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第三話『妖怪の少女』

今頃になって記憶喪失設定は間違いだったかもしれないと後悔(殴

いろいろとやれることが制限されることを失念していた!(思い出語りとか

今回もgdgdなのでまったり読んでいただければ幸いです。




「ふんふんふふ~ん♪ふんふふふんふふ~ん♪」


 それからしばらく後、悠人とルーミアの姿は人間の里の商店街のド真ん中にあった。

 暢気に鼻歌を奏でながらてくてく歩くルーミアに合わせ、その後ろに悠人が付いていく。

 二人は、というより悠人は、先の騒動(?)が終息した折、慧音に自分の懸念―――今後の自分の指針―――を相談した。

 幸いな事に慧音は過ぎた事を根に持つ性格ではなかった。ルーミアをひとしきり叱った後、我に返った慧音は、半泣きで謝るルーミアに抱擁で謝罪し仲直りした。その一部始終を見られたバツの悪さからかどうかは定かではないが、慧音は「無様な姿を見せた」と小声で呟いた後、悠人に「ルーミアと里で遊んできてくれ」と頼み事をした。なんでも、人間を喰わないようにする為に、里の人間達とふれあい友好的な関係を築く為の日課だという。そのお使いの間に「何か良いアイデアを纏めておく」と言い残して、慧音は私事の為に出掛けて行った。

 後に残された二人はしばし無言で互いを見、やがて、


「とりあえず、外に出るか」

「そーなのかー」


 ということで、里の散策に出向いた次第である。


(妖怪と言っても、色々いるんだな)


 ご機嫌なルーミアのはしゃぎ様を見て、悠人は心中で呟いた。

 人間の里は、多くの妖怪が幅を利かせている幻想郷において、唯一とも言える人間の集落である。人間の集落と言っても、多くの妖怪も訪れ、妖怪専門の店も開かれており、また極一部はここで生活してさえいる。

 妖怪の賢者によって守護されているこの里では、妖怪は暴れる事が許されず人間を襲う事もできない。かといって、人間も調子に乗って妖怪を追い払ったりはしていない。里を訪れる妖怪の多くは人間と友好的であり、肩を並べて酒を酌み交わす程、親密な関係にある者もいる。

 ルーミアの様な妖怪が平然と里をうろついていても誰も何も気にしないのはそのためである。年の近い子供達(もちろん外見上のことだが、ルーミアに関しては中身も同じくらいなので問題ない)からは遊びの誘いを受ける程であった。その度に、


「いまは“ゆーと”と遊んでるからだめなのかー。ごめんなのかー」


 と、丁重に断っていた。

 遊んでると言っても、ただ単に二人で里をぶらりと歩き回っているだけである。地理に不得手な悠人が、時々ルーミアに里の解説(必ずしも正しい情報ではなかったが)を受ける程度の、他愛のない触れ合い。


(俺みたいな奴と一緒にいて、なぜこんなに楽しそうなんだか)


 幻想郷に来る以前の記憶は全く無い悠人だが、自分の本質たる性格は、今に至るまでにおおよそ把握できていた。自分はどうやら明るく騒げる、お気楽な種類の人間とは真逆の性格をしているらしい。考えている事を口に出さず、心の中で呟くのみであった。

 最も、今ここでルーミアと歩いているのは、彼女を人間に馴染ませる為。自分は慧音にそのお守を任されただけである。ルーミアと仲良くなったり彼女に好かれたりするのが目的ではない。


(どうでもいい奴と一緒にいて、こんな顔はできるものだろうか)


 対して、そんな風に深く重くものを考えている悠人が気の毒に思えるほど、ルーミアは何も考えていなかった。今この状況が楽しい。それだけで満足できる。何故楽しいのかは、深く詮索しない。しようとも思えない。それだけだった。一言で言うと、能天気なのだ。


