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天野坂龍司の邂逅「件の女」

作者: 妖目 覚

初めまして、初投稿です。初めて書いた小説なので、短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

ホラーという位置づけにしていますか全く怖くないです。ただ私の個人的主観を込めているだけです。

「明日、あなたの周りの誰かかが死ぬでしょう」、突如そう告げれた僕は、「それ」が発した言葉の非現実性に狼狽していた。

 カラッとした夏の日差しが、思っていたよりも早く見えだした頃、僕は過ぎる季節よりも慌てふためいていた。僕は大学生で絶賛夏のテスト期間というやつだった。僕の大学生らしく、全く勉強をせず遊び呆けていた。それに対する当てつけの様に、課題というものは僕を苦しめているのだった。しかし、大変だったのは確かだが、苦しいものではなかった。僕のほかにも似たような状況の友人が何人かいたからだ。そんな連中と、「課題おわんねぇ」などとお互いの状況をからかいながらやる課題は楽しさすら感じた。そんな時のことである。僕は課題をやっている最中小腹が空き、コンビニへと出かけようと思った。僕の家に課題をやるため泊まりに来ていた友人たちにも、「何かいる?」いると空腹の有無を聞き、数名の友人から使いを引き受け、深夜の暗夜へと出かけた。夏の夜はとても涼しかった。昼間の暑さを忘れるほど心地よく、歩いてコンビニ行くのにはちょうどいい気温だった。コンビニへは直ぐにつき、ポテチやコーラを買い、帰路へついた。帰り道僕はふと立ち止まった。いや、正確に言えば「立ち止まってしまった」と言うべきかも知れない。その道は特別な道などではなく、いつも通る普通の道なのだ。今のように深夜にこの道を歩くのも珍しくない、「普通」のことだ。だが、そのときの僕は立ち止まってしまった。気のせいかも知れないが、少し空気が冷え込んだ。その瞬間僕は後ろに気配を感じた。振り返るべきではなかったとは思う。しかし、僕は本能的に振り返った。振り返った先には、一人の「女」がいた。女はとてつもなく美しい女だった。稚拙な表現だが、ガラスような瞳、鼻筋がしっかり通っている顔立ちに白い肌、俗に言う「絶世の美女」というのはこの女の様なことを言うのだろうと。異常な状況ながらそう感じた。僕と女の間には少しの沈黙が流れた。先ほども言ったがこの異常な状況で僕は声を出そうと思えなかった。深夜、一人の女が、道の真ん中に立ちこちらを見ている。もしアニメなら、この状況は願ってもないものかも知れない。しかし、僕はこれが現実だというのをしっかりと理解した上で、本能がこの女の危険性を知らせてくれているのを実感している。このまま走って逃げようと思った。しかし、この女の目を見ていると不思議と逃げようだとかそんな考えが、消えていってしまう。まるで蛇ににらまれているみたいだった。そんな膠着状況を先に崩したのは、まさかの女の方からだった。女は細い腕を前へ、そして僕の方へ指を指した。そして女は、か細いが、通りの良い声で、

「明日、あなたの周りの誰かかが死ぬでしょう」と僕に告げた。僕は、その言葉と女の持つ奇怪さに飲み込まれ、不思議とそれが嘘に思えなかった。言葉を聞いた僕は、恐怖で困惑していたがそれを振り切るように、やっとの思いで声を振り絞り、聞き返した。「だ、誰が死ぬって?」、「誰かです」、予想に反して、返答が返ってきた。「君は、ここで何をしてる?、そんな冗談を言うのはやめてくれないかな。」僕は女にその言葉の真意を聞く意味で、そう問いかけた。「冗談ではありません、死ぬんです、絶対に」女の声は決して、冗談などを言う声色ではない。これは現実なのだと僕は女に突きつけられた。僕はこれ以上この場にいるのはいやだった。コンビニになど行かなければよかったと深く後悔した。完全に恐怖のどん底に落とされいろんな感情が混ざり、うめき声に似たようなものしか発せなくなった僕へと、女は向かってきた。僕は殺されると思った。二十歳でこの世を去るのかと、短い人生を振り返ってすらいた。女が近づいてくる、一歩ずつ、着実に僕の命に手をかけようと近づいている。嗚呼、終わった、そう思い、僕は目をつぶった。短い人生の走馬灯を再生しながら。

