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第0話 プロローグ

○ プロローグ


 荷馬車が小道を走っている。ゆっくりと走っている。

 荷馬車の御者台には、人影がふたつ。男がひとりと、隣に少女がひとり。

 あまり良い道ではないので、ふたりは、左右に揺れながら座っている。男は手綱を握り、少女は、足をぶらぶらさせている。

 男は、風采の上がらない顔をした、どこにでもいそうな感じだ。あまり若くはない。いや、どちらかというとおっさんだ。

 対して少女の方は、ロングの金髪、そして碧眼で綺麗な顔立ちをしている。しかし、空を見上げ、不満そうにぼーっとしていて、顔がちょっとだらしない。真面目な顔や、きっと笑ったら可愛いのだろう。

「ねえ、DT、暇なんだけど。」

 DTと呼ばれたその男は、しかたないと言う顔をして、

「では、早口言葉でもしますか?」

「それ、もう飽きたわよ。他にないの。」

「しりとりとかしますか?」

「それも飽きたわよ、ねえ、ひ・ま・な・の・!」

 一文字、一文字に力を込めたって、最後の「!」にどうやったら力を入れられるのでしょうか。

 DTと呼ばれた私は、「はあ」とため息をひとつついて、アンジーと呼ばれた少女の顔を見て残念そうにこう言った。

「アンジーさんって、最初出会った時は、可愛かったのですけどねえ。」

 私、しげしげとアンジーの顔を見たあと、道の方を向いて、何かを思い出すように軽く目を閉じた。

「今も可愛いわよ」

 アンジーと呼ばれたその少女は、両手を腰に当てて、無い胸を張って、自信にあふれた答えを返す。本当に胸、無いですよね。

「まあ、私の頭の中のイメージを参考にしているらしいですから、私の好みにドンピシャなのでしょうけど、ああ、もう少し年齢が高ければ超ドストライクなんですがねえ。」

 私はそう言ってまた、ため息をひとつついた。そしてこう続けた。

「あの物静かで控えめなアンジーさんが懐かしい。」

 私は、言ってから目を閉じて過去のイメージを思い出してみる。

「あんたねえ、今更、あの時の私に戻れって言われたってねえ、これが私の素なのよ。あきらめなさい。」

「そうなのかもしれませんが、「性格」も可愛かったあなたと、出会った頃を懐かしく思ってしまいます。」

 そう、あれは、私が、DTと呼ばれている私が、この世界に来たときに遡ることになる。



○ アンジーとの出会い

 私が「この世界」に初めて来た時は、草原のど真ん中に仰向けに寝っ転がっていました。

 爽やかな風と温かな光の中、私は目覚めました。寝っ転がったまま、私は、まぶしく感じた中天の太陽に手をかざします。

「はて?ここはどこでしょう。」

 私はそう独り言をつぶやいてしまいました。そして、

『私は誰?』心の中でつぶやいても、名前が出てきません。

『ここはどこ?』もちろん地名も思い出せません。でも、焦りも感じません。

『なんでこんな所にいるのだろう』

 こんな所ってどんなところなのでしょうか?わかっていないはずなのにと禅問答のように頭の中でぐるぐるしています。

 ああ、自分には、自分自身の記憶が無いのか。でも、自分に関する記憶はないのに、自分の世界の知識はあるようなのです。

 そのままぼーっとしていると、草が頬に当たってくすぐったく感じました。

 頬にあたる草を間近に見て、これは何の草だろうと思った途端。その草の名前が見え、その成分、構成分子まで見えました。

 ああ、そうなのですね、私には見えるのですね。そして、その草の名前が自分の知らないはずの文字で表示されていて、さらにそれが読めるのだと言う事を理解しました。どうやら私は、見知らぬ土地に来ているようです。

 面白くなって起き上がり、草を、土を、石を、砂を見てみました。石をじーっと見続けているとどんどん拡大されていき、今思えば、分子構造まで見えていました。

 その時は、自分がこんなことをできるのはすごいと自画自賛していましたが、はて、もしかしたら誰でもできることなのかもと疑問にも思いました。

 しかし、そんなことができたとしても、おなかは空きます。おなかが空いてお腹が鳴る。そこにいつまで座り込んでいても何も起こりそうにないので、立ち上がり、服についた土をはらい、周囲を見回します。

 私の寝そべっていた草原の少し横には道があり、なだらかな坂になっていて、その先の稜線の向こうには、集落らしきものが見えました。なので、さっそく道まで出て、その集落を目指して歩いています。

 することがないので、大きく手を振ったり、両手を握ったり開いたりしています。すると、握った手のひらに何か塊ができています。何か魔術的な模様がそれを囲んでいて、よく見ると空気の渦がそこにできています。軽いですが、重さまであります。どうやら手をにぎにぎしていたらいつの間にか手の中で空気を圧縮していたようです。さらに握り続けるとどんどん圧縮されていき、飽きたので、面白がって地面にたたきつけると、


ボコッ

 と、音を立てて結構大きな穴があきました。

 「これはすごい」

 何かの役に立つかと思い練習しながら、周囲に投げながら歩いていると。

 「キャーーー」

 近くで女の子の悲鳴が聞こえました。思わずその方角に走っていくと、草原の中で女の子が動物に襲われていました。座り込んで這いずるようにその獣から逃げようとしています。獣は熊のような大きさで、2足歩行してその子に近づいていく。私の記憶にはない猛獣だ。

