【1-3】 小覇王――虚像と実像と
【第1章 登場人物】
https://ncode.syosetu.com/n6599md/3
【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編
帝国暦383年9月――ヴァーガル河流域会戦からさかのぼること1年と少し前――ブレギア国中が喪に服していた。
偉大な国主・フォラ=カーヴァルの死に、領民たちは悲しみに暮れていた。
彼によって取り立てられ、帝国亡命前より苦楽をともにしてきた宿老たち――バンブライ、ブイク、ナトフランタルらの悲嘆は小さなものではなかった。
国主の棺の横に泣き崩れ、陵墓の前に嗚咽を止めることができなかったほどに。
帝国軍のヴァナヘイム領侵攻に伴い、彼らは西のアリアク城塞に長らく詰めており、主人の臨終には立ち会えなかったのである。
帝国皇帝の八男として生まれたフォラは、蒼き草原を領するカーヴァル家に養子として送り込まれた。
実子のいない有力貴族の下に子弟を派遣し、その家を相続させる――帝室による権力拡張の常套手段である。
フォラの才気は本物であった。15歳で養家を継ぐや同地域をたちまちまとめ上げ、カーヴァル家は本土においても帝政の重責を担うようになっていく。
フォラの義気に厚く面倒見の良い性格も手伝って、同家は反体制派貴族たちの拠り所となっていった。帝国内を牛耳りはじめていたネムグラン=オーラム一派との衝突は、必然であったといえよう。
帝国暦372年、カーヴァル派とオーラム派の衝突は、本土・東岸領かかわらず、大小領主を分け隔てなく巻き込んだ。
そして、カーヴァル派は敗れた。
第1部【9-11】麒麟児 下
https://ncode.syosetu.com/n8102if/151/
多くの貴族がカーヴァル家の掲げる「義」ではなく、ネムグラン家のもたらす「利」を選んだ。
帝都を追われたフォラは、大切な臣下や愛する家族を多く失い、イーストコノート大陸北端の地へ落ち延びていった。
だが、草原の地に生還したフォラは、再び立ち会がる。
彼はこの地で土着の抵抗勢力を平らげると、周辺諸国の侵攻はもちろん、帝国の討伐軍までも撥ね除けることに成功した。
独立国の礎を築いた彼は、いつしか「小覇王」と呼ばれるようになり、隣国は恐れ、各国新聞は褒めそやした。
そうした歴史的偉業の代償として求められた生命エネルギーは、途方もない量だったのだろう。もともと頑健ではなかったフォラの肉体は、軍馬を押し出し軍刀を振るうごとに病み衰えていった。
紺色の外套をまとい、左肩に大袖、右腰に草摺りを揺らして闊歩する――堂々たる彼の姿は、新聞各社が仕上げた虚像であり、武断の色強き異民族の地を統べるための厚化粧であった。
そうした「小覇王像」に慣れ親しんだ者からすれば信じられぬことだろうが、その言動は物腰柔らかく、ややもすれば優柔不断な一面が軍政両面で多々見られたほどである。
ちなみに、フォラの人生は晩年を含め、病床で過ごした期間の方が長い。
何より、彼は己自身や家族よりも領民や家臣たちを常に慮る傾向にあった。
オーラム家との政争に敗れ、帝国からの逃亡のさなか、一行は食糧に欠乏した。
その折、フォラが毎日・朝昼晩と己の食う分をバンブライ、ブイク、ナトフランタル、ラヴァーダら臣下たちに順を追って与え続けたという逸話は、虚構ではない。
譜代の臣下たちは、彼の虚像などではなく、実像に接して惚れ込み、主人を「放っておけない」・「支えねば」と、戦場では鬼神のごとき活躍を示していった。
つまり「小覇王」は、臣下たちの忠誠によって生まれたと言っても過言ではないだろう。
領民や家臣からこよなく愛されたフォラであったが、ブレギア国の礎を築くまでが精一杯であり、これ以上彼の身体はもたなかった。
最後は生命エネルギーを絞り出すようにして戦場に臨んでいったが、長くは続かなかった。それらをすべて使い果たすや、45歳という若さで永久の眠りについたのである。
第1部【12-1】草原の御曹司 1
https://ncode.syosetu.com/n8102if/232/
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
小覇王の実像を知り、より親近感を覚えられた方、このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。
彼の後継者・レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます。
【予 告】
次回、「閃光粉」お楽しみに。
「お父君の遺志をどのようにして引き継がれていかれるおつもりですか」
「ブレギアの今後の展望について、先代から御遺言などはもたらされたのでしょうか」
「ホーンスキン将軍が、新国家構想を語られておりましたが、その辺りはお聞きになっているのでしょうか」
たまらず、ドーク=トゥレム、ムネイ=ブリアン、マセイ=ユーハ、ダン=ハーヴァら若君の補佐官たちが、記者の一団を食い止める。