 目が覚めると、僕は見知った天井を眺めていた。僕は体を起こして、周りを見渡した。僕の足先には、課題が終わり、熟睡している友人たちがいた。時計を見てみると、時刻は朝八時を過ぎていた。「夢だったのか?」僕は小さくつぶやいた。僕は、体の空気が抜けきるほどの安堵のため息をついた。きっと課題の疲れで、変な夢を見たのだなと、そう思い込んだ。そのとき、ふと目を向けた先に、コンビニの袋が見えた。僕は、その中身を見て、もう一度恐怖した、コンビ二で買ったポテチとコーラの空が入っている。あの女と出会った夜買ったものが、僕の目の前にあるのだ。あれは、夢なんかじゃない、きっとあの女はまだあそこにいるのだ。僕は、それ以来その道を通ることはせず、夏を過ごした。

 「で、死んだのか?」僕が話終えた頃、だるそうな声が、話の余韻を消し去った。「は、はい?」、「だから、死んだのかって聞いてるんだ」。「え?。えーと」僕は答えに困った。「明日死ぬって言われたんだろ?、なら君の友人が一人位死んでないと、辻褄が合わない。鬼島くん君、話作ったろ?。」「あー、やっぱバレます?」、そうこれは作り話なのだ。「夏の本当にあった怖い話って書いてんのに、何で作っちゃうのさ?」「いやあ、すいません先輩、元小説家志望が出てきちゃいまして」。僕の名前は鬼島蒼。元小説家希望、現在は出版社で仕事をしている。高校生の頃、青少年コンクールで受賞したことをきっかけにこの世界に入ったが、小説家としてはうまくいかずこの仕事に落ち着いている。

「君がいい怖い話があるって言うから、聞いてみたら作り話って、君ふざけてるのか?」いつも優しい先輩も、さすがに怒っている。「君の文才は素晴らしいものだけど、今回は読者募集だよ?、出版社の人間が書いてどうするのさ?」「ごもっともです...でも、読者の送ってくるやつも全部嘘くさいですよ?」、「言い訳するな」。「はい...」「ていうか、話の落ちがポテチとコーラって...やっぱりふざけてるだろ?」「ネタ切れってやつです、ほんとすいません」「まあ、設定は良かったよ、シンプルで分かりやすいし、でも、もうこういう話は通用しないだろうな今の時代。」「そうですか?」「だって、基本予言とかそういう話で本当のことってあんまないだろ。占い信じるのでギリだよ」「確かに、怖い話で予言が出てくるのは少ない気がしますね」「予言なんてものは基本遠くの未来を見るものだからね、君の書いた話みたいに、〈明日〉死ぬってのは信憑性薄くなるんじゃないかな」「まあ、そうですね」「昔は予言とか出ると、皆騒いでたんだけどなぁ」「ノストラダムスの予言とかですか?」「そうそれ、基本的に予言てのは、神の啓示みたいな感じなんだよね、その女みたいに未来を言いふらすというのは珍しいね、というよりは君の書いた予言の表現は日本的だね」「日本的ですか」「うん、これはあくまで持論だけど、さっきも言ったように、海外は基本予言は神の啓示で、占い師とかシャーマン的な人がそれを受信しているイメージ、けど、日本は信仰が色々あるから、必ずしもそうとは限らない、神の啓示という考えもあれば、妖怪とか霊のたたりになったりする。ちょうど君のやつは妖怪っぽいね。」「例えば、どんな妖怪ですか?」「有名なやつで言えば〈件〉かな」「クダンですか?」「そう、体が牛で頭が人間の妖怪、不意に現れて、予言をした後死んでしまう、そんな妖怪だったかな。」「そんなやついるんですね」「うん、いる、今は分からないけど、けどまあ、病気とか災害とかそんなのは昔の人にとって不思議なことでしかないだろうしね、今は科学の進歩で諸々の原因を知ることが出来るからいいけどね、だからそういう不思議なものを妖怪にして理解する方法を皆とったんじゃないかな?、そういう風にして、見えないものと戦ったのさ。」「昔の人は皆想像力豊かですね。」「現代人も大概だろ」そういうと先輩は、椅子から立ち上がり、窓の外を見た「でも、きっと妖怪はこの世界のどこかにいるんだろうね、僕たちの知らない世界で」そう言った先輩の目は少し寂しそうだった。「それじゃ、仕事に戻ろう、締め切りが迫ってる、読者募集の怖い話、適当にまとめといて。」「分かりました」そして僕と先輩はそれぞれの仕事へ戻った。

