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第8話 ミツバチ一家結成

:おお! ギルドで冒険者登録!

:やっぱファンタジーで冒険者するなら定番イベントだよな。わかってるじゃないか

:テンプレイベントくる?


 もちろん配信のためにわざと残したのだ。

 生配信中にたくさんイベントを詰め込みたいしね。

 そう考えると、なんかわたしがデートコースを決めている気分になる。

 ま、地球では最期まで経験なかったけど。


「ここから先の配信ではムルルに斜め後ろについてもらいます。わたしが人と会話する時に相手が見えた方がいいですよね?」


:確かに

:FPSの三人称視点やね

:解説なしで完全放置?


「解説は多少減りますが、従魔のムルルに話している体で適宜していくのでご安心を!」


 正面を向き歩きながら解説していく。昨日の感じではこれで大丈夫なはずだ。


:俺らに話しかける時もムルル呼びになるんか?

:そろそろファンネが欲しいところ

:なんか案ないん?


 チャットから要望がでてくる。ファンネかぁ、正直考えてなかった。

 でもファンネーム、やっぱり必須だよね。確かに○○団とか○○組とかあるとまとまりもでる。私の名前は蜂柑だから——これだ!


「働き蜂とかどうです?」


:無垢な笑顔で搾取発言をするんじゃないw

:サユ姐、突然の不規則ドS発言

:女王蜂気取りかな?

:キャラじゃないだろ、どちらかといえばポンコツのくせに


 さんざんな言われようだ。

 でも働き蜂は搾取表現になっちゃうかー。まあ、リスナーから色々もらう立場だから確かによくないかも。うーん。


「じゃあどんなのがいいか教えてくださいよ」


 若干すねつつリスナーに丸投げをすると、チャットの勢いがのびた。んー、何が来るかな?


『:蜂の子とかどう?』


「だめ! ビジュアル的にアウト!」


 光速で胸の前にバツをえがいた。無理、ぜったいムリ。ムルル覚えてなさいよ。


:速いってw

:いうほど駄目か?

:ほら、昔コラでトラウマになった人が続出したっていう

:なるほど、サユ姐もその口か


 やめて、思い出しちゃう。ムルル、はやく次の出して。

 ハンドサインで伝達すると、新しいメッセージが固定された。顔文字が書かれたフリップも一緒だ。腹立つ。


『:じゃあ蜂須賀党は?』


「豊臣秀吉の家臣だった蜂須賀小六の部下達ですよね。いい線いってるけど蜂須賀家ってまだあるから、有名になった後になにか言われないですかね?」


:まだ登録者数二千人超え程度でw

:そういうの取らぬ狸の皮算用っていうんだぜ


 リスナーから正論を返された。

 うん、たしかに私も出来ればそうありたかった。

 でも私の目標ノルマは五〇〇万人なの、ガチで目指さなきゃいけないの。言えないけど。

 だから今のうちから子孫の方には配慮しなきゃいけない。なので却下です。

 あーだこーだしている所にムルルが新しい投稿を固定した。


「:ミツバチ一家でいいんじゃね?」


:いいな、スローライフ派の俺としては一票

:かわいい!良きー


 ふむ、これはアリなんじゃないかな?

 女王蜂と愉快な仲間達がほのぼのヴィーアルを探訪する感じ、良い。


:サユ姐さんが率いるミツバチ一家か

:一気に任侠みが強くなったw

:杯、つつしんで、お受けいたします


「まって、それ私のイメージするミツバチ一家じゃない」


 私の制止を無視して進んでいくチャットを目にしながら自分の無力さをかみしめる。

 そうか、やっぱり私はそういう姐さんのイメージなのかぁ……任侠の作法とか知らないんだけど。

 しかたない、盛り上がっているし、乗るしかないか!


「オッケーわかりました。今から私達はミツバチ一家ですね! 団員でいいです?」


 顔を引きつらせつつ自棄気味に言うとまたチャットが加速した。


:組員だろ?

:舎弟でもいいけどな

:でもそれだとアニキとか必要にならん?

神029:わしオジキって呼ばれたいんだけど

:神キタ!

:唐突に降臨するんじゃないよ

:神って名前あるの?

神029:あるけど秘密★

:ウッザ

:じゃあモブオジってことで

神029:それだとわしが活躍する薄い本がでてしまうのでは?

:異世界のモンむすと……いいね。描けそうだ

:癖が強い作家がいるんだけど


 なんかコメ欄に神様が降臨して勝手に交流しはじめた。

 別に良いけどシモ系はNGって言わなかったかな?


「はいはーい、組員ね、組員って呼ぶから! あとここでは下ネタNG! 神様もここでは一リスナーに過ぎないんだから調子乗るな?」


:姐さんすんません!

神029:すまんかったサユ姐、おとなしくするから許して

:サーセンっした!



