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婚約破棄された悪役令嬢、『おばちゃん召喚』のスキルを覚醒する〜やけくそでスキルを発動させたら、優しくて粋なおばちゃん達が助けに来てくれました〜

作者: らいむ
掲載日:2026/05/23

「ミリア・ヴァンデンバーグ! 貴様との婚約を破棄する!」


きらびやかな王宮の夜会。

シャンデリアの眩い明かりの下、(元?)婚約者の王太子マキシミリアン・ヴァルモアが声を張り上げた。

その隣には、悲劇のヒロイン面をして寄り添う男爵令嬢の姿がある。

周囲の貴族たちからは、冷ややかな視線と嘲笑が私に突き刺さる。


(あ、これ、前世のネット小説で見たやつだわ)


頭をガツンと殴られたような衝撃と共に、私は前世の記憶を取り戻した。

ここは乙女ゲームの世界。

さらに言えば私は、ヒロインをいじめた罪(冤罪)でこれから国外追放、最悪の場合は処刑される運命の『悪役令嬢』だった。


(ま、マジですか…)


わたしが混乱している間にも、殿下は身に覚えのないわたしの罪を言い並べていく。


「身の程を知れ、ミリア! 衛兵、この邪悪な女を今すぐ捕らえよ!」


王太子マキシミリアンの指差し合図で、屈強な衛兵たちがガチャガチャと鎧を鳴らして近づいてくる。


(終わった。私の新しい人生、始まった瞬間にもう詰んだ)


その時だった。

私の頭の中に、無機質なシステム音声が鳴り響いた。


『――条件を達成しました。固有スキル【おばちゃん召喚】が解放されます。

初期パーティー枠に基き、説教属性の個体を同時召喚します』


(おばちゃん……!?  何よそれ、もうどうにでもなれ!)


私は半ばヤケクソになりながら、心の中で叫んだ。


(――助けて、おばちゃん!!)


ドォォォォン!!!


王宮の床が激しく震動し、私の足元からまばゆい「極彩色ヒョウ柄の魔法陣」が展開した。


「な、何事だ……!? この凄まじい魔力は!」


青ざめる王太子たち。

時空の裂け目から紫の爆炎が巻き起こり、伝説の魔王でも現れそうな圧倒的な威圧感が会場を支配する。

だが、霧の向こうから漂ってきたのは――『ツンとくるパーマ液の匂い』と『夕飯のコロッケの油の香り』だった。


ジャラアアァァァン!!!


地鳴りのような重低音とともに現れたのは、わたしの命運を握る(?)3人の女性。

と同時に、私の目の前にピコーン!と半透明のシステムウィンドウが出現した。

──────────────────

【召喚獣ステータス】


* 個体名:ヒョウ柄のキヨ(58)

* 属性:怒涛のマシンガン説教

* 称号:チャリの女王、特売の支配者      


* 個体名:パーマのよしえ(61)

* 属性:ネチネチ正論オカン説教

* 称号:ネギソムリエ、歩く常識


* 個体名:メガホンの轟さん(55)

* 属性:声量お化けの巻き込み説教

* 称号:メガホンボイス、下町のスピーカー

──────────────────


(待って待って待って、ステータスのクセが強すぎる!!! っていうか召喚()って)


私は目の前のウィンドウを二度見、三度見した。

異世界転生モノのチートスキルって、普通は『神竜』とか『大賢者』とか、もっとこう格好いい感じで載るもんじゃないの!?

『轟さん』って何!? 漢字一文字だけ無駄に強そうだし、システム画面にまで「さん」がついてるわよ!

呆然と立ち尽くす私の前で、さらに困ったことに、彼女たちは完全にただの迷子として状況を1ミリも分かっていなかった。


「……ちょお待って、ここどこよ!?  ウチ、激安スーパー『マツモト』のタイムセールの途中やねんけど!」


ヒョウ柄のキヨさんが手にしたチラシを握りしめて叫ぶと、横にいたパーマのよしえさんがそのチラシを横からガッと覗き込んだ。


「えっ、ちょっとアンタ! それ『マツモト』のチラシ!? 今日のタマゴ1パック98円のやつやんか!ウチもそれ並ぼ思ててん!」

「嘘やん、アンタも!? ……ってか、ちょっと、あそこのゼブラ柄の人(メガホンの轟さん)の持ってる大量のネギなんやろか? あの袋、庶民の味方『スーパーサンコー』やろ?」