 あれから、数時間がたった、読者募集の話はかなり量が多く、まとめるのが大変だった。僕は時計を見る、時刻は夜の11時を指していた。「もうこんな時間か、そろそろ帰ろう」僕は荷物をまとめ、帰路へついた。「あの話いいと思うんだけどな」昼間、却下された自信作を思い出す、結構力を入れたので少し悔しさを感じる。しかし、また怒られたくないので、諦めることにした。しばらく歩いていると、僕は自分の後ろに気配を感じた。気のせいだと思った、そう思いたかった。先輩とあんな話をしたからきっと勘違いだ、そう思い込んだ。だが、僕は足を止めた。本当なら走り抜けるべきだ、だけど僕は好奇心に負けて、振り向いてしまった。

 そこには一人の女がいた、ガラスのような瞳、鼻筋の通った顔立ち、白い肌。僕が考えたあの通りの女が、僕の目の前にいた。僕は息を飲んだ、ゴクっという音が真夜中に響く。僕は驚き叫ぶ声も出すことが出来なかった。女の目は僕の顔をじっと見つめている。僕の足は金縛りにあったように動くことが出来なかった。女はか細く、白い腕を前に出し、僕に向けて指を指した。そして、か細く通りの良い声でこう告げた。

 「明日、あなたの周りにいる誰かが死ぬでしょう」そう言い放った。そのとき僕は気づいた、僕の書いた話と同じ展開になっていることに。そしてこれから僕は、こういうはずだ、「だ、誰が死ぬって?」同じだ、これは僕の書いた話が現実になったんだ。でも、この後僕はどうなるんだ?僕の書いた話では、女が近づいて、僕は気を失う、だが、本当に僕は生きて帰ることが出来るのか?。もしあの女が僕を殺しに来たら?、分からない。でもこの状況はまずいと僕の本能が言っている。「何とかしないと」そう思い僕はかろうじて、動く手でスマホを取りだした。先輩を呼ぼう。先輩ならなんとかしてくれるかも知れない。僕は先輩にメッセージを送った。そのときである。女は「誰かです」と言った。それに対し僕は「君は。こんなとこで何してる?そんな冗談を言うのはやめてくれないかな」「冗談ではありません、死ぬんです、絶対に」女の声は本気だった。この後僕は、死ぬのか?僕は恐怖のどん底にたたき落とされた、こんな話書かなければ良かったと深く後悔している。僕は短い人生を振り返った。もっと頑張れば、小説家として成功していたかも知れないのに。そんなことを考える僕を気にせず、女はこちらへと向かってくる、一歩ずつ着実に、僕の方へと。僕はもう目をつぶるしかなかった。これまでの人生の後悔と走馬灯を再生しながら。

 目を開くと視界に夜空が入ってきた、「目、冷めたかな」と同時に聞き覚えのある声が聞えた。「急にメールが来るから来てみたら、こんなとこで寝ちゃダメだよ、酔っ払いじゃないんだから。」「先輩、あの女は?」「ああ、いなくなったよ、もうしばらくは出てこないだろう」「え?どういうことですか?」

