのはまた数話先になると思う。オリキャラと言っても、知り合いのオリキャラを勝手にアレンジしただけなので物語に深く関わってくることは多分、無い。ゲストキャラってトコですね。