二人に注目されたメガホンの轟さんが、パンパンの買い物袋を誇らしげに掲げた。


「せやで!『サンコー』、今日ネギ1本58円やったんよ! 奥さんら知らんかったん!?」

「「えええーーーっ!!! 58円ーーーっ!!??」」


ヒョウ柄のキヨさん、パーマのよしえさんの声が王宮に響き渡る。

初対面のはずの3人は、特売情報という最強の共通言語によって、わずか3秒で十年来のマブダチのように意気投合してしまった。


「嫌やわぁ、ウチらええ買い物仲間になれそうやんかぁ!」

「ほんまやねぇ! ウチ、キヨ。そちらは…よしえさんにとどろきさんな!」


ガシッと固い握手を交わし、一瞬で「スーパーのフードコート」の空気を作り出すおばちゃんたち。

緊迫した夜会の空気など、彼女たちの主婦ネットワークの前には1ミリも通用しなかった。


静まり返る会場で、王太子マキシミリアンが顔を真っ赤にして声を荒らげて威嚇した。


「な、何だこの下品な平民どもは! 衛兵、ミリアごとそいつらを今すぐつまみ出せ!」


その怒声に、ようやくおばちゃんたちの視線が王太子へと向かう。

と同時に、ヒョウ柄のキヨさんが私の涙目と、私のドレスの裾を踏みつけている衛兵の靴に気づいた。


「ちょっとアンタ、人にそんな尖ったもん向けたら危ないやろ! めっ! したらあかん! ……ん?  待ってや、そこの泣きそうな顔しとるお嬢ちゃん。どないしたん?  迷子?  誰にいじめられとんの?」


ヒョウ柄のキヨさんがズカズカと私に歩み寄ってくる。

パーマのよしえさんとメガホンの轟さんも、まるで我が子のピンチを見つけたかのように、ものすごい勢いで私を囲んだ。


「あの、私……ミリアって言うんですけど、身に覚えのない罪を着せられて、今ここで婚約を破棄されて、これから国を追い出されるところで……」


私が震える声でぽつりぽつりと説明すると、おばちゃんたちの「お節介魂」が爆発した。


「はぁあ!?  婚約破棄ぃ!?  証拠もないのにこんな大勢の前で若い女の子吊し上げとんの!?  嫌やわぁ、男の腐ったみたいなんが!」

 

ヒョウ柄のキヨさんの声が地鳴りのように響く。


「可哀想に、手ぇ冷たなって。……ていうかお嬢ちゃん、名前ミリアちゃん言うん?  あら、短うてかわいらしい名前やんか!  覚えたわ、今日から『ミーちゃん』な!  はい、これ食べ。ウチのポケットに入ってたパイン飴な?  剥いたるから舐めて元気出し」


パーマのよしえさんが、個包装をベリッと剥いた飴玉を私の手に無理やり握らせてきた。


「大体な、男が何人も集まってミーちゃんみたいなシュッとした娘さんイジメるなんて、親の顔が見てみたいわ! どいつや、どのアホが言うたんや!」


メガホンの轟さんが耳を突き刺すような大声で周囲を睨みつける。

おばちゃんずは、一瞬で状況を把握――いや、「目の前の可愛い女の子がいじめられている」という事実を理解し、一斉に最強の正義感(オカン魂)に火がついた。

頼もしい。


「あ、あそこの……金髪の人が、王太子殿下で……マキシミリアンって言うんですけど……」


私がパイン飴を口に放り込み、涙を拭いながら王太子を指差すと、3人の目がキラーンと光った。

ヒョウ柄のキヨさんがおもむろに腕を組み、パーマのよしえさんが指をパキパキと鳴らし、メガホンの轟さんが深く息を吸い込む。

青ざめる王太子の目の前へ、地響きを立てるようなド迫力で、3人のおばちゃんがズカズカと詰め寄っていく。


「ちょっとアンタら、さっきから聞いてりゃあ……耳の穴かっぽじってよー聞きァ!!!」


ヒョウ柄のキヨさんの第一声が王宮を震わせた。


「な、何なんだ貴様らは! 不敬であるぞ! 下がれ!」


王太子は声を震わせながらも、必死に王族としての威厳を保とうとしていた。

しかし、そんな紙切れよりも薄い権力など、大阪のおばちゃんずの前には何の意味もなさない。

まずはヒョウ柄のキヨさんが、王太子の鼻先に人差し指を突きつけた。


「不敬? 不敬ってなによ! アンタなぁ、自分が何言うてるか分かってんの? このミーちゃんがどんな罪犯したんか知らんけど、大勢で寄ってたかって、証拠もなしに若い女の子吊し上げとんのやろ!? それを『婚約破棄』?  どの口が言うとんねん、そのひん曲がった口か! 輪ゴムでパチンしたろか!」