「他に行きたいところはあるのかー?」

「そうだな……少し、静かな所を案内してくれ。ここは騒がしい……」


 と、その能天気なルーミアが他意なく話しかけてきた。悠人はそれに、やはり他意なく答える。このルーミアと行動を共にし始めて、またひとつ、記憶を失った自分がどんな性格をしていたのか思い出した。あるいは把握した。自分はどうやら、子供は得意じゃなかったようだ。

 “なかったようだ”というのは、今では子供―――ここではルーミア―――を相手にするのが苦ではなくなっていた。少し前までは、里を案内するルーミアの説明(かなり分かり難かった)には、適当に相槌を打つ程度しかできなかった。当然、会話が続くわけもない。

 だが、今ではこのようにルーミアの好意に甘えることさえできるようになっている。求めた要求自体は、若干危ない人と勘違いされそうな内容だったが。


「わかったのかー」


 間髪入れずに笑顔で答えるルーミア。

 その笑顔に釣られて、悠人も目元から余計な力が抜けていく。

 悠人は、子供は無駄に騒がしく、人の話を聞かないイメージを持っていたらしい。どうやら静かな空間・空気を好む自分に、それはかなり疎ましいものだと感じるだろう。

 しかしこのルーミアは他の子供と違って、高いテンションで騒いだり暴れたり、人の話を聞かないなんてことはなかった。逆に悠人の話を良く聞き、その求めに応えてくれさえする。しっかりした子だ、という以上の感銘を、悠人は受けていた。


「こっちなのかー」


 嬉しそうにステップを踏みながら悠人を導くルーミア。

 彼女も、実は普段よりも心が弾んでいた。

 普段は慧音と一緒に里を巡っているルーミアだが、その際の案内は、当然と言えば当然だが、全て慧音の役割だった。

 しかし今日は違った。今まで慧音がやっていたことを、今度は自分が行っている。案内される側からする側へ、案内された事で味わった楽しみを、今度は自分が誰かに味わわせ楽しませることができる。その新鮮な気持ちを嬉しく思っていた。

 今、慧音がこの場に居たら、きっとこう言っただろう。

『今日のルーミアはいつにも増して楽しそうだな』と。


(こういうのも、いいかもな)


 ルーミアの無邪気な笑顔を見ると、自然と気を張っていた心が解けていく気がする。

 記憶を失う前は人嫌いであったと推測できるが、その症状は案外重くはなさそうであった。他愛のない事でも相手に気を許せる柔軟性を持ち、気を許した相手には気兼ね無く接する事ができるのだ。


 「これじゃ『お使い』にならないじゃないか……慧音に感謝しないとな」

 「なにを感謝するのか~?」

 ルーミアに言われて、初めて自分が独り言を口に出していた事に気付いた悠人。

 その事に驚いた気配を極力隠して、常のように素っ気なく『いや、なんでも……』と返そうとして、また口を開く。


「いや、ルーミアにありがとう、ってな……案内してくれて」


 と、思いもよらない『本心』を明かしてしまった。

 先程から、自分でも良く分からない感情が心中に渦巻いている。ルーミアの嬉しそうな様子に感化されたのだろうか。

 その言葉を聞いた当のルーミアはというと、


「―――」


 きょとんとした一瞬の間を置き、


「どういたしましてなのか~♪」


 今日聞いた中で、最も嬉しそうな声と共に、

 今日見た中で、最高に輝いている笑顔を見せて、


「―――っ!?」


 突然、悠人に抱き付いた。


「うぁ、な……なに、して……お、おい、はなれろ……!」

「えへへへ~♪」


 自分の胸の位置にも届かない小柄な少女に突然抱き付かれて、平静を失う悠人。そんな様子が面白くて、ルーミアは更に調子に乗って抱き付く力を強くする。拒絶されているように見えて、それが拒絶ではないことが、はっきりとわかったから。

 そんな微笑ましい様子の二人を―――


「―――っ!?」


 ズバァンッ!!


 一発の炎弾が吹き飛した。

 鼓膜を破裂させる程の爆発音を耳に、四肢がバラバラになる程の衝撃を体に受けて、悠人は咄嗟にルーミアをその衝撃から守るために、彼女の体を抱き爆発と反対方向へ飛び退った。


(―――っ、な……なん、だ……何が、起きた……っ!?)


