五分間神域

　中学生の千尋は、学校からの帰り道で、愛用の腕時計が「十四時四十四分四十四秒」で止まっていることに気づく。
　その瞬間、白と金に輝く異世界――「五分間神域」へと引き込まれてしまう。
　そこで出会ったのは、神域の主を名乗る謎めいた少年・ナオ。
　ナオは千尋に「五分間の試練」を課す。そして千尋は、自らの心の奥底に沈む「後悔の記憶」と向き合うことになる。
　それは、一年前に起きた出来事――親友・沙月との絶交に繋がった、ある一言だった。
　試練の中で千尋は、過去に戻るようなかたちで何度も選択をやり直そうとする。きつい言葉をかける代わりに優しく接してみたり、共感を示して励ましてみたりする。
　だが、どんなに違う選択をしても、事態はなぜかさらに悪化してしまう。
　思い悩む千尋に対し、ナオはこう告げる。
　――この試練の目的は、「選び直すこと」ではなく、「自分の本当の思いを言葉にすること」なのだと。
　その言葉を受けた千尋は、自分が沙月を傷つけてしまった過去の過ちを、初めて正面から受け止める。
　そして、震える声で「今からでも沙月に謝りたい」と、自分の本心を口にする。
　その瞬間、五分間神域のすべてが静止し、千尋は現実世界へと帰還する。
　時計の針は、ほんの一秒しか進んでいなかった。
　だが千尋の中では、確かに長くて深い時間が流れていた。
　スマートフォンを手に取った千尋は、躊躇いながらも沙月の連絡先を開く。
　一年間一度も触れることのなかったその番号に、「今日、会えないかな」とメッセージを打ち込む。
　過去の後悔と向き合い、真実の思いを言葉にした千尋。
　その小さな一歩が、壊れてしまった友情を取り戻すための、最初の一歩となるのか。
　時を越えて織りなされる、切なくも希望に満ちた試練の物語。