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第5話 神々の企画会議。飲み物はネクター(缶のやつ)。

 喜びのあまりソファーから床にダイブ、そしてそのままゴロゴロしていく。

 チートなしで、なんて配信ではかっこつけたけど、やっぱりあったほうがいいよね!

 人気が力になるなんて、勝ち確でしかない。配信の時だけ頑張れば後はだらけていればいいのだ。

 散々跳びはねて壁がわりの布にぶら下がりミノムシのようにくるくるとやっていると、アイラがこちらをかわいそうなものを見るような目で見ていた。


「バグは修正されないけど、会議の結果、もう一つ決まったことがあるわ」


「え?」


 くるくる回っていた体がぴたりと止まる。

 正直嫌な予感しかしないんだけど。


「このままじゃ登録者が増えるほどヌルゲー配信になるから、『どうせなら、ウチらからお題出しちゃわない? その方が配信が面白くなるし緊張感が出るっしょ』、ということで、配信に“神々の試練“と銘打った企画を不定期でやってもらうことになりました」


「絶対それ無茶ぶりじゃないぃぃぃ!!!」


 天国から地獄に突き落としてくるとは、さすがはプロデューサーである。

 脱力の結果カーテンはぐるぐると戻っていき、わたしは遠心力によりペッと床に転がされた。


「何それ絶対やだぁ! どうせ宿で寝てたらスタッフが叩き起こしてきてドラゴン退治しろとか言ってくるパターンでしょー!」


 抗議の衝動に身を任せて床をゴロゴロと回っていく。

 未来が見える。神々が場当たり的な企画を出してきてわたしが苦しむのを楽しむさまが。

 わたしがやりたかったのは異世界のミステリーをハントすることでサイコロを振って国を横断することではないだが!


「神界会議の決定は絶対です。それにそう悪い話ではないわ。クリアするたびにスキルが与えられるんだから」

「え、マジです?」

「マジです。神々の試練とはそういうものですから」


 神々の試練。思いつきで付けられた企画名かと思えば、本当に、神話とかで語られる、あの試練のことらしい。

 話を聞くと、どうやら昔から神々は遊び半分でそういうことをして、打ち勝った英雄に特殊な能力を授けていたという。

 地球でもヘラクレスとか試練を与えられてたけど、あれ遊び半分だったんだ……


「ちなみに与えるスキルはダーツで決めて、八割がクズスキルとかそういうのじゃないよね?」

「……だ、大丈夫よ。スキルはきちんと難易度に相当するものを授けるから安心して?」


 ギギギと、目を逸らしたアイラの笑顔がぎこちない。ごまかすの下手すぎか。

 いじいじと髪の毛を指に巻き付けているアイラを見ていると、騒いでいるのが馬鹿らしくなってきた。

 はぁ、とソファに身を沈めてひと息つき、サイドテーブルに用意されたハーブティーに口をつける。


「まあいいか。上げたり落としたり忙しいけど」


 全体でいえば状況は良い方向でアップデートされたといっていいだろう。

 ……大丈夫だよね? マンドラゴラ百本抜くまで帰れませんみたいな企画ぶっ込んでこないよね?

 しかもクリア報酬が呪殺耐性とか。試練じゃなくてもそれだけ死ねば付くだろっていう。

 配信をみている神界の神々への不信感をつのらせていると、ふと気になる事を思いだしたのでアイラにきいてみる。


「そういえばさっき死んだけど、リスナーにはどういう風に配信されてるの?」

「それは神界側? 地球側?」


 レーティングされてるの?


「とりあえず地球側から」

「はい」


 そこにはわたしの断末魔と共に黒地に流れる赤い血が映し出されていた。

 なるほど、ホラーゲームみたいだ。音のみだったらまだいいか。

 ゴブリンは遠慮なくグロ配信しているけど、これなら自グロで視聴者が激減するみたいなこともないだろう。


「こっちが神界側ね」


 アイラがソファの前に手をかざすと現れたボードにわたしの首が舞う様子が一切の修正なく映し出されていた。


「う、グロ」

「R1000だからこれくらい普通よ」


 R1000て。まあ神様なら千才くらい超えてるか。あ、幕が降りた。グロの後にコメディ演出ってシュールすぎない?


「待って、最後になんか聞こえなかった?」

「気にしないで? ちょっと天使のゲラが入ってるだけだから」

「やっぱり笑うところじゃない!」


 神様にとってグロは耐性どころか笑いどころだったらしい。

 思わず突っ込んだけど、感性が違う存在に抗議したところで何も変わらない。

 とにかく、現代日本人にとって戦闘はグロでこのままだと離脱が大きいことだけは伝えた。

 後はアイラ達がうまいことやってくれるだろう。


「ということで、死んだショックから回復したしそろそろ復活するけど、今配信画面ってどうなってる?」


「盛り上がったところで『しばらくお待ちください』になってるわ。リスナー的には十秒後に、どこまで巻き戻ったか説明してから配信再開、というところかしら。リスタートはどこからにする?」


 そう、この死に戻りシステムは復活のタイミングを選べるのだ。

 大軍に囲まれたところからリスタートなんてことにならなさそうでよかった。


「じゃあ三体目のゴブリンを刺したところからで」

「四体目のゴブリンと戦うことになるけどいいの?」

「だってあそこで逃げたら凝血石が手に入らないじゃない。わたし現状一文なしなんだけど?」


恨みがましく睨むとアイラはまた目を逸らした。


「いや、街からお金持ってスタートだと視聴者が掴めないって上司プロデューサーが……」


 しばらく睨んでいるとアイラがしょげた顔でこちらをチラチラ見てきた。

 まあアイラ(下っ端ディレクター)に言っても仕方ないか。


「ま、いいわ。どうせ倒さないと映えないし、わたしもスッキリしないしね。というわけでお願い」


「はーい、いってらっしゃーい」


 ソファから立ち上がるとアイラの気の抜けた声と共に空中に手を翳した。

 視界が暗くなってぼやける。早速リベンジといこうか。

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