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幕間 1 チェリーピンクの爪先

※本日は1日2回更新です!

※夜19時に3-1を更新します!



「ふぁぁぁ…………!」


 チェリーピンク色に色づいた自分の爪を見て、花音が感嘆の息を漏らした。

 今日は、花音の十歳の誕生日。

 結弦がいつもどおりジャスティンの朝の散歩に行って、その間に真理愛は花音と夕ご飯の下ごしらえをした。

 そして、結弦がお茶の時間に帰って来たので、真理愛は昨日、おもちゃ売り場で買った花音への誕生日プレゼントを渡したのだ。

 それはそれは、目をキラキラと輝かせ、悲鳴を上げる勢いで喜んでくれた。ぴょんぴょんと飛び跳ねて、ジャスティンに自慢する姿はとても可愛いかった。

 真理愛が花音の誕生日プレゼントに選んだのは、子ども用のマニキュアセットだ。十色のマニキュアと爪のお手入れセットが一緒になっているもので、マニキュアも除光液を使わず、ぺりっとはがせるタイプのものだ。


「お兄さま、見て! 可愛いでしょ!」


「うん。はみ出していないし綺麗に塗れたね」


「だって、お姉さまが教えてくれたんだもの!」


 ふふんと花音は、得意げに胸を張った。

 初めてのマニキュアということで、右利きの花音の右手の爪を真理愛が説明も兼ねて塗り、左手は花音が自分で塗ったのだ。


「花音ちゃん、おいで」


 真理愛が手招きすると花音が素直にやって来る。


「お化粧ってやっぱり肌に優しいわけではないんです。花音ちゃんは、まだお肌が敏感で、成長している途中だから、無理をさせちゃいけません。……でも、お化粧って嬉しいですよね」


 真理愛は、自分の化粧用ポーチからリップを取り出す。


「これは唇を保湿するリップなんですけど、なんと、可愛いピンク色なんです。はい、じっとしていて」


 真理愛の言葉に花音がぴたりと動きを止める。けれど、そわそわしているのが伝わって来る。それが微笑ましくて、真理愛はくすくすと笑いながら、小さなふっくらとした唇にリップを乗せる。


「はい、完成です」


 真理愛は化粧ポーチから鏡を取り出して、花音に見せる。


「……っ!」


 花音の頬がチークを乗せたみたいに赤く染まる。


「お兄さま、見て! 可愛い?」


「すごく可愛い。髪の毛も可愛いし、ワンピースも可愛いから、お姫様みたいだよ」


 結弦がニコニコしながら言った。

 今日は誕生日ということで、花音は家から持ってきたというお気に入りの薄紫の可憐なワンピースを着ている。髪は真理愛がシニヨンに結ってあげ、真理愛が持っていたワンピースと同じ薄紫の花と真珠の髪飾りを貸してあげたのだが、お人形さんみたいで本当に可愛いのだ。


「せっかく可愛い恰好しているので、おでかけしませんか? お洋服、買いに行きましょ」


「ほんと? あ! それでさっき夕ご飯の仕度をしたのね!」


「正解でーす」


「と、いうわけでお出かけしようか、お姫様」


 結弦がウィンクを決めるが、花音がとびついたのは真理愛だった。


「やったぁ! 私、お姉さまとお洋服、選びたかったの! ねえ、お姉さま、一緒に選びましょうね! はぁぁ、楽しみだわ!」


「ふふっ、私も楽しみです」


「花音! 僕は!?」


「お兄さまは、力持ちだから頼りにしてるわ!」


「うん! 任せといて!」


 結弦が花音そっくりの仕草で得意げに胸を張った。

 ――結弦さん、それはつまり「お兄さま、荷物持ちね!」って言われているのよ、と思ったが真理愛は何も言わず、にこにこ笑顔で聞き流すのだった。




「ね、結弦さん、どっちが似合います? 私はこっちだと思うんですけど」


「どっちも似合うけど、これも見つけたんだけど、どう?」


「あ、可愛い……って、んもう、選択肢が増えちゃったじゃないですか」


「ごめんごめん。でも、これ可愛いだろう?」


 そう言って結弦は、レモンイエローのフリルのスカートを軽く掲げて見せた。

 だが、真理愛の手にはようやく二つにまで絞った緑を基調としたロングスカートと水色のレースをあしらったミモレ丈のスカートがあった。


「黄色も可愛いわ……なんでトップスを白にしちゃったのかしら。全部の色で迷っちゃうわ」


 花音が頬を両手で押さえる。

 ここは昨日も来たいつものショッピングモールだ。

 今は、花音御用達の子供服ブランドで、花音の服を選んでいる真っ最中だった。

 花音が自分でスカートを体にあてて、鏡に映った姿を吟味する。

 うんうん、と悩んで時折、真理愛もアドバイスをして、緑のロングスカートに決まった。


「この鮮やかさ、夏っぽくて綺麗だわ。腰のレース交じりのリボンも可愛い」


「とてもよく似合っていますよ」


「本当、お人形さんみたいで可愛らしですね!」


 店員さんにも褒められて、花音がはにかんだ笑みを浮かべる。お会計をしてもらい、結弦がショップバッグを肩に掛けた。


「じゃあ、次に行こうか」


「ええ、ありがとう、お兄さま!」


 花音が顔を綻ばせれば、自然と結弦の顔も綻ぶ。

 その幸せそうな光景が嬉しくて、真理愛の顔にも自然と笑みが浮かぶのだった。




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