 絶対反省してないでしょこの神様。

 リスナーもとい組員とうちとけるのはいいけど、若干なめられている気がするんだよねー。


 などとぶつぶついいながら歩いていると橋に辿り着いてしまった。

 うん、配信に集中しないとね。私は目の前の五ジィくらいある問を見あげた。


「はい、ここがベルゲルの正門。おっきいですよね」


:はへー

:装飾こまか

:ちょっとイスラム感があるな


「そうなんですよ、このルジット地方、一部に異国の文化が取り入れられているそうです。ここみてください、タイルがつかわれてますよね。地球のアラベスク模様にも似たような柄があるんですよ!」


 顔をすりつける距離で門のタイルについて語る。はぁぁー、異世界で地球との共通点を見つけるなんて、大発見!


:二つの世界で共通かぁ

:なんかサユ姐生き生きしてね?

:俺は戦闘よりこういう異文化紹介のほうが好き


 感心するみんなの声がたまらなく気持ちいい。なんどでも言うけど私はこういうのがいいの。

 ベルゲルに入ると、前を走る馬車が広場に入るルートから外れた。どこかに去っていく馬車を横目にみながら標識に従ってグリムガード棟を目指して進んでいく。


「この地方の建物はロの字型をしています。ローマのドムス、中東のリアド、中国の家シーヘーユェンもこんな感じですね」


:やばい、何言ってんだ? 理解が追いつかないぞ

:サユ姐が賢いこと言ってる、バグった?

:落ち着けよ、こういうのは画面外でADがカンペ出してんだって


 ほう、ずいぶんと言ってくれるじゃないの。

 いよいよ隠していた私の属性をしめさねばなるまい。

 右手で顔をかくし、ムルルにむけてポージング。


「私をあまりなめないほうがいい、世界遺産検定1級、さらに学芸員の資格ももっている」


:え、まじで?

:どれくらいすごい?

:ミス○リーハンターでも二人くらいしか持ってない

:学芸員って美術館にいるお姉さんのこと? イメージと違う


 よし! これで私に知的キャラというイメージがついたよね!

 イメージと違うといった人はなる早で更新しなさい。

 などと脳にドーパミンをまぶしていると、チャットのメッセージが固定された。


:サユ姐って何回海外旅行にいったの?


 それまで得意さを雄弁に物語っていた私の手足が突然ピタリととまる。

 なんでよりにもよって一番きいちゃいけない質問をチョイスするの……ムルル……まだ罪を重ねる気なのかな?

 固まった笑顔をムルルに向けると、ヤツは黙ってカンペを出してきた。


『エアプ勢とバレる前に自分からさらしてこ★』


:サユ姐が笑顔で固まってんだけど

:なに、どした?


 組員たちがざわめき始めた、ああもう、退路がない!

 私はため息を一つつくと、ふたたびポージングした。


「一回! ですが!」


 チャットの流れが止まった。圧倒的羞恥……!


「くっ、殺せ……っ!」


:くっころいただきましたぁー

:大学生の卒業旅行か!

:ズコー

:通信空手じゃん


 ミツバチ一家達の容赦ない言葉が毒針となって襲いかかる。私仮にも女王蜂だよ?

 気にしていた事をえぐってくるのひどくない? もう無理ぃ……

 崩れ落ちた私はそのまま手足を折りたたみ虫になった。


「だってさぁ? 私だって大学時代はそういう系の仕事したいって勉強頑張ったよ? でも生活費もあるし普通のバイトじゃ一月分の旅費をためるので精一杯だったんだもん。社会人になってからはブラック企業で旅行にいく時間なかったしぃ」


 ムルルに背を向けて過去の嫌な経験をグチる。はあー、もう、はあー。

 アナウンサー面接の時のトラウマが蘇るよ。

 配信? 今の私をそのままうつせばいいよ。どうせ私は道化師なんだ。


:サユ姐! 気を確かに持ってくれ!

:地球では駄目だったかもしれないけど、今夢をかなえているじゃない、切りかえてこ?

:だいじょぶ、配信のサユ姉は輝いてるぜ!

:サユ姐さん香箱組んでるのかわいいーごめん寝してー


 みんなから温かい言葉をもらってちょっと心にきた。あと女の子の組員もいるんだね。

 ゆっくり起き上がって手足についた砂を払う。

 そう、今の私は唯一無二の異世界配信者。地球のことなんて忘れよう!



「そうですよね、異世界配信を楽しめばいい。何しろ、皆が絶対知らないものばかり配信するんだから! じゃ、配信続けますね!」


 よし、切り替え完了、さっそくさっきの続きを話していく。


「で、さっき話していたロの字型の建物でさらに大きなロの字を作り、さっきまでわたしが朝食を食べていた広場を囲んだ施設がこのベルゲル。ちなみに広場の向こうにあったのが本来のジッレの街です」


:どういうこと?

