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さて、阻止をするとは言ったものの何から始めたらいいかしら。
産後3日目、ベッドに横になりながらわたしは目を閉じる。
ひとまず状況を整理しなくちゃ。
まだあの物語の映像が現実に起こるかどうか、本当のところはわからない。
だけど、もし本当だったら?
『悪役令嬢』と呼ばれる御令嬢が、なんやかんやあって自分の考え方を改め、アスランからの断罪にもめげず、悪を滅ぼし幸せになる話だった。
その物語の舞台や登場人物たちが全て今わたしの生きている世界、環境と一致していた。
そしてちらっとだけ出てくるアスランの母親が見た目も名前も考え方も確実にわたしだった。
…『お告げ』と捉えることにしましょうね。
そして、これは今は誰にも言わないでおくのがいいわ。出産を機に気が狂ったと思われたら困るし。
あの『お告げ』の中ではわたしはすでにクルスから距離を取られているみたいだし、クルスに伝えたらクルスの気を引きたいだけだと思われちゃうわ。
………正直言うと本当はとてもとてもこの『お告げ』でクルスの気を引きたいわ…!
こんな怖いお告げを聞いたって言って、クルスに心配して欲しいわ…!!!
でも!でも…!!
あのお告げの通りだと、ちょっとしかその描写はなかったけれど、わたしはすでに『メンヘラ』として心の距離を取られているようなのよ…!!
たしかに、たしかによ?
ちょっと重いところはあるかもしれないわ。
学生時代に他の女の子が近づけないように、いられる限りは学内でも四六時中一緒にいたし、他の女の子が近づこうものならクルスの前で大泣きしたわ。
舞踏会の時は他の女性と踊らないように「他の方と踊られたらその方にわたしは何をするかわからないわ」って、涙ながらに頼んだこともあったわ。
ついでに「わたしのことがどれくらい大事なの?」「お友達よりも当然わたしを大事にして欲しいわ」…などなど……
…だって好きなんだもの!
だけどクルスはわたしに対して特別扱いはなくて、たぶん恋愛的に好かれてなくて!!
不安だったのよ!
誰にたいしても暴力行為はしていないし、もちろん自傷行為もしてないもの!
婚約者なんだし、責められることじゃないはずよ!
だけど、だけど…これがクルスにはマイナスだったのね…
好かれようとやったことが逆効果だったら意味がないわ。
結婚して2年が経って、少しは恋愛的に好かれてるかな、なんて思っていたけれどそれも夢かしら…
まずいわ、思考が暗くなってきてる
今、クルスから好かれているかどうかを考え始めたって答えは出ないし、好かれていないってなった時自分がどうなってしまうかわからないわ。
クルスのわたしに対する気持ちについては一旦置いておいて。
まずはアスランの教育を間違えないようにしなくちゃ!
アスランの望むことを全て叶えて、とにかく優しく甘くなれば良いってわけじゃないのよね。
アスランには良い王になって欲しいし、とにかく断罪は阻止よ阻止!!!
さあ!がんばるわよルイチー!
わたしはベッドの上で拳を天井へと高くつきあげた。
「いたっ!」
そういえば出産の時にベッドの柵を強く掴んだんだった。
何の痛みかと思っていたけれど、筋肉痛ね。