 突如訪れた展開に対するものだけではない、今の、自分自身の行動にも驚いている悠人である。

 命懸けでルーミアを庇った事に、ではない。何の前触れも無く飛来した炎弾、それが齎す爆発を、事前に察知し、最善の方法で、最小の被害に抑えることが出来た事。その事に驚いていた。

 炎弾が迫りくる直前、何か、自分の体を通過する波の様なもの。正体不明の違和感を明確に感じた気がする。これが、危機察知能力というやつなのだろうか。

 悠長に思考を流すこと数瞬、ハッと我に返った悠人は、自分の腕で体で抱き締めていたルーミアに声をかける。


「ルーミア!大丈夫か!?」

「だいじょうぶなのかー」


 常のように暢気な口調で返事をするルーミア。

この様子だと大事はなさそうだが、声の端に微か震えと怯えが混ざっているような気がした。そんなルーミアを見て、悠人の総毛が逆立った。恐怖から来るものではない。自分達にこんなことをした何かに対しての、怒りからである。その怒気を、声にして発しようとした、その時―――


「おーい!大丈夫かー!!」


 遠く、炎の飛来した方角から、少年と思しき声が聞こえてきた。

 鋭く地を蹴るしなやかな脚を高速で回し、かなりの速度で、しかし大した苦も無さげに走り寄ってくる、紅いロングコートを着た小柄な少年。両手に一振りずつ、炎か落雷をモチーフにした様な、エッジの鋭い剣を持っている。何故か悠人たちの十数歩手前で急制動をかけ止まった拍子に、後頭部で結わえられている茶色の髪がひと房揺れる。


「怪我は無かったか!?」


 心配している様子を隠そうともせず表してはいるが、何故か十数歩の距離を開けたまま。戦闘態勢も解こうとせず、両手の双剣はいつでも抜き打ちを放てる位置に構えられていた。

 突然現れた謎の少年、彼が漂わせている不審な雰囲気に、悠人は一瞬遅れて気が付いた。彼が、心配げな視線を向けている相手は悠人だけだという事に。ルーミアに対しては、逆に警戒感を以って相手の隙を窺う目で見ているという事に。その様子に、悠人は嫌な予感を覚えた。


「今の攻撃は、お前が放ったものか?」


 敵対心も露わに、低く轟く様な声で、まるで弾劾するように訊く。

 訊かれた少年は、申し訳なさそうにしながらも、開き直りに近い勢いで反論した。


「あんたを狙ったわけじゃないんだ!俺の狙いはそこの妖怪!」


 そこの妖怪?“そこ”と指差された場所には、ルーミアしか居ない。彼女が妖怪である事は先刻承知。しかし妖怪だからと言って、突然攻撃を受ける謂れは無い筈だ。

 先程の里での散策を思い出す。ルーミアと一緒に里を巡って、擦れ違う人々が新参者の自分や妖怪のルーミアに対し、なんら恐怖心も敵対心も抱いていない事を。里に、幻想郷に生きる一員として暖かく接してくれていたことを。


「ルーミアに、何の用だ……?」


 ルーミアが小さい肩を震わせた気配が背後から感じられた。恐らくは、相当な殺気を放出したのだろう。自分でも驚く程、その声には憤怒の色が満ちていた。

 その気迫に若干押されたように見えた少年だったが、すぐに立ち直った。見た目は少年ではあるが、その佇まいからは、素人臭さが微塵も感じられない、多くの戦場を潜り抜けてきたと分かる貫禄、存在感の様なものが確かに漂っていた。


「妖怪退治の依頼を受けたんだ。邪魔するってんなら、容赦しないぜ?」


 声に微量の恐怖と、多量の自信を含めて、悠人の問いに挑発的に返す少年。左右の脚を前後にずらして広げ、微かに踵を浮かせる。いつでも飛び出し奇襲攻撃を仕掛ける事ができる構えを取る。戦闘に関しては素人の悠人には、その予備動作の前段階にも気付けない。心に満ちる怒りを、視線に乗せて放射するだけである。


