17話「醜い心」
「え……?」
自分と朝陽の寿命を交換した?朝陽の寿命を背負う自分は、何があっても"その時"までは死ねない……。
「はぁ、ここまで話してもまだ自殺しようと思うのか」
「…普通に生きるよりも、いつ死ぬかわからない日々のほうがずっと長かったから、別に」
「なんで嘘をつく。死ぬのが怖いからお前は屋上から飛び降りなかったんだろ」
やっぱり、お見通しなのか。テレパシーでも備わっているのかもしれない。
「……朝陽のせいだよ。朝陽が……朝陽が俺に生きてほしいって、言ったから」
別に、いつ死んでもいいと思っていた。
病気とずっと戦うくらいなら、いっそのこと楽にしてほしいなんて思っていた。
そう思い始めたのは、中学校で倒れた時。
卒業式の練習中に息がしづらくなって、そのまま倒れた。
意識を失い、目を覚ました時には病院に居た。
すぐに気づいた。小学生の時に入院していた病室だって。
すごくショックだった。やっと普通の生活を送れると思っていたのに、結局逆戻りになってしまった。
その時から言われていた。薬のことも手術のことも。
それは自分自身の体調に左右されるもの。病状が悪化すれば薬を、薬で完治できないほどに悪化すれば手術。
でも、朝陽には話せなかった。
いつもお見舞いに来てくれて、元気づけさせてくれる、唯一の弟。
体調が悪くても隠していたつもりだけど、朝陽はきっと見破っていただろう。
別に死んでもいいと思っているのに、朝陽といると生きていたいと思ってしまう。
なのにいつも元気な朝陽を見ると嫉妬をしてしまう。
なんで双子なのに、海音と朝陽ではこんなにも違うんだろう。
こんな醜い感情を抱く自分が大っ嫌いだ。でもことあるごとに朝陽を頼る。
その度に朝陽に『生きてほしい』と願われ、海音の目標は『生きる』ことに変わる。
でもそれは一時的なもので、朝陽が帰った瞬間後悔に襲われる。
『死んでもいい』という思いを朝陽の前では蓋をして、『生きていたい』と願う兄を演じる。
でも、朝陽といると演じていた気持ちが本当の気持ちへと変わってしまう。
生きていたい、生きていたくない、死にたい、消えたい、生きたい。
感情がぐちゃぐちゃに絡まっていって、頭がおかしくなる。
その気持ちが、手術の話をされた時ピークを迎えた。
『もう、楽になりたい』
初めて朝陽に伝えた本音。
もうどうでもよかった。病気も手術もこれからも。
だからせめて、朝陽に最後を託したかった。
でも、朝陽は叫んだ。死んじゃダメだって。
その時初めて気づいた。
自分がどれだけ朝陽にとって辛いことを言ったか、命を軽くみていた罪の重さが。
今ならわかる。自分の醜さと朝陽の気持ちが。
朝陽はずっと怖かったんだ。いつ取り残されるかわからない日々。
その恐怖をずっと抱えたまま、海音に笑顔を見せていた。
そんな朝陽の優しさを、朝陽が生きている時に気づけなかった。
だから、死のうと思った。
取り残された者の底知れない恐怖。その恐怖は一生拭えないもの。
いやだ、やめて、いかないで。ひとりにしないで、おいていかないで……。