「わ、輪ゴム……!? え、痛いのは嫌だぞ……っ!」


まさかの物理的な痛みを伴う脅し文句に、王太子は一瞬で動揺した 。

思っていたよりだいぶ打たれ弱いおバカ王子のようだ。

しかしヒョウ柄のキヨさんの口撃は、容赦なく加速していく。


「大体な、アンタその髪型も全然似合ってへんで! 金髪をそんなツンツン立たせて、何がしたいんや! 縦にも横にもうるさいわ! 色気づく前に、その頭に詰まってる目の前の国政の問題解決しぃ! 頭のネジ締め直してこい! ゆるゆるやぞ!!」

「えっ!? 似合ってないか……!? 結構イケてると思ってたんだが……。それに頭のネジだと? そんなものどこにあるんだ?」


王太子はショックを受けつつ、自分の頭をペタペタと触り始めた。

素直すぎる。

そこに、すかさずパーマのよしえさんがぬっと横から顔を出す。


「そうやで、プリンスちゃん。……ていうかアンタは名前長すぎるわ! マキシ…なんやて!?  呪文か! 長くて呼びにくいわ! もうアンタは今日から『マクド』や! ウチはそう呼ぶからな。で、マクド、アンタの横におるその小娘な、さっきから『可哀想な私』みたいな顔してベソかいてるけど、涙一滴も出てへんで? ウチは騙されへんからな」

「ひっ……! わ、私は、フランチェスカ・モリエールです! 下賤な平民に小娘呼ばわりされる筋合いは――」


男爵令嬢が頬を膨らませて言い返した。

その瞬間、パーマのよしえさんの眉間がピキッと跳ね上がる。


「……はぁ!? フラン、なんやて!? アンタも名前長くて呼びにくいわ!! 寿限無じゅげむの集まりかここは! 誰がそんなん一回で覚えられるかいな! 自分の名前アピールする前に、中身磨きなはれ! もうアンタは今日から『フゥちゃん』や! 文句言わんの!」

「ふ、フゥちゃん……!?」


あまりの理不尽な強制改名に、男爵令嬢フランチェスカが絶句する。パーマのよしえさんの追撃は止まらない。


「そんな無駄に長い名前ぶら下げて、人の男を横取りするような真似して、恥かしないんか? フゥちゃん! そんな暇あったら、もっと家事の手伝いでもしぃ! アンタ、爪が長すぎてお米も研げへんやろ? そんなカサカサの根性やから心までひねくれんねん! 親御さんはどんな教育してはんの、ほんまに。ウチが親やったら一晩中説教やわ」

「う、うぅ……マクド殿下ぁ……」


フゥちゃんがマクド殿下の袖にすがりつく。

だが、マクドもヒョウ柄のキヨさんの精神攻撃でキャパシティを超えかけており、助ける余裕がないみたい。

そこに最後の一撃として、メガホンの轟さんが深く息を吸い込んだ。


「大体なぁぁぁーーー!!!」


王宮のシャンデリアがガタガタと激しく揺れた。

スピーカーを通していない生の声とは到底思えない大音量だ。


「周りの貴族の連中も同罪やで! 何を遠巻きに見てニヤニヤ笑っとんねん! 人が困ってんねんから『どないしたん?』の一言くらいかけたらどないや! 綺麗な(べべ)着て、お高い酒飲んで、中身は空っぽか! アンタらの魂、スケスケやねん! 100均のゴミ袋よりうっすいわ!!!」


