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第6話 初配信終了、からのスレ回

 霧が晴れるようにぼやけた視界がはっきりとしてきた。

 目の前には地面。そして腹を剣に貫かれて目を見開いたゴブリンの顔。


〈って、わたしの身体も動かない? ……ああ、解説タイムか〉


 光がまたたいたので、横のボードに目を向ける。


:あれ、巻き戻った?

:魔法で生き返るとか言ったけど、時間魔法か!

:今は一時停止みたいな状態か

:なるほど把握。死に戻りなら記憶は残ってるから次はいけるだろ


 チャットの流れを見ると、だいたいみんな納得してくれている。

 リアルが何とか言われるかと思ったけど、問題ないみたいだ。

 そんな感じで一安心——ん? 今ゴブリンが動いたような?


「ギャァァァ!」

「うぉあああ!」


 死にかけだったゴブリンの右手にある石包丁が私の首筋に伸びてきた。それを左手の小楯ではじき、同時に左足で踏みつける。刺さった剣を捻ってしっかり絶命させた。

 

「びっくりした! リスタートの合図くらい出してよ!」


 しかし気を抜いている暇はない。左足を軸に半回転。右手で落ちた半月型の石包丁を掴み、後から迫っていた斧持ちゴブリン目掛けて投げつける。ここからがリベンジ!


「グゥ!」


 石包丁が当たった足を反射的にかばうゴブリンめがけて駆ける。

 が、イメージより遅い。革鎧も重い気がする。これがリスナーが離脱した効果か。


「でも、まだ勝ち筋はある!」


 ゴブリンがよだれをたらしながら右手に持った粗末な柄の斧を振り下ろす。

 左首筋をねらったそれに対し、右膝を折りかがむ。


「せっ!」


 頭上にせまる斧に対し小楯を差し出し、剣を握った右手を添え、諸手で斧を受け流す。地面にめり込む石斧。

 受け流した勢いのまま剣をぐるりと頭上にかかげ、そのまま左袈裟に斬る。

 剣は体勢を崩していたゴブリンの右脇腹を深くえぐった。手応え十分!


「ギャァァ!」


「これで終わり!」


 うつ伏せに倒れたゴブリンの首元に剣をズッっと深くさした。骨を完全によけて突き込めるから、可能なら今後もとどめはこれでいきたい。

 そして今度は周囲を警戒。もう敵はいないよね?


「はぁー、リベンジ、完了です!」


 消えていくゴブリンの隣に立ち、正面のムルルに向かってこぶしを突き出した。


「ということでリスナーの皆さん! こんな感じで時間をさかのぼって復活するので安心して視聴してくださいね!」


:いや安心は出来ねぇよ⁉

:いきなり暗転して叫び声ってホラーでしかない

:でもサユ姐の戦闘は安定感があったし、死に戻りがあるなら緊張感は持ちつつ配信できるからいいんじゃね?

:だな。こういうチートはあっていい。フ⚪︎ム味があって。


 チャットの反応もいい感じだ。この流れならもう一つのチートについても言えるかな?

 いや……登録者確保あざといとかヌルゲーとか言われそうだから今はやめておこう。

 そんなことを思いながら広場を歩き回って戦利品を回収して回った。


「はい! ということでこれがゴブリンの凝血石でーす。みたところ額の角っぽいですねー。街にいった時、いくらで売れるのか楽しみです。あとこっちがアプシン草ですね。根っ子はにんじんみたいで葉も肉厚でボリューミーです。もし凝血石の買取価格が激安ならこれが晩御飯かな?」


 ちょっとおどけて笑ってみたけど、内心は笑えていない。

 なぜならその可能性も十分にあるからだ。

 そもそも地図もざっくりしたものしかないし、一度でも道に迷ったら今日中に街に着けないだろう。初日から装備なしの野宿なんていやすぎ。

 思わず笑顔に影がさしちゃうね。


:唐突な自虐w

:え何、無一文スタートなの?

:それどころか石の買取価格も教わってないとか

:最低限の知識しか与えられないってスタッフの悪意を感じるなw


「とりあえず、今日はここまで! ちょっと死にかけた、というか一回死んだ初配信になってしまいましたが、続きが気になる方はチャンネル登録と評価をお願いしまーす。次の更新は十時、事前告知をお楽しみに! では生きてたらまた会いましょー、おつサユ〜」


 そんな感じでわたしの初配信は終わったのだった。


ーーー◆◇◆ーーー


掲示板yotuba

【Vtuber or Yotuber?】サユ姐さん米板その7【メタバース or 異世界?】


====

ここは突如あらわれた自称異世界配信者の蜂柑サユカの配信について語り合うコメント板です。

とりあえずこれまでの板で決まった方針は以下の通り。

・異世界から配信しているという主張は信じる(不満がある人は考察スレにどうぞ)

・非公式切り抜き動画がグロ判定でBANされるのに公式がされない件についてはyoruba側が沈黙しているのでこれ以上は話さない(yotubaへのこれ以上の凸も自粛)

・キャスティアという事務所は存在しないっぽい

・戦闘はグロ苦手な人が見ても平気。というかそれ以降他のグロ動画を見ても平気になる不思議については保留(考察スレにどうぞ)

====

………

……


223 名前:※※※※※※※※※※

つまりサユ姐は右投げ右打ちと

↑   ↓


224 名前:※※※※※※※※※※

どうでもええわw

↑   ↓


225 名前:※※※※※※※※※※

サユ姐って何であんなにバーサーカーできるん? グロ耐性ありすぎん?

