【1-12】 会議後――御親類衆
東の隣国・シイナより侵攻の気配あり――急報に接し、ブレギアの国政会議は一時散会となった。
国政の間を退出した御親類衆は、その筆頭・ウテカの執務室に青ざめた顔を並べていた。
豪壮なシャンデリアに色調強い巨大な油彩、それに獰猛な海獣の剥製など、けばけばしい内装・調度品をもってしても、末弟・スコローンの顔色は冴えない。
「い、急ぎ、ご子息・ケルトハ様やバンブライ将軍にお戻りいただきましょう」
「い、いまさらそんなことはできん。帝国側も我らの動きに呼応して、兵を動かしはじめている」
末弟の提案は、袖を汚したままの次兄・ブランによって即座に却下された。
下手をすれば、旧ヴァナヘイム領より帝国軍の侵攻を招きかねなかった。
ブレギアは、これまで東西から一斉に攻め寄せられたことがない。
宰相・ラヴァーダは、
西のヴァナヘイムと銃弾を交換する際には、東のシイナと手を結び、
東のシイナと剣を斬り結ぶ際には、西のヴァナヘイムをなだめ、
そのうえで自軍を動かした。
50以上の民族が広大な国土にひしめくシイナに対しては、民族同士の対立を煽ることで足止めした時には、各国の軍事・外交関係者をうならせた。
軍事とは、そうした外交や調略の機微も含めての駆け引きであることを、この部屋に集った者たちは心得ているはずだった。
だが、実践することの難しさは別次元の話である。
「ラヴァーダにシイナを迎撃させるしかあるまい」
動揺する御親類衆を鎮めたのは、この部屋の主であった。その声は落ち着きを取り戻していた。
「あの目障りな宰相を、追いやる良い機会だ……」
宰相殿なくして、帝国相手に戦果をあげることこそ肝要ということだ。ウテカの痘痕頬の上にある両目には、脂っこい光沢が宿っていた。
「なるほど」
「さすがは、ジャルグチ様」
幾分かの冷静さを取り戻した御親類衆は、一斉に首肯した。血の気を取り戻しきれない顔色のまま。
ブレギアの歩く戦術書なくして対帝国戦で勝利を得る――それが、国内外からの権威と名声、一挙両得の効果があることについて、この部屋に疑う者はいなかった。
また、程度の差こそあれ、誰しも心のどこかにやましい何かを抱えているものである。
昨年まで行われたヴァナヘイム支援に際して、ラヴァーダは各地の領主たちに戦費負担に応じた救済措置を講じてきた。戦傷を負った者、戦死した者の遺族には、国庫から補償も施している。
ところが、同制度を良いように利用し、私腹を肥やしてきたのは、他ならぬこの部屋の者たちなのだ。
第1部【12-8】君臣師弟
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宰相殿は、先の先までいつもお見通しであった。そうした存在に、御親類衆はみな、腹の底を常に見透かされているような、ある種の薄気味悪さすら感じていた。
だから、宰相殿には、少しでも……出来れば可能な限り距離を置いてほしいものなのだ。
目前に迫った危機への確実な対処に加え、権威と名声、さらには精神的安寧《私腹肥やしの隠蔽》を一度に得ることができる――。
キアン=ラヴァーダをトゥメン城塞に差し向けることは、一石三鳥ともいえる。
ウテカの提案について、御親類衆は歓迎したのであった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
結局、宰相殿に頼るのか、と呆れてしまった方、このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。
ブレギア家臣団が乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます。
【予 告】
次回、「【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部」お楽しみに。
第2部のすべてが詰まった地図が広がります。
お見逃しなく!