「この子には、指一本触れさせない……っ!」


 陳腐な台詞だが、他に言えることもない。そして、言ったところで何が出来るわけでもない。だが、言わずには居られなかった。ここで何もせず、されるがままになったら、これから先、幻想郷で何も出来ない。


後悔(こーかい)するぞ~……――っ!」


 ゆったりと間延びした様な口調、そこから一瞬にして動作に移った。一定の速度でゆっくりと一定方向に移動していた物体が、急に高速で転身するとその位置を見失うように、緩やかな口調から相手の油断を誘い、神速一気に距離を詰めて一撃で仕留める。奇襲戦法の常套手段だった。


「――っ!?」

(獲った――っ!!)


 この初撃で相手に深手を負わせ、怯んだ所に追撃、そしてトドメを刺す。今までの戦いで培った経験、技術、直感、全てを動員して、必殺の一撃とする。そしてそれは、今までの戦いで見てきたのと同じ、防御が間に合わずに腕を斬り飛ばされ悲痛の絶叫を上げる相手の姿をリフレイン―――


「っ!?」


 しなかった。

 悠人の腕が、眼前で少年の刃を受け止めている。

 見えない籠手でも装着しているかのように、刃は腕の皮膚に喰い込む事も無く、まるで鋼鉄を斬ろうとして弾かれたかのように跳ね返った。

 驚愕に目を一杯に見開く少年。自失の間も僅か、思い切り地を蹴って悠人から距離を取る。反撃を貰わなかったのは、不幸中の幸いか、相手が素人だった為か(もちろん後者だが)。


(冗談、だろ……!?なんで、一体何が!?)


 内心の焦りが驚きが、隠しきれない。恐らくは盛大に顔に出ているであろう。しかしそれを気にする事もできない。それほどまでの、有り得ない現象を、少年は目の当たりにしたのだ。


(鋼鉄の鉄板だって叩っ斬れるこの剣で……なんで斬れないんだよっ!?)


 今まで体験した、どんな想定外な出来事をも凌駕する事態に、少年は驚愕する事しかできなかった。目の前の、素人同然の構えを取っている青年が、今まで戦ってきたどんな強大な怪物よりも大きな存在に見える。そしてその存在感は、今も増し続けている。


(なんだ、この威圧感……底知れない力……測り切れない……っ!?)


 戦闘の達人は、相手の動作の前兆を気配で感じ取り、攻撃の軌道を先読みして回避し、その隙を突いて反撃する。達人同士の戦闘は、この読み合いの勝負でもある。戦いの流れを読める者が、勝利を手にする。そしてこの少年は戦いの達人だった。


(……こりゃ……ヤバイぜ……っ!)


 悠人の全身から放出される殺気や戦意から、戦いの流れが完全に向こうに渡ってしまっていると、少年は悟った。そして決断する。時には、絶対に勝てない戦いから身を引く決断を下すのも、生き残る条件である。無謀と勇気は別物なのだ。

 躊躇いを見せる間も僅か、少年は鋭く踵を返し、悠人達に背を向けるや、一目散に逃走を開始した。その姿に呆気に取られている悠人に、背中越しに声を放る。


「逃げるんじゃないからなっ!今度会ったら、叩き潰す!!」


 今時珍しい捨て台詞だと感心する悠人は、そのコミカルな演出に先までの怒りを霧散させていた。すぐに、背に隠していた少女に振り向く。


「平気か、ルーミア?」

「へいきなのかー」


 どうやら平気そうである。まだ僅かに硬さは残っていたが、それでも先程まで二人で遊んでいた時の様な、暢気で柔らかい表情を取り戻していた。しかし一転、その表情に翳が過る。何事か訊こうとした悠人の機先を制して、ルーミアが口を開いた。


「わたし、悪い妖怪なのかー」

「――なんだって……?」


 間延びした暢気な調子はそのままだったが、明るさが消えた、暗く落ち込んだ雰囲気が漂う声を、まるで絞り出すかのように呟いた。まさかルーミアのこんな姿を見る事になるとは思わなかった悠人は、一瞬の衝撃を経て、狼狽する心をなんとか押し止めた。