↑   ↓


226 名前:※※※※※※※※※※

そこはほれ、神様がええ感じにいじったんとちゃうん? あのノリやったら異世界の言葉だって話せるやろ多分

それと一緒や

↑   ↓


227 名前:※※※※※※※※※※

いじるんならスキルとかもう少し何とかしたらよかったのに。戦闘チートが死に戻りだけってあんまり派手な無双は期待できないよなー

↑   ↓


228 名前:※※※※※※※※※※

ワイスローライフ派。グリムガードは引退して牧場とかで配信してほしいわ

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

あー俺も。スタッフとはいえムルルが喋れるなら他にしゃべる魔物だっていそうだし

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

だな。あのダウナー系ロリ声たまらん。ドストライクだわ。今後もっと喋ってほしい

何ならカンペも口で言ってほしい

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

カンペの意味ねぇw

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

お前ら気がはやすぎ。まだ配信一日目だぞ

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

次は何配信するんだろうな

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

異世界だし時間とかリンクしているかわからんが、一日後なら少なくとも街にはついてるんじゃないか?

凝血石の買取して晩飯にするとか言ってたろ

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

ああ、安けりゃ薬草食うって言ってたがな

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

次回薬草メインの料理回だったら笑うわ

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

おい、そろそろ登録者が千人こえるぞ、大手考察サイトが動いたから早いな。

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

あっというまに収益化か。申請通るんかね

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

yotubaにコネがあるっぽいし通るやろ

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

通ったら応援スパチャするわ

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

ワイもするで。為替レート知らんけど

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

待て、サユ姐を無一文で放り出すような事務所なんだぞ? そのまま金が届くと思うか?

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

届く……わけねぇな! じゃあやめとくか

↑   ↓


 名前:※※※※※※※※※※

え、ワイもうzamazonから差し入れ送ったんだが、スタッフが美味しく戴いちゃうやつなのこれ?

↑   ↓


 名前:※※※※※※※※※※

異世界に地球の品が届くはずないだろw

↑   ↓


 名前:※※※※※※※※※※

いや憶測で動くなよ。なんか面白い展開になるかもしれんだろ

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

神様がスキルを授けるとか?

↑   ↓

 名前:※※※※※※※※※※

その辺も次の配信で訊いておきたいな

↑   ↓


ーーー◆◇◆ーーー


「おーい、あんまり狩りに夢中になってると街の門が閉じるぞー」


「わかってるって。このレッサーボアを倒したら街道に戻る……から!」


 ゴブリンを倒してからわたしは街に向かいながら弱い魔物を狩っている。

 【魔物寄せの香〈最低位〉】を使えば視界に入れば向こうから来てくれるから便利だ。

 配信していないから信仰力のブーストがないけど、プレーリーラットとかレッサーボア相手なら意外となんとかなる。


「それにしてもよくそんな大振りをあてるもんだねー」


 ムルルが呆れた声をあげる。向かってきた魔物はフルスイング一発で倒しているからだろう。


「動体視力と当て感には自信があるのよ。軸の調整に加えてインパクトの位置をだいぶ前に持っていかなきゃいけないけど! ……ふぅ。さてムルル、ステータス出して?」


「はいよー」


 香をストレージにしまって歩きながらボードを見る。


「……ぃよし! 【身体活性】取れた!」


 スキル一覧の【ストレージ】の下にはしっかりと【身体活性】が表示されているのをみてちいさく拳をにぎった。


「お、まじでー。すごいじゃんか。グリムガードとしての第一歩だなー」


「ベルゲルの登録では【身体活性】があれば一等級のクエストを受けられるんでしょ? こういう地味なことは配信外でなるべく手早くこなしておかないとね」


 ヴィーアルにレベルの概念はない。単純な強さはまず生身の強さ、そして強化系スキルの取得とその練度できまる。

 スキル取得にはそれに即した行動を反復して行うことで行う事で手に入る。

 法則はあるらしいんだけど、結局運次第な所があって取得に一週間、一ヶ月かかる人もいるらしい。

 それでいうと一日で手に入った私は相当に運が良いのだろう。


「じゃ、こんどこそ街だな。ウチも疲れたからはよやすみたいー」


「ごめんごめん、じゃあ街に向かって歩く途中ひまだからさ、スキルが何なのかとか教えてよ」


「まあ、あんまり知らないじゃ配信でこまるからなー。神様が怒らん程度に仕込んでやるよー」


 ムルルとそんな会話をしながら私達は最寄りの神殿がある街、ジッレへと向かい足を進めた。


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