2話「弱っていく体」
「え!?いいんですか!?」
「はい。今日は症状も良くなってますし面会の許可も降りてます」
「あ、ありがとうございます!」
流石に病院で走ってはいけないので少し早歩きで海音の病室へ向かう。
コンコン、とノックをすると「はい」と掠れた返事が聞こえた。
え?と思いつつも病室のドアを開ける。
「あ、朝陽…久しぶり」
耳をすまさないと聞こえない声。
「海音!大丈夫?声……」
海音はホワイトボードを持っていて、そこに字が書かれていた。
『ごめん声出すの辛くて』
「あ……」
さっきの声は振り絞って出した声なんだ。
『久しぶり元気だった?』
ちょっと曲がった字が朝陽に問いかける。
ペンを持つ海音の手は少し震えていた。
「元気だよ。海音は………」
薬のことを聞こうとしたが、聞いていいかわからなくて口を噤む。
『辛いけどなんとかなってる』
『でも前の時よりきつい』
前の時、中学生になる前だ。あの時も同じ様に選択を強いられた。
副作用が強い薬を投与するかしないか。
でもあの時は少し違った。薬を乗り越えれば学校生活を送れる。投与しなければ、乗り越えられなければ入院生活が長引く、というものだった。
副作用に苦しむ海音は見ていられなかった。でも退院の許可が降りた時には喜んだ。
感情がぐちゃぐちゃになって泣き出してしまった朝陽を、海音は頭を撫でながら抱きしめてくれた。
この時はまだ朝陽の方が小さかったから海音の肩に頭を埋め泣き喚いた。
一番嬉しくて泣きたいのは海音なのに、泣いている朝陽のために兄っぽくしてくれていることは分かっていたけど、無性にこの優しさに甘えたくなって目一杯甘えた。
でも、今は違う。
優しく撫でてくれた大きな手も、暖かく抱きしめてくれた体も今はない。
痩せて細くなった手、体、頬。
背も成長期がこないまま止まって、いつの間にか朝陽の方が大きくなっていた。
『朝陽大丈夫?』
いつのまにか海音はホワイトボードに文字を書いていた。
「ああ、大丈夫だよ」
『ほんとに?』
「ほんとだって」
「泣いてるよ……」
「え?」
プルプルと震えた手が朝陽の頰を撫でた。
「無理、しなくてもいいのに」
優しく海音が声をかける。
「無理、なんて……」
していない、と言おうとしたが自分でもどうかわからなくて口を噤む。
「辛かったら頼っていいんだよ。お父さんとかお母さんにも甘えてみたら?」
「そんな、子供じゃないんだから……」
「俺からしたら子供だよ」
「………双子なのに?」
「ふふ、そうだよ」
にっこりと笑いながら海音が言う。
「……だったら、海音に甘えたい」
「ふぇ?」
「ああ、もう喋らないできついでしょ」
「まぁ、きついね」
「じゃあもう喋らない。布団もちゃんとかけて、ほとんどかかってないじゃん」
そう言って布団をかけ、形を整える。
「………朝陽、甘えないの?」




