10話「取引」
「海音は、これからも生きていける?」
また丘でアラタと話す。
「幸せだろ?あいつは」
「え?」
思わぬ返事がくる。そもそも質問の答えに合っていないけど。
「お前は俺が海音の余命宣言をしてから、海音との思い出をたくさん作った。それは海音も同じだろ。死ぬ前に楽しい思いができて海音は幸せな気持ちで命を落とす。これ以上いいことはある?」
「……ない」
海音の死は決定づけられているもので変えることはできない。
でも海音が死ぬまでの日々は変えられる。
だから、死のタイムリミットまで海音に幸せな日々を送らせろ。
それがアラタの言いたかったことなのだろう。
「……わかったみたいだな」
ふっ、とアラタが笑う。
「じゃあ、約束通りに」
アラタが地に足をつけ、ぐいっと顔を近づけた。
「………別にいい」
「あ、そう」
本当は喉から手が出るほど欲しい。
海音が生き延びる方法を。
でも、そんな悪あがきをしていいのかとも思う。
海音が生きるということは、この世界の未来を変えること。
それを簡単に実現してもいいだろうか。
運良く死神が見えるだけで大切な人の運命を変えるなんて、大切な人を失った人にとって憎いと感じる存在だろう。
でも、海音が生きる道を……知りたい。
「……教えてやるよ。知りたいだろ本当は」
「……知りたいです」
正直に答えた。なんとなくアラタに思考を読まれている気がするから。
「……素直なやつだな。海音が生きるためにすることは簡単だ」
ごくりと唾を飲み込む。
「……俺と取引すればいい。死神が見えるお前がな」
「何を……?」
「一人の命を救うということはそれ同等の代償が必要」
「代償?」
「あぁ。代償は………の前に、お前はこの取引をしようと思っているのか?」
アラタが問いかける。
確かにそうだ。方法だけ知ろうとしてどうするかは決めていない。
でも、ほとんど答えは決まっているようなもの。
代償がどんなものだったとしても。
「うん。取引する前提で聞いている」
「そうか。代償は……」
アラタが言葉を発する。
想定内の代償だった。
大丈夫だ。あの数分で自分はその覚悟ができていた。
「うん。ちゃんと代償を払う。だから、海音を救って」
アラタの目を見て真剣に答える。
今までで一番の覚悟と勇気を持って。
アラタは諦めたように視線を逸らす。あまり見たことない表情だ。
その後いつものむすっとした表情に変わった。
「……交渉成立」
アラタはそう言って手を差し出す。
朝陽はその手を強く握った。