バシィィィン!! とメガホンの轟さんが空気を激しく叩くと、ソニックブームのような風が会場を駆け抜けた。


「ひゃうっ……!」


マクドはその凄まじい音圧に目を丸くし、トサカのような金髪をさらに逆立ててフリーズした。

だが、そこは一国の王太子。顔を真っ赤にしながらも、必死に胸を張って高慢な笑みを浮かべてみせる。


「ふ、フン! 下賤な平民どもが粋がるな! この僕が、証拠もないのにミーちゃんを悪者にしたとでも言うのか!? 僕は王太子だぞ! 完璧な僕が間違えるはずが――」

「間違えとるから言うとんねん! 往生際が悪いぞマクド!」とヒョウ柄のキヨさんが一喝。


「そうや、お顔を真っ赤にして、お耳まで茹でダコみたいになっておいでですのに、えらい強情な王様やこと」とパーマのよしえさんも呆れ顔だ。


「うっ……!」


突っ込まれて、マクドは完全に言葉に詰まった。

バツが悪そうに視線を泳がせ、きちんとお行儀よく正座すると、しゅんと肩を落とした。

高慢に威張ってみせた割に、自分の非を自覚すると一瞬でシュンとしてしまう 。

その姿は、まるでイタズラが見つかってショックを受けている大型犬のようで、妙に憎めない 。


「これに懲りたら、明日から真面目に働きなはれ! 分かった!?」


ヒョウ柄のキヨさんがそう締めくくると、ポケットから「黄金糖」を数粒取り出し、しゅんとしているマクドの口に無理やりねじ込んだ。


「ほら、泣かんの。飴ちゃんあげるから。……ええか、人間いっぺん失敗せんと分からんこともある。反省しぃや」

「モグモグ……。――ふん、下賤な平民の配る菓子など……っ!? ……うむ、なかなかうまいではないか。この僕が直々に認めてやってもよいぞ。……ふん、いいだろう! 緩んだ頭のネジとやらは、完璧なこの僕が本気を出せば一瞬で締め直せる! アンタに言われずとも、明日から国政の問題など朝飯前で解決してやる! 俺様自慢のこのヘアーも、僕の特権でもっと格好良くセットし直してやるからな!」


床に正座したまま、偉そうにふんぞり返ろうとしながら必死に飴を咀嚼するマクド。

おばちゃんたちのアドバイスを100%真面目に信じ込んでいる上に、プライドを保とうと必死な割に言動が素直すぎて、魂のスケスケ具合が加速している。

そのあまりの愛すべきおバカっぷりに、私は呆然とするしかなかった。


「ほな、ミーちゃん。これで問題解決やな。

よかったな。もう ウチらご飯の用意せんといかんで帰らなあかんけど……大丈夫やで。なんかようわからんけどな、アンタのそのスキルっちゅーの? ウチらの魂と繋がっとんよ 。ウチらの勘がそう言うてる。やから寂しい時、泣きそうな時は、いつでも心の中でウチらの名前を呼びぃや。時空なんかチャリで一瞬よ。何回でもすっ飛んできてあげるから」


ヒョウ柄のキヨさんが私の頭を大きな温かい手で何度も撫でる。

その手の温かさに、私の目から本当の涙がこぼれ落ちた。

前世の記憶を取り戻した直後、悪役令嬢として冤罪で断罪され、孤独に震えていた私の味方をしてくれた大切な人たち。


「ええか、ミーちゃん。アンタは何も悪うない。胸張って笑顔で生きなはれ。アンタの後ろにはな、ウチら大阪のおばちゃんずがついてるんやからな」


『ピーン。固有スキル【大阪のおばちゃんず召喚】の再召喚機能が有効化されました。必要時にいつでも再召喚が可能です』


脳内に、世界で一番頼もしいシステム音声が響き渡る。


「ほなな、ミーちゃん! ちゃんとご飯食べるんやで!」

「夜更かししたらあかんで! マクドも真面目にやるんやで!」

「ふ、フン! 言われずとも僕は完璧にやってみせる! だから……その、美味しい飴をもってまたこい……っ!」


頬を赤くして、そっぽを向きながら最後まで高慢に、でも彼なりにおばちゃんたちを見送るマクド。


3人は手を振りながら、まばゆいヒョウ柄の魔法陣の中へと溶けていく。

そして「シュパッ!」と光の速さで元の世界へと帰っていった。


後に残されたのは、私の手に握られた温かいパイン飴と、正座したまま「なかなか強烈なオババたちだったな」とツンツンしながら余韻に浸っているマクドだけだった。


私は飴を口に放り込み、ため息を交えながら前を向いた。


「ふふっ。……うん、いつでもおばちゃんたちが来てくれるなら、私、もう寂しくないわ」


こうして、国家権力はおばちゃんずに完全敗北した。


殿下の望み通り(あくまで穏便に)婚約を解消したわたしは、実家の領地に帰ることにした。


悪役令嬢としての破滅フラグなんて、もうどこにもない。

私には、時空を超えていつでも味方してくれる、世界で一番温かい「最強のオカンたち」がついているのだから。

これから起こる未来にわたしはワクワクと胸を躍らせるのだった。










いつも作者の作品はシリアスばかりなので、今回はギャグに極ふりしてみました。


読んでくださりありがとうございました。

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