:巡礼宿が広場だけじゃなく街まで囲んでいる?


「その通り! ベルゲルは巡礼宿と都市防壁を兼ねた建物なんです。さらに、」


 トタタタ、と建物に駆け寄る。

「ここは薬草屋、隣は道具店、向こうでは露天商が食べ物を売ってます……という具合に、市場もあります」


:商店街も兼ねているわけか

:ファンタジー感はまだあんまりないけど、こういうのすき

:ベルゲルで全部完結するならジッレとか普通の街いらんくない?


 そういうわけにもいかないんだよね。


「ベルゲルはあくまで聖教会へのお布施でできている施設。一般人の街であるジッレとは区別する必要があるんです。それに聖教会では施設内でのタブーがいくつかあるので、それをジッレが担っている、もちつ持たれつの関係があるんです」


 例えば食料。教会が農業、牧畜業を営むのは禁忌とされている。

 それから金融。教会の権力が巨大にならないようにイベル王国と不可侵協定が結ばれているらしい。

 あと鍛治。まだ見ていないけど、ドワーフが働いているという。

 彼らのような異教徒はベルゲルに入るわけにはいかないので独自に生計を立てているようだ。


 とか解説しているうちに目的地につく。


「さて、到着! ここがジッレのベルゲルにある屯所、いわゆるギルドです!」


 通路の左側は全棟最上階まで酒場になっている。

 武装したグリムガードが朝食を食べたり仲間たちと話し合っている。さすがに朝からお酒はないか。

 きっと今日の予定を打ち合わせているんだろう。


 左側に続いてムルルを右側に向けさせる。周りの邪魔にならないように小さな身振りでご紹介。


「みなさんお行儀良く並んでいますね、何か法則とかあるんでしょうか?」


 中庭右の広い空間には様々な特徴を持ったグリムガードの人たちがカウンターに並んでいる。

 さて、ここは順当に優しそうなお姉さんがいるカウンターに……


「わぶっ!」


 よそ見をしていたら人にぶつかってしまった。


「ごめんなさ……」


 見あげるといかにもなスキンヘッドおじさんと目が合った。

 めちゃこわ。


:テンプレw

:しかもスキンヘッドおじさんて

:中の人が同じ可能性すらないか?

:異世界スターシステムだったのかよ

:最近だと優しく教えてくれるパターンが多いけど……どっちだ?


「……ん?」


 どこからともなくドラムロールが響いてくる。が、辺りを見回しても誰も反応していない。つまりこれはキャスティア側が出している音。

 この唐突な演出はまさか……

 答えをつぶやく前にズギャァン! とエレキギターがフィニッシュに吠えた。


『神々の試練:スキンヘッドおじさんにいろいろ解説してもらおう』


:なんだこれ、サユ姐これなに?

:ADー? これ配信の企画?


 唐突なメッセージにコメント欄も困惑している。勘のいい人もいるけど。


『そだよー。神様がサユカにランダムでお題を出してなー。クリアしたらランダムでスキルあげる企画ー」 



:おお⁉ スキルが手に入るのか!

:神様やっぱ見てたんだ

:たまにアカウントで「神」って出てくるやつだな!


 リスナー達も良い感じに盛り上がっている。企画としては面白いんだよね、悔しいけど。

 にしても質問するだけか。最初だからか結構しょっぱ……簡単だね。

 考え込んでいると目の前のおじさんが向き直って腰に手を当てた。


「おい何だお前、だまってたらわかんねぇだろ、新人か?」


 あ、ボード見るのに夢中でおじさんを放置してた。でも怒ってる様子じゃない。

 もしや私が美少女だから? よし、精一杯のスマイルで質問してサクッと試練クリアしよう。


「あ、はい。ギルドに来るの初めてなんです。ここってどんな仕組みになってるんですか?」


 多分この人が色々教えてくれるだろう。NPC的な感じで過不足なくおしえてくれるはず。

 と、思っていたのだけど。


「なんでだよ。仕組みなら自分でカウンターにいって職員に聞け。多少ならべば順番くるだろ。じゃあな」


「あ、あのちょっと⁉」


 呆れたように鼻を鳴らしたスキンヘッドさんはそう言い残すと出口へと向かっていってしまった。

 残された私は中途半端な姿勢のまま立ちすくんでしまった。

 あ、あれー?


:塩w

:第三のパターン発見される

:全力での放置プレイ

:グリムガードってもしかして常識人多い?

:でも正論。世話をやく義理なんてないしな


 チャットが賑やかになっているけど、正論すぎて言い返せない。

 いけないいけない。世界観がテンプレっぽくても必ずテンプレが起こるとは限らないのだ。


「し、仕方ないですね。えーと、登録なんですから一番暇そうなカウンターにいってみましょう」


 いそいそこそこそ、私は一番端のすいているカウンターに向かった。


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