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ハートランド家の心臓

 一年が経った。

 アーサーは一歳半になり、ずいぶんと背丈も伸びた。

 今では自由に走り回ることもできた。

 ただし、金色の短髪に透き通る青色は赤ん坊の頃と大した変化はない。

 溌溂とした声が、書斎に響き渡った。

「お父様、午前中の課題は終わりました!」

 アーサーは椅子に掛けているローレンスに文字一杯の束になった紙を提出する。

 近年、ルイ王の起こした革命がようやく目に見える形になってきた。その一つが産業化だ。紙やインク、万年筆が台頭し、町には情報が流通し、人々の生活がより豊かなものになった。

 現状、ハートランド家は館から出ることを禁じられているため、新聞が唯一、外部を知る手段となっていた。

 ローレンスは新聞を読むたびに胸が熱くなった。

 時代を変えた。

 そんな世界の対局を動かすような駒になれたのだ。

 自分を誇りに思った。

 人生の振り返り。

 最近はこればかりに脳のエネルギーを費やしていた。

「もちろん、読んだ後に暗唱するようにして内容をまとめています」

 アーサーを見て、気持ちを切り替える。

 皴になった新聞を机の端に投げる。

 今は、息子に己の持つ全てを承継させることに集中すべきだ、と。

「そうか。歴史は一通り学び終えたと考えてよさそうだな……」

 ローレンスは提出用紙に目を通す。

「よし、いいだろう。午前の座学は終了だ……話は変わるが、アーサー、体に違和感を感じたり、痛みを感じたりすることはないか」

「はい!」

「では、心臓の第一次成長期は終了だ。おめでとう、アーサー」

「ありがとうございます。じゃあ、早く終わった分、外に出ませんかっ」

 アーサーは体を動かすことを好いていた。それでも、嫌と言わずに勉学に励み続ける姿勢は子供らしからぬ精神力のお陰か。

「その前に、少しだけ話しておきたいことがあるんだ、アーサー」

「なんでしょうか?」

「心臓の第一次成長期は終わったが、これからも試練は続くんだ。途中、試練の厳しさに耐えかねて、その命を投げ出したいと思う日も、何度となく、あるはずだ。実際、それでハートランド家の子供が幾人も死んでいった……だから、決して諦めてはならぬ」

 アーサーは不思議そうにローレンスを見つめた。

「どういうことですか?」

「……少し長くなるが、アーサーのこれからを説明する。これはハートランド家が進む道であり、試練の道でもあるのだ」

 ローレンスは何故、ハートランド家がたった一つしか残らず、人間とはかけ離れた存在であるのかを説明した。

 ハートランドの赤子は急激に体を大きくする際、ともに心臓も大きく発達する。

 これを心臓の第一次成長期という。

 零歳から始まり、一歳までの間じわじわと体と心臓の成長過程を辿り、あまり痛みも伴わない。

 赤子はその心臓の発達規模に肉体が伴わず、心音を止めるケースも少なくなかった。

 が、アーサーは無事、この過程を終えたのだった。

 運がよかったとも言えるし、遺伝子が強かったとも言えるだろう。

 ただし喜びもつかの間、次には更なる試練がアーサーを待ち望んでいる。

 ハートランド家の強靭な肉体形成は、これで終わるはずもなかった。

 次に待っているのは体の更なる成長に伴う激痛である。

 二歳ごろから始まり約一年間、神経・骨・筋肉が発達し(第二次成長期と言い、体を動かすたびに、電気が流れるような強烈な痛みが走る)、一年の休暇期間を挟み、再び発達を繰り返す。

 これら工程が第四次成長期まで続くのだ(つまり二歳から三歳。四歳から五歳。六歳から七歳。この三つの成長期が残っているのだ)。

 まさに修羅の道である。

 そんな地獄に耐えきれるものは、ごく僅か。

 三歳にもなる(第二次成長期を終えたころ)と神経、骨、筋肉の発達は最早、人間のそれとは別次元のものへと移り変わる。

 言い換えれば、第四次成長期を終えた者は最強へと至るのだ。

 そうして、ハートランド家は齢十三には戦場へ駆り出され、戦果とともにその地位を盤上のものとしてきた。

「お父様は、最強、なのですか?」

 アーサーの目は輝いていた。期待で一杯の様子だ。体がそわそわしている。

「ああ。私に勝てる人間などいない。エルデリオン王国にも、ましてやこのエルドリア大陸にさえ存在しない」

「わぁぁ! 私もお父様みたいに最強になりますッ!」

「厳しい道になる」

「それでも!」

「ほう、それはどうしてだい?」

「だって私も、お父様みたいになりたいから!」

「あぁ、アーサーよ、私は本当に嬉しいぞッ!」

 アーサーは立ち上がり、机を飛び越え、アーサーの小さな体を持ち上げた。

「二歳になれば、本格的に成長期に入る。これまでは柔軟ばかりしていたが、今日からは体の使い方を学んでいこう」

「はいッ!」

「よし、では外に出ようか」

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