8話「俺にできること」
病院を出たものの、家に帰る気力がなく他の場所へ向かう。
あまり人がいないちょっとした丘。
自分の中で1人になりたい時にいつも行く場所。
小さい頃は今と目線が違うから、それはそれは大きな山だと思っていて、海音と一緒に冒険隊ごっこをしていた。
まだ海音が活発だった頃の話。
あの時はこんなことになるだなんて思いもしなかった。
丘の上はちゃんと整備されていて、町を見渡す展望台やベンチ、ちょっとした遊具もある。
なぜここに人が来ないのか正直に言ってわからないほど充実している。
「ふぅ」
展望台の柵に寄りかかって一息つく。
やっぱりすごく落ち着く。
あの時もここに来て、自分を落ち着かせていた。
だから、今日も落ち着けると思っていた。
けど……、
「手術受けるって言ったでしょ。ほら、あいつの死は迫ってる」
「っつ、うるさいな。1人になるためにここに来たのに」
なぜかついてきているアラタ。
「わかって来てるんでしょ。あいつは死ぬって」
「黙れよ!」
海音の底から込み上がった怒りをアラタにぶつける。
「ふーん。見捨てるんだ」
「……!そ、そんなんじゃ」
「わかってるよ、お前にそんな余裕ないって事。でも孤独なままあいつは死ぬぞ」
「………………」
本当にうざい。人が嫌がることを的確についてくる。
「はぁ。とりあえず海音のこと『あいつ』って呼ぶのやめて」
「ん。で、今お前が海音にできることはなんだ」
「できること………?」
急に聞いてくるアラタ。
「できることなんて………」
どの道を選んでも海音が死んでしまう事は変わらない。でもただの高校生の自分に何ができるって言うんだ。
「人は死に近づきながら生きる存在。死ぬ時は死ぬ。その時が来たらもう死からは逃れられない」
アラタが現実を突きつける。
「海音が、これからも生きる方法はないの?」
それでも自分は現実から逃げる。絶対に認めたくない。
「ない。…と言いたいとこだけどあるっちゃある」
「え?」
ガバッと顔を上げ、アラタを見る。
「まぁ教えねぇけど」
「なんで!………」
アラタに思いっきり歯向かう。
「………お前が分からないからだよ。俺が言いたいことが」
「え?………」
「それが分かるまで一生教えない。まわりが見えないやつだな」
アラタの言っていることがわからない。言いたいことって何。
これまでの会話を振り返ってみる。
「できること………」
アラタが言ってた『俺にできること』。
もしかして自分ができることがわかれば教えてくれるってこと?
「俺にできることって何?」
「だからそれを自分で見つけろって言ってんの。そんなこともわかんねぇのかよ」
「そんなんことって………」
「考えておけ。期限は迫ってる」
アラタはそう言ってどこかへ行った。




