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第7話 隊商宿での出来事

「こんサユ〜。と言ってもこちらは朝なんですけどね。おはサユ? 時差があると混乱しますね。とりあえずこんにちわの意味でこんサユで統一してもらえると」


 私は爽やかな風が梢を揺らす林の下で朝日の光を浴びながら目の前の鍋をかき混ぜている。ハーブ(薬草)の香りが食欲をそそるなぁ。

 

:っっw

:この出オチ感よ

:こんサユー…って野宿しとるんかーい

:草なの? 草食ってるの?

:街にたどり着けなかったか

:あるいは凝血石の買取金が安すぎて宿に泊まれなかったのか


 ボードの中でチャットが流れていく。

 まあ想定内、うん。この角度だと野宿しているようにしか見えないね。

 実はわたしはもう街区内に入っている。これはちょっといたずらである。

 さてネタばらし。

 わたしの合図に合わせて目の前にいたムルルが遠ざかっていく。


;お?

;建物があったのか?


「実はわたし、ジッレという街のベルゲルの中にいまーす」


 ムルルの顔が徐々に上を向いていく。写っているのは白い壁と装飾めいた手すり。四階建てのロの字の建物だ。

 角度とかで、かなり大きな建物だとわかってもらえるんじゃないかな。

 そして今度は反対側だ。リスナーのみんなに広場全景を見てもらおう。

 広場側に移動してムルルに手を振るとチャットの流れが加速した、いいねー。


:ひっろw

:広場ってレベル超えてるって

:ひえー多分百メートル四方はあるんじゃないか?

:向こうに家っぽいものがあるな


「野宿もして見たかったんですけどねぇ、魔物と戦っていたらいつの間にか着いちゃいましたよぉ」


 腕を組んでふふんとドヤ顔。実際はそんな事実はないわけだけど、ちょっとくらい見栄を張ってもいいよね?


:煽ってくるなぁ

:遠くで草食ってるの馬だろ? 


「はい、このベルゲルに囲まれた広場は隊商の馬を休ませたりお金のない巡礼者やグリムガードがバルーカという施しの食材を調理するところなんです。というわけでこれからお馬さんと一緒に朝食タイム!」


 言い終わると同時にストレージからパンを取り出してひとかじり。

 よくいう黒パンなんかじゃなくしっかり小麦の良い匂いが鼻に抜けていく。ついでに馬の匂いもしてくる。

 そのまま薬草スープのもとに戻って朝食を開始。具材の説明をしながら食レポをしていこう。


:馬と一緒て、絶対クサイ

:巡礼宿には入れたけど金は手に入らなかったんだな

:バルーカってなに? 施しってもしかして残……


聞き捨てならない言葉が流れた。パンをあわててスープで流し込む。


「漁ってませんから! バルーカはお金のない巡礼者やグリムガードを支援するために巡礼宿が用意している食材のことです。保存の関係で自分で調理する必要はありますけど、質も量も一般の食材と同じなのでそこは間違えないように。あ、このスープの作り方は巡礼者のおばあさんに作り方を教えてもらったんですよー。硬い部分を下ゆでするのがコツです」


 腰に手を当てて説明してから鍋の前でストレージからさらに小さな果物と干し肉を取り出して見せる。

 ついでだから巡礼のシステムについて知ったことも熱く語らせてもらおう。


「昨日そのおばあさんとご飯を食べながら教えてもらったんですけど、バルーカに限らず、この世界では巡礼者をケアする制度がすごく充実してるんです! なんと巡礼宿はタダで泊まることができる! 大部屋ですけどね、男女別で安全面もしっかり配慮です。ムルルちょっと二階を映して」


「あいよー」


 ふわふわと上昇したムルルが撮影している動画を手元のボードで見る。

 要望通り大部屋が映る。


「どうです! こういったベルゲルが一日に移動できる距離ごとに建っているので巡礼者は野宿せずにいられるわけです」


 映っているわけではないけど自然と胸を張ってしまう。すごいよねヴィーアル……ん?

 何やらチャットが荒ぶっている。

 あ。


:おおぃ!着替え中じゃないか!

:ムーチムチしとるでごわす

:すごく……エッチです

:スタァッフ! 放送事故だ戻れ!


 おう、これはわたしが浅はかだった。


「ごめん、ムルル戻って」


 動画にやたらガタイのいい男達の半裸が映り込んでしまったのだ。

 これは予想外、男の人って大部屋でも構わず着替えするのね。


「少々センシティブな映像が流れてしまいました。失礼しました」


 カメラに向かって頭を下げる。謝罪は迅速に歯切れ良く。


:ええんやで、いうほどみんな気にしてへんから

:むしろご褒美とすら言える。チャンネル登録するわ

:せんでいいw


 リスナーのみんなはおおらかに許してくれてよかった。

 というところでこのまま配信を進めていく。


 食器をストレージに入れたのち、一階の吹き抜けになっている部分を潜って一度外側にでる。

 すると、そこは切り立つ崖。石積みの堤を下ること三ジィの場所に浅い川が流れていて、そこから五ジィほど向こうが同じように崖になっている。ちょっとした堀だ。


「昨日はあの橋からジッレに入りました。元々このベルゲルは大きな中洲に作られてました。そこからジッレの街が作られましたわけです」


 わたしが指差した先には大きな橋がかかっていてベルゲルの建物と繋がっている。ベルゲルと橋は同時に作られたのだ。

 橋の上にはジッレから次の街に向かうだろう巡礼者や商人、グリムガードの歩く姿が見える。


 ここで次にわたしがすることを宣言。


「昨日わたしはベルゲルの受付に行ったわけですが、バルーカの食べ物だけもらって寝ております。つまり、これからわたしがするのはグリムガード登録!」

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