第2話:ADもいるよ!
:ワイらのことやないよな?
:パーティメンバーがいるのか?
:でもさっきカメラが回った時に誰もおらんかったやん
:マネージャーじゃねぇの?
え、俺ら? と混乱するリスナーの皆さん。そうだよね、急に自分たちに呼びかけられたらそうなるよね。
「あー紹介が遅れました。ムルルはわたしのカメラ係をやっている不思議生物です。ヴィーアルだと従魔扱いですね。姿は……うーん、なんて説明したらいいんだろ。カメラと一体化しているから映せないんですよね」
:まじか
:機械生命体?
:単眼ロボットが普通なんてファンタジーじゃなくてサイバーパンクやん。
「いやいや、目がカメラの機能を持っているだけなので、見た目は普通に生き物ですよ? 撮影中は話しませんけど手に持っているフリップ的なボードでサポートしてくれます。皆さんのコメントもそこに表示されてますよ」
:ADやん
:ADだな
:スタッフいたんやね。そらそうか。
:見せないようにしてるだけでロケ車とかもあるんだろ
連携のとれたコメントを読んでいると目の前の不思議生物が不機嫌そうにボードを上下させてきた。
と同時にチャット欄の反対側に手書き文字が現れる。
『誰がADだゴラァー。使徒付きって言ったら芸能神の天使の中でも花形なんやぞー』
知らなかったけど、私は芸能神の使徒という扱いらしい。
そこ端折るところかな? ま、いいや。何が変わるというわけでもないか。
「あははー、AD呼びされてムルルが不機嫌になってますねー。さて、脱線しましたが、今度こそ森に入りますよー」
ムルルもそこまで本気で怒っているわけではないのか、すぐに切り替えてさっきの薬草の名前を書いてきた。
「うん、薬草の名前はアプシン草ですね。黄色い花が特徴で滋養強壮作用があるそうです。というわけでこっちに行きまーす」
踏み固められた街道から轍のあとだけが目立つ道に入る。
と、チャット欄に疑問の声が目立ってくる。
「ムルル、ポジションバック。わたしの後ろについて」
わたしの見ているものがわかるようにムルルをゲームでいう三人称視点に移動させた。
ちなみに今までわたしを移すために正面にいたポジションがフォア。斜めがスレントだけど、基本的に視点はムルル任せだ。こうしてムルルがある程度移動するとわたしの前には半透明のボードが現れる。
ムルルの持っているのと同じやつだ。そこにはチャット欄だけではなく、ムルル視点の映像も映っている。
わたしは下を向き、草に埋もれるようにあるみぞを指さした。
「これは木こりが切った木を荷車に乗せて運んだ跡です。アプシン草は森の中でも木こりが木を切った後にできた広場なんかに生えるらしいんですね。つまり木こりが通ってきたこの道をたどればその広場に辿り着けるわけです」
:はえー
:ナイス斥候
:サユ姐切れ者やん
おや、そんな和気藹々としたチャット欄の中に不穏なコメントが。
『:んなもんより早くファンタジーらしいもん見せろよ』
どうやらヴィーアルを地球でのロケだと思っている人達が痺れを切らしたみたい。
確かに、今まで魔法も魔物も出てこなかったので不満が溜まっているかもしれない。
ファンタジーっぽいのはもうすぐ見られると思うのでちょっと待ってて欲しい。
「さてさて私の推理は当たってるでしょうか〜?」
などとお茶を濁しながら進むことしばし。木々の間から明るい日差しが見えてきた。
あのあたりにアプシン草など有用な植物が生えているんだろう。
あ、やばい。