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アスランが断罪されないようにするために何が必要なのか、それはまだまだ全然わからない。
わたしがわかるのは、わたしが学生になったアスランには欲しがるものを何でも与えていたのは間違いだということだけ。
今くらいのアスランにどんなふうに接していたのか定かではないけれど、わたしのあの『メンヘラ』具合を鑑みれば、アスランに母性など感じていなかったと思う。
城の中には乳母がいて、メイドがいて、執事がいて、家庭教師がいて…わたしが何もしなくてもアスランが育つ環境が整っている。きっと赤ちゃん時代はこの環境にアスランは育てたもらっていたんじゃないかしら。
「でも、その慣習にメリー夫人の言っていた母性…、愛おしいと思う気持ちはあるのかしら…」
城の使用人たちは皆、時期陛下として大切に敬って接してくれると思う。だけどそこに、アスランに対する純粋な「愛」はあったのかしら。わたしもそれを与えていないのに、使用人に求めることのほうが間違っているのはもちろんだけど。
だからこそ、
「慣習通りに育てることが悪いことだとは思っていないわ。メリーがアスランを大切に思ってくれていることも、もちろんわかっているわ。だけど、今わたしは自分の手で、アスランを育てるということでアスランに愛を伝えたいの。だから母乳も、わたしがあげるわ。」
シャナを見てはっきりと伝えた。お告げ通りにするわけにはいかないのよ。
「出が悪くなったり、公務のことで難しい時はメリーを頼ってしまうと思うけれど…」
「まあまあ!そんなの大歓迎ですわ。ね、よろしいんじゃないかしら、シャナ様。今のお妃様のお気持ちが『母性』ですわ。シャナ様もご子息様に感じていらっしゃるでしょう?」
メリーは優しい瞳でシャナを見る。シャナは少し考えるように目を閉じ、わたしに向かって頭を下げた。
「先ほどは過ぎたことを申しまして、申し訳ございませんでした。さっそく、授乳の準備をいたしましょう。メリー様とお手伝いしてもよろしいでしょうか。」
「いいのよ、突拍子もないことを言って驚かせてしまったわね。メリー、シャナ、協力してちょうだい。」
シャナの謝罪を受け入れ、2人に改めて声をかけると、かしこまりました、とそろって返事をもらえた。
すぐに準備にとりかかってくれた。
絵でしか授乳を見たことのないわたしとは違い、さすが経験者の2人。
あれよあれよというまに、アスランは椅子に腰掛けた腕の中で可愛らしい顔をして母乳を飲んでいる。
人払いをして、部屋にいる大人はメリーとシャナとわたしだけ。メリーとシャナは側で授乳を見守ってくれている。
まあ!なんてかわいらしいの!!さすがわたしとクルスの息子!!
ほんのり生えている髪の毛…、産毛かしら?はクルス譲りの金髪だ。
きっとクルスと同じ、金髪碧眼になるに違いないわ。違いないっていうか、そう言えばお告げの中のアスランも金髪碧眼だったわね。
お告げ通りなら金髪碧眼の超イケメンになるわ。
うふふ、イケメンのアスランんも素敵だけど、赤ちゃんのアスランも素敵よ。
顔だけに限らないわ。なんかもうこの必死でミルクを飲む感じとかにぎにぎしている手とか全て可愛らしいわ。
心の中でアスランに大賛辞を送っていると、
「まあお妃様、優しいお顔をなさって。まさに母性溢れるお顔でございますね」
メリーが声をかけてくれた。
「…わたし、そんな顔しているかしら…?」
母性溢れる…?
「ええ、ええ。泣いたアスラン王子を抱き上げた時から感じておりましたよ。それに、ご自身で育てたいという気持ちだって、母性の表れでございますよ。ねえシャナ様」
「ええ。わたしは母性という言葉を初めて知りましたが、アスラン様を愛おしみ、守りたいというような表情でございました。それを母性と呼ぶとのことでしたので、メリー夫人のおっしゃる通りかと。」
シャナも頷いた。