「退治されるのは、悪い妖怪なのかー」

「…………」

「ゆーとに、迷惑かけたのかー」


 不安げな色を漂わせる紅い瞳に、悠人の右腕が……自分を咄嗟に庇った際に負ったのだろう、決して小さくはない擦り傷が映っていた。その負傷した腕にある大きな手を、自分の小さな手で取る。まるで、親に縋る子の様に。


「ごめん、なのかー……」

「……っ」


 今にも泣きだしそうな少女の声に、悠人は殆ど勢いのまま、少女の小さな体を抱きしめた。自分を巻き込んでしまった事に罪悪感を感じている少女を安心させる為に。こんな傷など大したものではないという事を教える為に。


「気にするな、俺は大丈夫……ルーミアが無事なら」

「…………ぅ、ぅん……」


 山の間に沈み行く陽が紅の世界を里外れの草原に作り出す刻、

 二人を探し回っていた慧音が、ようやく発見した二人の姿に驚くまで、

 悠人とルーミアは静かに、しかし穏やかに、抱き合っていた。






 後刻。

 ルーミアの世話をしてくれた礼に、慧音は悠人に今後の方針をアドバイスした。

 元の世界に帰りたい外来人が訪れる場所、博麗神社。そこにいる巫女か、そこに居座っている事が多い妖怪に頼めば、元の世界に帰れるのだという。幻想郷で生活できる目処が立たない悠人には、その選択肢以外は無いと言って、すぐにでも出発しそうな勢いだったが、

「ずっといっしょにいたいのかー!」

 と、駄々をこねるルーミアに引き止められて、一晩だけ慧音邸の客間で宿を取ることになった(この件に関して慧音は「ルーミアを助けてくれた礼だ」ということにしてくれた)。

 慧音も満更ではない風に「私の寺子屋で仕事をやらないか?食事と寝床くらいは用意できるぞ」と言ってくれたが、町長にバレた場合、慧音に迷惑をかけてしまうということで、丁重に断った。


 上白沢邸の客間。普段はそこにある筈の無い布団が敷かれ、客人として招かれた事になっている悠人は、そこで夜を明かす、


 つもりだった。


(それが、なんで、一緒に寝る事になるんだ……?)

「ゆーと……むにゃ……」


 一人用の布団の中には、しかし人が二人いた。悠人と、ルーミアである。

 明りを消して、いざ眠ろうと思いつつ布団をめくったら、そこに、別室で寝ている筈のルーミアが居たのである。どうやら明りを消した一瞬の間に忍び込んでいたらしい。流石は闇を操る妖怪と言ったところだが、悠人にはそれを素直に褒める気にはなれなかった。かといって、涙目で一緒に居たいと訴えてくる少女の願いを無下にすることもできなかった。結果、一晩だけ一緒に寝る事になった。

 本来は夜の妖怪であり、夜道で人を襲うのが仕事の様なルーミアだったが、慧音と関わってからは人間と変わりない生活を送る様になったらしい。「妖怪がそんなのでいいのか?」と訊いた悠人に慧音は「幻想郷だからな」と、分かるような分からないような答えを返したやりとりがあったことは余談。


(だが……まぁ、いいか、こんなのも……)


 たった一日だけだったが、ルーミアと過ごした時間はとても有意義で楽しかった。離れたくないという気持ちは痛いほど共感できるが、慧音に、もしかしたらルーミアにも、迷惑をかけるわけにはいかない。


 明日の別れを、今の満たされた気持ちで押し流し、

 腕に感じる、抱き付く少女の温もりを抱いて、

 悠人は幻想郷で、ルーミアと過ごす最後の夜を想う。




 こんな夜が、まだまだ続くとも知らずに―――




実は第一話からこの話まで繋がって第一話の予定でした。

長過ぎるので分割したけど少しアレですね。

次回、博麗神社の巫女登場。

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