 私は、思わず、握っていた風の玉をその獣に投げつける。

 ボコ 果実が潰れるような音がしてその獣の頭がふっとび、獣はそこで立ったまま動けなくなった。

 ブッシャーーー

 頭部がなくなった首のあたりから血が吹き出していて、吹き出した血が止まった頃、ドシンという大きな音を立てて、巨体が仰向けに倒れた。

「すとらいく?」

 自分でもとんちんかんなことをつぶやき、座り込んでいるその子の元に駆けつけました。

「大丈夫ですか?」

 私が、そう声を掛けると、その子は私の方を見てびっくりしたような顔をした後、ほっとため息をついた。

 しかし、落ち着いたのか、私の顔だけでなく服装をじろじろと見ている。ああ、そうか、変な服を着ている怪しい人ということなのか。確かに私は、自分が何を着ているか見ていない。

 怪訝そうな表情から一転して、その子は、にこりと笑顔になった。おお、超・絶・可愛い。金髪碧眼のロングストレート、手足は細くしなやか。肌は透き通るように白い。そして、顔はドストライクでもろ好み。しかし、子どもだ。

 立ち上がらせ足や服についた土を払い落としてあげる。白いワンピースといういかにもな服装だが、体フィットしているせいか、スタイルもいいし似合っている。なおのこと、残念だ。そう思ってしげしげと見ていると。彼女は、襲ってきた獣の方を心配そうに見る。

 その子は、その獣に用心しながら近づき、動いていないことを確かめている。もっとも頭部がはじけ飛んでいるのに生きていたら、それこそすごいことだが、もしかしてこの地方では、可能性があるのかもしれない。動かないことを確認してこちらに戻ってくる。私を見上げ首をかしげている。ああ、そうかこの子は話せないのかもしれないのですねえ。

 私は、日本語で話しかけててみましたが、通じません。今度は、英語で話しかけてみましたが、今度は少し首をかしげています。そして、その子は私の袖をつかんで、丘の先の町を指さして袖を引っ張る。ああ、一緒にそこに行こうというのか。

 そうして、2人で歩き始め、その子は、歩きながら道ばたの草花や木を示し、単語を教えてくれた。ああ、話せないわけではないのか。単語で話すことしかできないのかも知れない。私の頭の中には、言語変換されたその言葉が表示され、その子と一緒に発音しながらここの言葉を覚えていった。

 ようやく町に近づいた時には、すでに日は傾き始めていた。その町は、石の壁に囲まれた町で、壁の周りにはみすぼらしい小屋が並んでいる。その子は、その中でも特に荒れ果てた小屋に入って行き、私は、そこにいた大人の女性に引き合わされた。

 その子は、私を指さしながら何かを耳打ちし、その女の人は、私を見ながら言った。

「ああ、そうかい、丘の方に倒れていたのかい。わかったよ。」

 そう言ってその女の人は、私に近づいてきてこう言った。

「さあ、一緒に来ておくれ、村長のところに案内するから。」

 もちろん私は、その時には何を言っているかわからなかった。今ならそう言っていたことがわかる。

 後ろで手を振るその子に見送られて、私はその女性とともに石壁の中の町に入って行った。

 これが、アンジーもとい天使様との最初の出会いとなりました。


 そして、さきほどの馬車に話は戻る。

 私が、手綱を握りながら、この世界に初めて来たときのことを思い出していると、馬車の中からもうひとり、女の子が顔を出す。

「最初はそんな感じだったのか。それは、猫をかぶっておったのう。」

 ロリばばあの登場です。

「誰がロリばばあじゃ」

 その女の子はそう言うと、私の隣に座った。おっと、この2人には、強く思ったことは聞こえてしまうんだった。

「まあねえ、さすがに初対面から地を出すのもねえ。」

 楽しそうにアンジーが言った。

「モーラは、最初からそんな感じでしたねえ。」

 私は、隣に座った少女をモーラと呼んだ。髪の毛は同じようにロングだが、光が当たると茶色が混じる金髪。目はブラウン、アンジーより頭半分くらい小柄だ。見方によっては姉妹とも見えるが、姉妹と言うには微妙に違和感がある。そう、雰囲気が全然違うのだ。身長の高いアンジーも大人びているが、小さいモーラの方が、表情や仕草がもっと大人びている。

「わしのしゃべり方は一貫して変わっておらんぞ。このままじゃ。」

 そう言って、無い胸を張るモーラ。あなたも胸ありませんねえ。

「そうですねえ、私もその姿に変身する前までは、てっきりおっさんだと思っていましたから。エロい話はするし、くだらないダジャレは連発するし、中年男性のようでしたからねえ。」

「お前のイメージのわしは、風采の上がらぬおっさんだったのか。」

 そう言ったモーラは、私とは逆の方を見ています。あれ、ちょっとむくれていますねえ。でもその話は、一度していますよねえ。今更、怒るようなことですか?

「そうよねえ、幼女の格好をして毒舌とか、町の人も最初はドン引きしていたわねえ」

 アンジーが楽しそうに付け加える。

「慣れじゃよ、慣れ」

 そう言ってモーラは、腕を組んでうんうん頷いていますが、腕を組んでいても、威厳のかけらもなく、ただただ可愛いだけですけどねえ。

「DT、それよりお願いじゃ、お腹が空いたのう」

 モーラがもみ手をしながら言った。そうやって私を伺うのはやめませんか、卑屈すぎます。

「おばあちゃん、さっき食べたでしょう?」うれしそうにアンジーが突っ込む。

「DT!なんじゃその頭の中のちょっと痴呆の入ったような老婆の姿は。」

 あら、イメージ見えましたか。いや、わざと見せましたけどね。

「お主わざとじゃな、わざとじゃな。」

 そう言って私の脇腹をぽかぽか殴ってくるのですが、その仕草は、ただただ可愛いだけですけどねえ。

 そうやって旅が始まったのですが、今では、8人の大家族です。いろいろありましたが、これからそのお話しを始めましょう。


 プロローグ終わり


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