表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/32

Case1―Scene1  意思なく狩る者

 使っていたスナイパーライフル―ウィンチェスターM70を抱えたまま急いで屋上から階段を下りた滝野は、用意していたカゴ台車にそのライフルを突っ込んだ。

 そのカゴ台車は、段ボールと白い布で、荷物の運搬中かのようにカモフラージュされている。

 滝野自身も運送業者を意識した服装をしていた。そしてそのままエレベーターで地下駐車場まで下って、とある乗用車の前まで台車を押していった。

 そこは監視カメラからも死角の位置である。停まっているのは、小豆色というのが少し珍しいが、ごく普通のセダンだ。

 周りに人がいないことを確認してから、布に包んだライフルを急いで車の後方に運ぶ。トランクを開けて、布に包んだままゴルフバックの中に入れた。

 そこまでやった滝野は少しだけ気を落ち着かせ、残りの布や段ボールを折りたたんで同じくトランクに入れた。カゴ台車も折りたたんで、それは後部座席に突っ込む。

 そして自分自身も後部座席に乗り込み、それまで来ていた緑色の衣服を脱ぎ、帽子もとって特徴のない白いTシャツと濃い群青色のカーゴパンツ姿になった。

 そして黒いウレタンマスクで顔の下半分を覆う。コロナ禍以降、マスクをつける習慣が、人々はまだ抜けていない。

 よどみのない運転で、つつがなくそのビルを出たが、滝野の心臓の鼓動は緩むことがなかった。何度やっても、この感覚は慣れることがない。


      ***


 家に着いた。日中は両親とも仕事に出ているため、家には誰もいない。

 玄関から家の中に入った滝野は、ゴルフバッグを元あった場所に慎重に置き、ライフルを取り出して自分の部屋に持って上がった。押し入れの中から上がれる天井裏が、こいつの定位置だ。

 天井裏の蓋をそっと閉めて、滝野はようやく一息つくことができた。少し休んでから、自分のベッドの下に隠してあったゴルフクラブを全て抱え上げる。

 ゴルフクラブをしまってから部屋に戻った滝野の呼吸と心臓は、まだ落ち着きを取り戻していなかった。まだ十九歳なのに、一度早鐘を打った心臓が、最近なかなか元に戻らなくなってきている。

 自分の部屋で少し落ち着いてから、滝野は車に戻り、台車や段ボールを納屋に戻した。そして車に傷がついていないかを念入りに確かめる。

 勝手に持ち出しているので、少しでもかすったりしてようものなら父親に殺されてしまう。

 今回も、特にどうにもなっていないことに胸をなでおろしてから、滝野は自室に戻った。ベッドに倒れ込んでから、再び深いため息をつく。

 人を殺すのは、これで三度目だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