3話「甘えないの?」
……くそ、無かったことにしようとしたのに。
「俺、お兄ちゃんだよ、かわいい弟が甘えてくれるなら本望だよ」
「なんでそういう時だけお兄ちゃんぶるの?」
なんとなく聞いてみた。特に理由もなく。
「!…………」
海音はびっくりした表情になったあと、スッと大人な表情になった。
聞いちゃいけないことだったかな。
後になって焦り出す。深刻な質問ではないと思っていた。
「……決まってるじゃん」
口角を上げ、にこりと笑顔を浮かべる。
「いつも俺が迷惑かけてばかりだから。今みたいにお兄ちゃんになれる機会ってあまりないでしょ」
さっきまで苦しそうだったのが嘘のように饒舌に喋る。
「迷惑だなんて思ってない、海音のことが大切だから」
力なくベッドの上に置かれている手を取り握る。
「ううん、迷惑だよ。病気さえなければ入院することも、治療も手術も、何も無かった。学校にも行けたし、普通の生活を送れた。家族との思い出も、もっといっぱいつくれた……。なのに?」
「うん。たしかにそうかも知れない。でも俺が一番許せないのは何もしていない海音が、病気で苦しんでいることだよ!それが一番嫌」
「朝陽…………」
目を潤ませ、ジーンときたとでも言うように目を合わせてくる海音。
「ところでさ、普通に喋れるよね」
「あは、ばれた?」
てへ、っとお茶目っぽい笑顔を見せる海音。
「いやわかるよ。普通そんなに喋れないでしょ」
「そっかぁ、そうだね。俺よりも苦しんでいる人はたくさんいるもんね」
苦しんでいる人………。
「…………」
「やだなぁ、そんな顔しないでよ。ほらおいで」
海音は朝陽の頭を撫で、両手を広げる。
「…………」
朝陽は無言で海音の腕の中に入る。
「大丈夫だよ。朝陽は苦しまなくていい。ここにいる人たちは普通に暮らしている人を妬みなんかしない。憧れているとは思うけどね」
………見抜かれてた。
海音よりも苦しんでいる人がいることぐらい分かる。でも朝陽からしたら海音も充分苦しんでいると思う。
そんなことを考えたら、なに不自由なく生活している自分が申し訳なく感じた。
「逆に、病気だから可哀想みたいな目で見られるのが一番嫌だから。苦しいし辛いけど一生懸命生きて、頑張っているんだから。人それぞれだけど、俺は病気だからって幸せじゃない人はいないと思う。俺もこの体だからって不幸だと思ったことはない。申し訳なくなるだけで」
朝陽を抱きしめ、頭を撫でながら海音が言う。
「海音…………」
自然と海音の名を呟き、胸元に頭をぐりぐりと押しつけながら海音に言った。
「海音も、甘えたいときは甘えてね」
「!……うん!」
海音は嬉しそうに答え、朝陽の頭を撫でる手を早めた。
「海音くーん、熱測りますよー」
『あ………』
看護師さんを見た朝陽たち、朝陽たちを見た看護師さん。
三人の声が綺麗にハモった。
「あ、ちょっとお取り込み中でしたね……」
「ち、違います!」
「違わなくないよ。熱測るなら朝陽から離れなくてもいいよね?」
長年の付き合いか、やけに看護師さんと仲良しな海音。
「結果が変わるかも知れないから、一応離れておいてね。あと、朝陽くんに会うのはいいけど、安静にする約束じゃ……」
「あ!さ、さっきまで安静にしてました!」
「え、海音そんなに症状悪かったの!?」
「なるほど、安静にしてなかったのね」
「あ、あさひー…………」
なんでバラすのー、と海音が訴えかけてくる。
あ、無意識に言ってしまった。
「ふふ、二人とも本当に仲良しね」
「それほどでも」
そんな海音を見て結局元気なのか、元気じゃないのか分からなかった。




