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【書籍化・コミカライズ決定】ワンオペ母が悪役令嬢になったら、攻略対象が地雷にしか見えない件  作者: 葵 すみれ
第二章 杖作成

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16.旧鉱山跡、少し奥まで行きすぎました

 転移門を抜けた瞬間、ひやりとした空気が頬を撫でた。


 目の前に広がるのは、荒れた岩肌の山腹だった。

 あちこちに削られた跡が残り、斜面にはいくつもの坑道の口が黒く開いている。


 ──旧鉱山跡。


 かつて魔石を採掘していた場所だと聞いている。

 採掘そのものはすでに終わって久しいが、地中にはまだ魔力の名残が残っている。低品質の魔石なら、今でも見つかるという。


 今日のフィールドワークの目的は、その鉱石の魔力特性を観察し、魔力を取り込むこと。

 杖の核を、より安定させるためだ。


 強すぎる魔力は、かえって核の流れを乱してしまう。

 それに、強い魔力には魔物が引き寄せられる。


 その点、この鉱山に残っているのは低品質の魔石ばかりだ。

 魔力が弱い分、強い魔物が寄りつくこともない。


 なるほど。

 確かに、この場所なら適している。


 すでに最初のグループは坑道へ入っている。

 少し離れた場所では、二番目のグループが出発の準備をしていた。


 私たちは、三番目だ。


 フィールドワークは二組のペアが合同で行う。

 今回は、殿下と私のペアと、ユリウスペアがグループとなる形だった。


「……思ったより広いな」


 ローレンス殿下が周囲を見回して呟く。


 風が通るたび、乾いた草が擦れる音がした。

 人の気配が少ない場所特有の、静かな空気だ。


「採掘は止まっていますが、魔石が完全に枯れたわけではありません。低品質のものなら、まだ普通に残っているはずです」


 ユリウスが説明しながら、岩肌を観察している。


「もっとも、入口付近はほとんど掘り尽くされています。奥へ行けば、もう少しだけ魔力の強いものが見つかるかもしれませんが」


「なるほど。奥なら、もう少し魔力のあるものが見つかるかもしれないのか。なら、見てみる価値はありそうだな」


 殿下が頷いた。

 私はその会話を聞き流しながら、視線を横へ向けた。


 ユリウスのペアは、一年生の女子生徒。

 確か、子爵家の娘だったはずだ。

 背筋は伸びているけれど、肩に少し力が入っている。


「緊張してる?」


 声をかけると、彼女は少し驚いたように顔を上げた。


「い、いえ……」


 慌てて首を振る。

 それから少し困ったように笑った。


「ただ……殿下やノエリア様とご一緒できるなんて、私には光栄すぎまして……。もし何かありましたら、私が盾になりますので……!」


 ……まあ。

 私は思わずまばたきをした。


「盾に?」


「はい。この中では、私が一番身分が低いですから」


 公爵令嬢、王太子、宰相の息子。

 そう考えれば、彼女なりの覚悟なのだろう。


「そんなに構えなくても大丈夫よ。魔物は滅多に出ないし、出ても強いものではないと聞いているわ」


 それでも、まだ少し緊張は残っているらしい。

 私は周囲を見渡した。


 少し離れた場所には教師が立っている。

 その後ろには公爵家の護衛たち。

 彼らが囲む籠の中で、リーヴが静かにこちらを見ていた。


 護衛はあくまでリーヴの警護だ。この場全体の安全を守るためではない。

 とはいえ、何かあればリーヴに危険のない範囲で彼らも動くだろう。

 もっとも、危険な場所ならそもそも教師がフィールドワークを許可しないでしょうけれど。


 そのとき、教師の声が響いた。


「三番目のグループ、出発していい」


 私たちは顔を上げる。


「行こう」


 ローレンス殿下が歩き出した。

 私はその後ろに続き、旧鉱山跡へ足を踏み入れた。


 入口の内側は思ったより広く、足場もそれほど悪くない。

 かつて採掘が行われていた場所らしく、人の出入りを前提に整えられていたのだろう。

 壁面にはところどころ鉱石が露出していた。

 小さなものばかりだが、淡い光を帯びている。


 ユリウスがそれを眺め、岩肌に手をかざす。


「色の出方がはっきりしていますね。魔力の流れも安定しています」


 そう言いながら、彼はゆっくりと坑道の奥へ進んでいく。


 入口の方を見ると、他のグループはまだ近い場所で立ち止まり、壁の鉱石を観察している。

 どうやらそのあたりで試すつもりらしい。


 だがユリウスは構わず先へ進む。

 坑道は緩やかに曲がり、入口の光が次第に遠ざかっていった。

 人の気配も薄れていく。


 私は思わず声をかけた。


「ずいぶん奥まで行くのね」


「もう少し先を見ておきたいだけです」


 ユリウスは振り返りもせずに応える。


 理屈としては、間違っていない。

 ただ──気づけば、周囲にはもう他の生徒の姿は見えなかった。


 しばらく進んだところで、ローレンス殿下が足を止めた。

 壁面に露出している鉱石を見ている。


「……確かにここは違うな」


 入口付近のものより、光がわずかに濃い。

 魔力の流れも、少しだけ重い。


 ユリウスが満足そうに頷く。


「悪くありません。この程度なら、杖の核を整えるには十分でしょう」


 そう言いながら、ユリウスはペアの女子生徒に向き直った。


「このあたりで一度、魔力を確かめてみて」


 言われた彼女が一歩前に出ようとしたところで、私は口を挟んだ。


「ユリウス・ヴァルドレイン。あなたも一緒にやるのよ」


 彼がきょとんとする。


「観察は二人で行うもの。ペアでしょう?」


 そう続けると彼は一瞬だけ言葉に詰まり、それから小さく肩をすくめた。


「……そうでしたね」


 ようやく壁の鉱石へ近づき、女子生徒と並ぶ。

 ローレンス殿下は鉱石に手をかざし、魔力の流れを確かめていた。


 入口とは違う。

 確かに、ここは魔力が濃い。

 どうやら、少し奥まで来すぎたらしい。


 そのときだった。

 坑道の奥から、低い唸り声が響いた。


 私たちは思わず足を止める。


 この鉱山に出る魔物は、弱いものばかりだ。

 驚かせれば逃げていく程度──そのはずだった。


 だが。

 闇の奥で、巨大な影が動いた。


 岩を引きずるような音とともに、それがゆっくりと姿を現す。

 こちらを見ている。


 ──逃げる気配がない。

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― 新着の感想 ―
殿下の傲慢さが、お前友達居らんやろ感。近くにいると絶対苛つくタイプ!と思いながら読んでました(笑)
 何故よりによって戦闘要員がいないこのパーティーで、魔力が重い=他より魔物遭遇率の高い場所に、おまけに周囲に他者がいないと気付きながら突っ込んだ…?  主人公含めて知能にデバフかかるトラップにでも引っ…
 ( ^言^)ユリウスさーん?
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