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【書籍化・コミカライズ決定】ワンオペ母が悪役令嬢になったら、攻略対象が地雷にしか見えない件  作者: 葵 すみれ
第二章 杖作成

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12.殿下には、殿下にふさわしい扱いを

 私たちは無言で丘の上に向かった。

 丘の上に立つと、風が一定の方向から吹き抜けている。


「ここでいい」


 ローレンス殿下が即断する。


「僕とオズワルドで先に測定する。風量を把握してから、残りは追従すればいい」


 説明も相談もない。

 決定事項として、言い切った。


「了解!」


 オズワルドが勢いよく頷き、前に出ようとする。

 一年生の女子が、反射的に一歩引いた。


 ──あら。


 私は、そこで初めて口を開く。


「殿下」


 声は柔らかく、けれどはっきりと。

 ローレンス殿下とオズワルドが、こちらを向いた。


「よい案のように聞こえますが、それではこの実習の目的を外れてしまいますわ」


「何が問題なんだ?」


 苛立ちではない。

 本気で、分からないという顔。


「四人一組で行動する意味は、それぞれが確認し、お互いに修正することです。一人だけ後方に置いてしまえば、観測ではなく見学になってしまいますわ」


 私は一年生の女子を見る。

 彼女の肩が、びくりと揺れた。


「それに、殿下の杖だけに魔力を込めるのではありません。全員、それぞれに合わせる必要があります」


 ローレンス殿下に視線を戻し、きっぱりと言い切る。


「殿下に合わせるのではなく──殿下も、他人に合わせる必要がありますのよ」


 一瞬、風の音だけが丘を渡った。


 ローレンス殿下は、すぐには何も言わなかった。

 不満そうではあるが、怒ってはいない。

 理解できない、という顔だ。


「……効率が悪いだろう」


「ええ。殿下お一人で進めるなら、そうでしょう」


 私は、あくまで肯定する。


「ですが、今回は合同作業です。四人で動く意味がある実習ですわ」


 否定しない。

 殿下の考えを間違いとは言わない。


 ──ただし、通さない。


 ローレンス殿下は、口を開きかけて、閉じた。

 明確な反論ができない。

 教師の説明と、実習の目的を思い出しているのだろう。


 その様子を横目に、私は続ける。


「測定自体は必要ですわね。殿下のお考えは正しいと思います。ただ、順番を変えましょう。四人同時に測定し、それぞれの魔力との相性を確認する。それから杖に込めるのはいかがかしら?」


 ローレンス殿下は、すぐには頷かなかった。

 視線が、私から丘の先へ、そして再び私へと戻る。


「……僕のやり方では、いけないと?」


 やや不貞腐れたような声音だった。

 私は首を横に振る。


「いけない、とは申しませんわ。殿下お一人で完結する場であれば、最善でしょう。ですが今回は、四人で学ぶ場ですもの。目的が違えば、選ぶ方法も変わります」


 ローレンス殿下の眉が、わずかに寄る。


「たとえば……オズワルド・グランシェ。あなた、緻密な制御は得意かしら?」


「え? あー……細かいのは、苦手!」


 名指しされて、オズワルドはあっさり答えた。


「俺は勢いで押すタイプだ。細かいのは、彼女が得意さ!」


 キラリと白い歯を輝かせて親指を立てながら、オズワルドは隣の一年生女子を見つめる。

 突然振られ、彼女はびくりと肩を震わせたが、懸命に言葉を紡ぐ。


「わ、私は……風の揺らぎを読むのは、比較的……好き、です。ですが……強い流れに一度に触れると、少し乱れやすくて……」


 消え入りそうな声だが、内容は明確だ。

 私はゆっくり頷く。


「ありがとうございます。十分ですわ」


 それから、ローレンス殿下へ視線を戻す。


「殿下は?」


「……制御精度は問題ない」


 短い答え。自負も滲む。


「ええ、存じております」


 私は即座に肯定した。


「殿下は強い流れでも安定して扱える。けれど、今お二人がおっしゃった通り、それぞれ得手不得手が違います」


 風が強く吹き抜ける。


「同じ方法を四人に当てはめるのは、少々乱暴ではありませんこと?」


 問いかけは穏やかだが、逃げ道はない。

 ローレンス殿下の視線が、オズワルドへ、そして一年生女子へと移る。

 事実は明白だ。


「……確かに、同じやり方では、効率が落ちる可能性はある」


 ローレンス殿下は渋々、といった調子で答えた。

 私はにこりと微笑む。


「ええ。その通りですわ。きちんとご理解なさっていますのね。さすが殿下ですわ。素晴らしい」


 ローレンス殿下の眉が、ぴくりと動く。


「……君は」


 言葉が続かない。

 褒められているが、どこか引っかかるといったところだろうか。


 私は涼しい顔で続ける。


「殿下はお力があります。ですからこそ、他人を従わせるだけでなく、他人の力を見極め、活かすこともお出来になるはずですわ。先ほどのご判断も、全体を把握しようという意図でしたのでしょう? でしたら──」


 わずかに首を傾げる。


「殿下が率先して周囲を見て差し上げればよろしいのです。他人に合わせさせるのではなく、他人の力を踏まえたうえで導く。それこそ、上に立つ方の采配ではありませんこと?」


 ローレンス殿下の表情が、はっきりと揺れた。

 否定すれば、自分は従わせるだけの人間だと認めることになる。

 肯定すれば、今のやり方を修正せざるを得ない。


「……」


 短い沈黙ののち、殿下は息を吐く。


「……分かった。四人同時に測定する。その上で、互いに確認しよう」


「ええ。賢明なご判断ですわ、殿下」


 柔らかく頷く。

 内心で、静かに思う。


 ──えらいえらい。きちんと考え直せましたわね。


 風が丘を渡る。

 ローレンス殿下は、わずかに居心地悪そうに杖を握り直した。


 以前、グレンもローレンス殿下のことを「プライドの高い子どもを相手にするのと、そう変わらない」と言っていたわね。

 ……ええ。対等に向き合う必要は、もうありませんわね。

 殿下には、殿下にふさわしい扱いを。

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― 新着の感想 ―
 殿下完全にイヤイヤ期の幼児扱いw
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