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Case1―Scene4  恐怖

 初めてあのバイクの男を目撃してから、滝野はその後二回狙撃を敢行していた。

 そのいずれの現場においても、あの男は姿を現した。明らかに自分を狙って来ている。本当に一体何者なんだろうか?

 滝野はSNSをしておらず、ネット記事もほぼ見なかったので、ネット上で自分が〝令和のスコルピオ〟と呼ばれていることも、世間が、〝ヴィジランテ〟という男が自分を狩ってほしいと望んでいることも知らなかった。

 そんな滝野にとって、あの未知の男の存在は恐怖でしかなかった。

 ただでさえ狙撃するときは、言い知れぬ恐怖と隣り合わせなのだ。見つかったらどうしよう。捕まったらどうしよう。

 その活動時間こそ動きやすい日中であるが、警察の捜査の目をかいくぐるために周期と場所は常にランダムにしていた。滝野自身も、次いつどこで自分が狙撃するかは分かっていない。

 これだけの人間を殺しているのだ。警察に捕まれば、間違いなく死刑になる。しかし滝野は直感的に、あのバイクの男に捕まっても自分に命はないということを悟っていた。

 それでも滝野は、何かにとりつかれたように次の狙撃場所を選び始めた。


      ***


 七か所目となる狙撃場所を決めたのは、それから十日後のことだった。もう八月になっていた。

 場所は、表参道。長く伸びるお洒落なショッピング街の、とりわけお洒落な宝石店から出てきた客を狙う。

 思い立ったが吉日、滝野は翌日には決行できるよう準備を整えた。もう手慣れたものだ。

 下見をして、無音のカメラアプリで撮りためた画像を見ながら綿密に計画を立てる。眠れぬまま蒸し暑い夜が明けた。

 いつも通り両親は早々に家を出た。少し仮眠をとった後、車に乗り込む。食事はとっていなかった。目当てのビルへ。

 人目につかないように気を付けながら、屋上へ向かった。今回も、運の良い事に特段トラブルのないまま上がっていくことができた。

 姿勢を低いまま保って、狙うところが見える場所まで近づく。そのまま座り込んでライフルと銃架を取り出した。慣れた手つきで組み上げる。

 一回大きく深呼吸して、勢いよく振り返って身を外側に乗り出した。その時にスコープに映り込んだ人間を狙う。

 今回は若い女性だった。滝野はこの時、いつも無心になる。滝野は引き鉄を絞った。


      ***


 ボルトを引き排莢して、次弾を装填する。次の標的を狙おうと再び身を乗り出すと、自分は撃っていないのに再び銃声が聞こえた。


 チュン! チュン!


 滝野は自分のすぐそばのへりが2ヶ所、えぐられるのを見た。僕が撃たれているのか! 

 滝野は動揺しながらも、すぐさまその場に座り込んだ。へりの内側に完全に身体を入れ込む。なんの意識もしていないのに、あごががくがくと震えはじめた。

 ついにこの時が来てしまった。いつかは来るかもしれないと思っていたが、ついに狩る側から狩られる側になってしまった。

 どこから狙っている? だが滝野には実は見当がついていた。

 滝野は身を乗り出した。〝あそこ〟からここを正確に狙うのは、生半可な銃と腕では無理だ。

 滝野は狙いを定めた。表参道は背の高い樹木が多い。その枝葉に邪魔されてよく見えないが、それは向こうも同じだ。考える間もなく、撃つ。

 滝野が撃ったあとも、こちら側の壁、へりと立て続けに被弾した。やはりこの場所では、お互いに威嚇にしかならない。

 向こうからの銃撃が止んだ。どうやらそのことに気が付いたようだ。

 滝野は腕を伸ばして荷物をかき集めた。ライフルを包む間もない。急いでここを離れなければ。

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