 後輩の鬼島君からメールがきた。「先輩たすけてください、あの女がいます。」あの女、これはきっと彼の書いた話に出てきた女だろう、とんだいたずらかと思ったが来て正解だった。実際僕の目の前には、気絶してる鬼島君と、綺麗な眼に白い絹のような肌をした女がいる。「その子を殺すのやめてもらえないかな?」女は黙っている。どうしたものか、どうやったらこの状況を収めることが出来るだろうか。「君は、何故こんなことをするんだい?」女はこちらを見た。とても怪異だとは思えない綺麗な眼をしている。女は僕をしばらく見た後、歩きだし、気絶している鬼島君の脇を通り過ぎていった。どうやら別に殺したいわけではないようだ。

 僕は鬼島君を起こしに向かった。あのまま寝て風邪でも引いたら困る。鬼島君が目を開く「目、覚めたかな」「先輩、あの女は?」「いなくなったよ、もうしばらくは出てこないだろう」「え?どういうことですか?」「こんな話がある、予言というのは、起こるのではなく、それを聞いた人間が起こすものだと。もしそれが本当なら、あの女は予言を僕たち人間に振りまいて、それを病原菌のように感染させているのかも知れない。そして、それが本当になったとき僕たちはあの女の予言を信じる。本来、病気や災害は、偶発的なものだ。だけど、あの女はそれを必然的に出来る。人々に自分の予言を聞かせ災害や死を招かせるんだ、それが終わったらあの女は消える。そしてまた現れて予言をする。それを繰り返してるんだ。きっと君以外にも〈やつ〉を見たやつはいるんだろうね」「先輩、どうすれば?」「どうもしないよ、なにも出来ないしやってはならない。受け入れよう」「そう、ですか」「君のせいじゃない、やつはそういう存在なんだ、何かが起きるときそこに〈ヤツ〉はいるんだよ」

 先輩は、僕を介抱し家まで送ってくれた。帰り際先輩は、「鬼島君、君の書いた話、やっぱ載せよう、もしまだ、罪悪感があるのなら、君の持っている真実を記しておくんだ。そうすれば読んでくれた人たちは心構えが出来る。見えないものと戦う準備がね。」先輩は優しくそう言ってくれた。 

 後日、僕は、起きたことを記事にした。「あ、一応フィクションも混ぜといてね」と先輩に言われたので、それに配慮しつつ渾身の記事を書いた。雑誌出版の日、売り上げはというと、「うん、そこそこだね、悪くないよ、会社は潰れないで済みそう」と先輩は笑っていた。「あ、せっかく鬼島君記事書いたんだし、一部持っときなよ記念にさ」先輩は僕に出来たばかりの雑誌を渡してくれた。ページを開くと、僕の記事が割と大きめに載っている。「いいんですか?、読者募集なのに?」「いいんだよ、君のは本当だから、それに僕が題名つけたんだから、権力行使しちゃった。」「あ、そうなんですね」僕は記事を読み進める、僕のほかに様々な記事がある、「トイレの怪談」「肝試しでの怪談」様々だった。僕の記事には、こう名前が書いてあった。「件の女」。「なかなかいいでしょ」先輩がのぞいてきた。「まあ、確かに」「とにかく読んでみてよ、僕の一言も載ってるから」僕は自分の記事の最後の方を読んだ。



  本記事は、今回の企画の中、編集者達の間で大変好評だったものです。記事に登場する、件の女、この女のもつ、奇怪さやその中に潜む美しさ、それをしっかりと味わっていただけたかと思います。今これを読んでいる皆さんの目の前にも、「件の女」は現れるかも知れません。夜道を歩く際はお気をつけください。最後にこれを読んだことによる、怪現象や霊障による被害に関しては当社は一切の責任を負いませんので、どうかあしからず。        

                               「邂逅」編集長 天野坂 龍司


 


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