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航跡 ブレギア国興亡記  作者: 秋山 文里
第1章 ヴァーガル河の戦い

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【1-31】 老獪――戦場の呼吸を読んで 下

【第1章 登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n6599md/3



【地図】 航跡 ヴァナヘイム ブレギア国境 第2部

挿絵(By みてみん)



 帝国暦384年10月下旬、ズフタフ=アトロン大将率いる帝国軍後詰は、ヴァーガル河の手前20キロの地点にさしかかった。



【10月26日8時】ヴァーガル河の戦い 地図①

挿絵(By みてみん)



 河畔には、先の戦闘でブレギア軍に敗北を喫した味方が留まっている。親鳥を求める雛《ひな》のように打ち震え、一刻も早い来援を求めてきた。


 しかし、この老練な将軍は、すぐに合流することを避けた。初戦に勝利し士気高まる騎馬民族と、真正面からぶつかることを避けたのである。


 帝国軍の後詰は、見かけこそ大軍であるものの、その多くが募兵したばかりの寄(・)せ(・)集(・)め(・)であることを、彼は心得ていた。



 アトロンの目論見は的中した。後詰を遠方に布陣させることで、見事にブレギア軍の熱気を往《い》なすことに成功したのである。



【1-18】 形勢逆転 上

https://ncode.syosetu.com/n6599md/23/



 もう大丈夫と言わんばかりに、親(・)鳥(・)は雛(・)鳥(・)を河畔に残して踵《きびす》を返した。



【11月5日23時】ヴァーガル河の戦い 地図②

挿絵(By みてみん)



 雛(・)鳥(・)は親(・)鳥(・)を求めて鳴かなくなっていた。この先の展望――親(・)鳥(・)が舞い戻って来たあと、雛(・)鳥(・)の振舞うべき方法について、書状をもって言い含めておいたからだ。



 帝国軍後詰が旧都に引き揚げた――と、ブレギア軍首脳部は信じた。


 アトロンは、頃合いを見計らって進路を南へと改めた。帝国軍後詰は、夜陰に紛れての迂回に成功する。



【11月6日3時】ヴァーガル河の戦い 地図③

挿絵(By みてみん)



 月齢を計算した上での行動である。幸運にも夜空を覆う雲は厚みをなし、星々の姿も隠していた。


 周囲は完全な闇である。


 この日は3メートル先も見えず、事前に木々へ結びつけておいた目印を、先行隊は危うく見落とすところであった。


 将兵にはいかなる発声も禁じ、馬には枚(ばい)を噛ませて進んでいる。しかし、人間のしわぶきや、馬匹の鼻鳴りまでは皆無にできない。


 ブレギアの斥候騎兵に追尾されていないか――帝国将校にとって、気が気ではない暗夜行軍が続いた。



【1-23】 闇夜の行軍

https://ncode.syosetu.com/n6599md/28/



 作戦行動を秘匿《ひとく》するため、この間、各国の新聞記者や観戦武官は戦地から遠ざけられた。そのため、アトロンが急拵(ごしら)えの軍隊に夜行軍を成功させたという驚嘆すべき事実は、周知されずに終わる。



 こうして、ヴァーガル河下流に回り込んだ帝国軍後詰は、備えの薄かったブレギア軍最左翼を急襲したのである。



【11月8日5時】ヴァーガル河の戦い 地図④

挿絵(By みてみん)



 形勢判断が「帝国優勢」となりながらも、アトロンはすぐにヴァーガル河を越えようとしなかった。


 数日間、舟筏《ふないかだ》を拵《こしら》えて過ごし、河辺を霧が包み始めた頃合いをもって、それらを一気に漕ぎ出させたのである。



 ブ軍左翼のブイク・ナトフランタル両将軍による反撃に、序盤こそ大きな損害を計上したが、アトロンが渡河を敢行させた軍勢は5万にも及んだ。



【11月10日6時】ヴァーガル河の戦い 地図⑤

挿絵(By みてみん)



 数の多さに油断することなく、帝国軍は徐々にブレギア両宿将の部隊を弱らせていった。むしろ慎重過ぎるきらいこそ見せながら。


 だが、ブレギアの宿将たちとの戦いは、あくまでも作戦の一過程に過ぎない。


 河畔の敗残兵に帝国軍本軍を釘付けにさせると同時に、制圧した最左翼を起点に一挙に対岸を北上――ブレギア本軍へ側面から決戦を挑む。



 アトロンの描いたシナリオは、仕上げに差し掛かろうとしていた。




【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


地味だけど優秀なアトロン老将が好きな方、このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。


アトロンが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます。



【予 告】

次回、「遠雷 上」お楽しみに。


帝国軍総指揮官・ズフタフ=アトロン大将の起床時間は早い。毎日夜明け前には身支度を整えている。


この日も、軍服を襟元まできちんと締め、軍支給のパンだけという簡素な朝食をもそもそと食べ終えている。食後は、角砂糖を1つだけ沈めた珈琲を口に運びつつ、書物に目を通していた。


11月14日、対岸の異変に帝国総指揮所で最初に気がついたのは、この早起きの老大将であった。

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