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ハニーテイスト

作者: 西順

 二人の男子高校生AとBは、学校帰りにファミレスへと寄った。理由はBから話があるからと誘われたからだ。二人は親同士が昔から親交があった事もあり、生まれた時からの付き合いで、親友や腐れ縁と言うよりも、もう家族と言える仲だ。


「んで?」


 ボックス席に着くなり、メニューが表記されたタブレットを取り出し、Aはその視線をメニュー表に落としながら、Bの話を聞く素振りもそこそこに、何を頼もうかしか考えていなかった。


「他人の不幸は蜜の味って言葉あるだろ?」


「そうだな」


 素っ気ない態度でメニュー表をスライドさせていくA。


「俺んち、今度親が離婚するんだとよ」


「はっ!?」


 いきなり重い話題をぶっ込まれて、Aも思わずメニュー表から顔を上げてBを見るも、その顔は眉をハの字にした困惑顔だ。B自身、まだ自分の中でこの問題を消化出来ていないのだろう事が窺えた。


「何で?」


「浮気」


「どっちが?」


「両方」


「…………」


 それじゃあ離婚も仕方ない。とAでも分かる。Bにしても、誰かに話を聞いて貰わないと、自分だけではこの問題を抱えきれないから、今日Aをファミレスに誘ったのだろう。


「それはそれは……、可哀想に。って同情した方が良いか?」


「同情されても事態は改善しないかな」


 それはその通りだ。しかしAからしたら可哀想なBに、何かしてあげるくらいの気持ちにはなっていた。


「じゃあここは俺が奢ろう。ドリンクバーと……、ハニートーストで良いか?」


「ここでその手札を切ってくる辺り、やっぱり他人の不幸は蜜の味なんだねえ」


「食うのはお前だけどな」


 親の離婚に対して、高校生に出来る事などない。せいぜいがどちらの親に付いていくかくらいだ。


 AはBの分に加えて、自分の分のドリンクバーとパフェを注文し、さて、どうしたものかと頭の中で考えつつ、二人でドリンクバーのコーナーへ向かう。慰めるか、励ますか、何と声を掛けたものかと思うも何も浮かばず、ただ二人の間に気不味い雰囲気が漂っているだけだ。


「えーとー、元気出せ?」


「疑問形は励ましてはいないね」


「何か掛けて欲しい言葉はあるか?」


「それを俺に聞くの?」


 二人してコーラをディスペンサーからカップに注ぐと、無言で席に戻る。


「んで? いつから浮気していたんだ?」


 やはり他人事。Aからしたら、Bの両親が何をやらかしたのか興味があった。これくらいの笑い話にした方が、Bの気も紛れるだろうとの皮算用でもあった。


「親父の方は新入社員の女性を妊娠させた事で発覚した」


「何してんの?」


「俺に言うなよ」


 Aはカップに口を付けるが、コーラが口の中で弾けるスナック感覚が、今の話でどうにも場違いに感じる。こんな事ならコーヒーにしておけば良かったと少し後悔するA。


「お袋の方は結婚前からだったらしい」


「ええ……」


 親同士も付き合いがある為、Aの頭の中にはBの両親の顔が浮かび、それが仮初めであった事に少なくないショックを受ける。きっと今後はBの両親とは会わなくなるのだろう事が理解出来て、Aとしてもその心境は複雑だ。


「しかし、お前のお袋さんも、良く今まで隠しきれていたものだな」


「ああ。俺もそこは凄いと思うよ。お袋が浮気していた事が発覚したのも、親父と口論になった時に、思わず口走った事で分かったからな」


「女は怖いねえ」


「本当にな」


 二人で溜息を漏らしていると、配膳ロボットがスイーツを運んできた。


「それで? お袋さん、何て口走ったんだ?」


 デカいトーストに蜂蜜が掛けられ、バニラアイスが添えられたハニートーストをBに渡しながら、Aが無遠慮に尋ねる。


「俺は親父の子じゃないそうだ」


「え?」


 自分の分のパフェを取り上げ、配膳ロボットを帰しながら、Aが思わず固まる。ここまでくれば、Aも何故Bが今日自分を誘ったのか理解出来た。


「……ええ」


 戸惑いが隠しきれないA。それに対してBは既に覚悟を決めてきたからだろう。深く頷いてみせた。


「いやそれ、他人の不幸じゃねえじゃねえか! うちの親父、何やってやがんだよ!? もうそれ、うちも離婚一直線なんですけど!?」


「ハハハ、ソウダネ。下手したら、うちのお袋とお前の親父さんが再婚して、俺たち兄弟になるかもね」


「笑えないんですけど!? って言うか、元々兄弟だったんだろ!?」


 景気の悪い離婚話なんて、聞き流すつもりだったAは、まさか自分も当事者だった事態に陥り、困惑するしかない。


「まあまあ、落ち着きなよ。パフェにハニートースト。正しく完璧な蜜の味だ」


「他人の不幸じゃなくなったけどな!」


 二人は眼前のスイーツと相手を交互に見遣り、そして目を合わせるなり、お互い深い深い溜息を漏らす。


「仕方ねえなあ。パフェ半分やるから、ハニトー半分くれ」


「幸も不幸も半分こだね」


 この後に自分たちの創造主共に振り回されるだろう事は一端脇に退かし、二人は現在目の前にある甘い甘いスイーツをシェアする事で、苦い未来を忘れて、まずこの場を凌ぐ事にしたのだった。


「こうなったら割り勘だからな」


「ええ、そこは奢ってよ」


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