1.兄は異世界
「お兄ちゃんなんてもう嫌いッ!!」
「あぁ良いよ!もうお前とは一緒に居られねぇわ!!」
俺は玄関のドアを強く閉めて外に出た。
妹と喧嘩をしてしまったが、反省はしていない。
喧嘩の始まりは、妹が大切に取っていた限定品のプリンを俺が食べてしまった事が原因だが、そんなの説明して貰わないと分からない。
限定品というのも喧嘩中に知った事だ。
もちろん俺に非が無いとは思っていないが、普通はプリン一個であんなに怒るかね。意味不明だ。
まぁ、しばらく距離を置いたら妹の機嫌も直るだろう。
そうやって歩いていると、目の前で小さな男の子が道路を横切ろうと飛び出した。
(危ないなぁ。)
なんて思っていると、少し先から猛スピードのトラックが走っているのに気付いた。
誰がどう見ても、あのままだと男の子が轢かれてしまうのは確実だった。
死にたくない。けど、俺が動かないと男の子は死んでしまう。でも死にたくない、でも助けなきゃ。
周りの時間が止まったように、思考が高速で巡る。
だがその瞬間、俺の身体は既に男の子を突き飛ばしていた。
(あー、やっちまった。)
もう引き返せない。俺は数瞬でトラックに吹き飛ばされるだろう。
だが、トラックのボンネットは目と鼻の先にあるのに、進むのが極端に遅く感じる。
これが噂に聞く「死の直前は時間がゆっくり進む」というものだろう。
人生の中でいつかはゾーンに入ってみたいと思っていたが、こんな所で発動したらただ絶望する時間が長くなるだけだ。
死ぬのが遅くなっている間に、走馬灯が脳内に流れ込んでくる。
そういえば、妹とはいつも喧嘩してたな。
一緒に笑い合ったこともあったが、その倍は喧嘩していた。
周りからは仲が良いと散々言われたが、こっちは本気で喧嘩していたのだから、そんなの関係ない。
あのうるさい声を聞けないと思ったら、どこからか寂しさが湧き上がった気がしたが、気のせいだろう。そうだと思いたい。
一通り一生の振り返りを終えた所で、俺は目を瞑った。
その瞬間、体験した事の無い衝撃が全身に走った。
激痛が襲いかかり、俺は勢い良く吹き飛ばされた。
それと同時に意識も消し飛び、何も思う間もなく即死した。
………
「はい、起きてくださ〜い。いつまでも寝てたらだらしないですよ〜。」
突然誰かの声が聞こえた。
俺は声に従い、ゆっくりと目を覚ます。
すると、目の前には可愛らしい少女が俺の顔を覗き込んでいた。
少女の身長は140代位だろうか。
腰まで伸びた艷めく銀色の髪に、煌めく空色の瞳。
自称女神というだけあって、その人間離れした容貌にしばらく魅了された。
「君は…」
「あ、起きましたね。こんにちは、諫早 玲御さん。私は女神のルルアと言います。ここはそちらの世界では、あの世と呼ばれる場所ですね。」
何となく想像してはいたが、いざ死んだとなると実感しにくいものだ。
俺は上体を起こし、話を繋げる。
「そうか、俺死んだのか。まぁ死ぬ前に一つぐらいは良い事出来たかな。」
「そうですね、子供を守って死ぬ。実に感動的な最後でした。そこで、そんな勇気あるあなたに一つ提案があります。あなた、異世界に興味はありませんか?」
「異世界?まぁ、面白そうとは思うけど。」
「フッフッフ、聞いて驚かないでくださいよ?なんとあなたを、その異世界に転生される事に決まったんです!!」
異世界?転生?正直言って、そんなに興味は無い。
なんだかんだ言っても、俺は今の世界が好きだ。
アニメやらで見るのは面白いが、いざ自分が行くとなると話は別だ。
「嫌です。」
「ん?聞こえて無かったのかな。もう一度言いますよ?なんと、あなたは異世界に転生出来るのです!!」
「いや、聞こえてたし。その上で興味無いです。」
「なんでですか!こういうのって男の子の夢ですよね!!」
「そんなの言われても知らねぇよ!もっと他に、生き返るだけとか無いの?」
「あるけど、ダメです。」
「ダメってなんだよ!!神様の世界に自己決定権は無いのか!!」
「無いです!」
当然かのように言いやがった。
「とにかく、これは決定事項です!あなたがどれだけ嫌がろうと、強制的に転生させます!」
そう言うと、ルルアは指をパチンッと弾く。
すると、突如として俺の足下に黄色の魔法陣が現れた。
「ちょ、待て待て待て!いきなり展開早すぎんだろ!!俺は絶対に異世界になんか行きたくないぞ!!」
魔法陣が眩い光を放ち始める。
「もう遅いですよ。安心してください、言葉は通じるようにしてあるので。それでは、良き異世界ライフを!」
ルルアがニコッと笑う。
「この人でなしぃぃ!!」
「女神ですから。あ、あとスキルはランダムで付与されるので、楽しみにしてくださいね。」
俺は光に包まれ、魔法陣と共に異世界に飛ばされた。




