【第2話:ブラック常識 vs 魔族的合理主義】
「この世界では、“休まない者”が怒られます」
リリィの言葉が、俺の社畜魂にじわじわと刺さってくる。いや、むしろ魂を抜かれてるまである。
「……信じられない。俺、今まで“休みます”って言うのにどんだけ勇気使ってたと思ってんの……」
「それは自己責任ですね」
ばっさり切り捨てられた。だが、その冷たさすらも今の俺には優しく思える不思議。
俺は休養を選んだ。人生で初めて「働きません」と堂々と言った瞬間だった。涙が出そうだった。
――そしてそのまま、案内された“休憩所”に向かうと。
「おお、ユウトくん!」
いた。営業部の田村先輩が、ちゃっかりハンモックで揺られていた。
「いや~、ここすごいぞ! ハーブティー飲み放題だし、天井に浮いてる小動物が子守唄歌ってくれるし、もう俺ここに定住するかもしれん!」
「どんな異世界仕様!? てか天井って空中なの!? 小動物!??」
混乱してる俺に、田村先輩はウィンクして言った。
「ちなみにな、あの子たち、労働者のストレス反応を魔力で読み取ってくれてるらしいぞ」
「え、それ現代にほしい!!」
とにかくこの世界、どうやら“働くこと”への考え方が根本から違うらしい。
そして現地人との初接触は突然にやってきた。
「君たちが、異界から来た“職場体”だね?」
声をかけてきたのは、肌が青く、金の瞳を持つ青年。服装は軍服風で、どう見てもエリート感満載。だがその横には――
「うわ……角、すっご……ていうか……強そう」
主人公である俺の感想を奪ったのは、その隣に立つ魔族の少女だった。長い銀髪、褐色の肌、そして堂々とした佇まい。背中には折りたたまれた竜のような翼。
「あなたが……佐藤ユウト、ですね」
「あ、はい!?」
「私はティアナ=グランバルド。魔王直属護衛隊長よ」
いきなり偉そうな人きたああああああ!!!
「ところで“始業の号令”って……いつ殴るの?」
怖い!!!!
リリィが後ろからぽそりと呟いた。
「ティアナ様は“物理に寄りすぎた教育”を受けて育ったので、言葉より先に手が出るタイプです」
いや、それ教育の問題だけじゃないだろ!?
だがその後、彼女は俺の顔をじっと見つめ、意外な言葉を口にした。
「……でも、あなたの目は、嘘をつかない目をしている」
「え、あ、そ、そう……ですか……?」
「うん、気に入った! あなた、私の直属になって」
「へ?」
「明日から一緒にダンジョン行こうね♪」
急展開!! 配属先、魔王軍護衛隊!?!?!?