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そう、そうなの…この気持ちが母性なのね。
泣いていると泣き止んでほしいのにかわいくて、アスランを立派に育てたい、育ってほしいと、全てを言葉にすることは難しい、この温かな気持ちを母性というのね。
腕にアスランの重みを感じて、気が緩んだら涙が出そうだった。
その後、授乳後のゲップの出し方までしっかりメリーに指導してもらい、寝ているアスランの邪魔をしないようにわたしとシャナは部屋を出た。
「ルイチー様、一旦お部屋へ戻りましょう。お疲れが見受けられます」
「そうね、そうするわ」
確かに疲れた。
授乳や抱っこも初めてで手間取ったこともあって確かに疲れた。
だけど1番の問題は、部屋同士が遠すぎること。
この広いお城は一部屋ずつもとても広い。ちょっと先の部屋に行こうと思っても歩く距離は結構ある。
実際わたしとアスランの部屋も三つ隣の位置で、言葉だけで聞けばそんなに遠い印象を与えないのだけれど、まだまだ産後3日目の体。
この体で移動するにはちょっときついわね…
「お茶をお入れしますね」
部屋について一息ついたわたしにシャナがお茶を入れてくれた。
「ありがとう…」
ふう、と美味しい紅茶を飲みながら一息つく。
そういえば、妊娠前まで飲んでいたお茶の一部は、妊娠中や産後すぐに飲むと体に悪いらしい。そんなことで、このバリア王国では、妊婦や出産直後の女性向けの紅茶が開発されている。
味の違いは正直わからないけれど、安全なものが飲めることに感謝ね。
こんな良い国の王子として生まれたのだから、この国の人のために良いことをして感謝される王子にアスランにはなってほしいわ。
間違っても断罪されるようなことは絶対になってほしくない。あんなに愛しい生き物、初めて見たわ。
わたしの可愛い可愛いアスラン。
絶対に何があっても守ってみせる。幸せにしてみせる。
そして、アスランも誰かを幸せにできる人であってほしいわ。
今日、アスランに会いにいって良かった。
会って、触れて、胸に抱いて、アスランのことが愛しくなったわ。『母性』…、これはなんだかとっても温かい
感情ね。
この感情を知ることができて、本当に良かったわ。お告げの中に出てきたわたしがアスランに向けていた感情はこれではなった気がするもの。
クルスの気を引けるから大事にしている、そうも見えたわ。
でも今は、クルスのことは関係なく、アスランのことを愛しく思うわ。
「シャナ、少し休んだらまたアスランに会いに行くわ」
「左様でございますか。お身体がお辛くなければ構いませんが…」
「大丈夫よ。ただもう少し休むわね。なんだか眠くなってきてしまって…」
「ええ、お疲れでしょう。しばらくしたら、お声がけしますね」
紅茶を飲み終えたところで睡魔に襲われ始めたわたしは、一度お昼寝をすることにした。
出産後の体って、ほんと、思うようにいかないのね…。初の授乳だったとしても、こんなに疲れるなんて…
世の女性たちを尊敬するわ。まあでも今日は、お告げの夢も見たし、ちょっと疲れやすいのも仕方ないかしら。
そんなことを考えながら、一度昼寝をすることにした。
起きたらすぐアスランに会いに行くわ!待っていて、アスラン。