ある日のこと 連休中の二人
お久しぶりです!
この度、鉄仮面のマリアがコミカライズが決定いたしました!
9月24日より、ライン漫画様、ebook様より先行配信開始いたします。
応援してくださる皆様のおかげです^^
本日は2回更新です。
夜19時に第1話 1-1を更新します。
「ねえ、結弦さん」
「ん? なぁに?」
恋人が優しい声で振り返る。真理愛が呼んだ時、嬉しそうに恋人が振り返ってくれるのが、真理愛は好きだ。
「今月の三十日、結弦さんのお誕生日でしょう?」
真理愛は、コーヒーの入ったペアのマグカップを両手に持って、リビングのソファにいる結弦の下へ行き、隣に座る。
結弦は、虚を突かれたような顔で真理愛を見ていた。
「何で知ってるの? 僕、日付まで言ったっけ?」
「シュエットの社員なら、みんな知っているんじゃないかしら。結弦さんの誕生日、代々、受け継がれているんですよ」
「あー、なんか城嶋さんがそんなようなことを言ってた気がする。うっかり漏らしたら、みんな知ってるなんて、びっくりだよ」
結弦は、コーヒーを飲みながら顔をしかめた。
ブラックコーヒーがより苦くなってしまいそうな顔だ。
「それで、誕生日、何か欲しいものはありますか?」
「んー、それなんだけどさ」
コーヒーを一口すすって、結弦はマグカップをテーブルに置いた。そしてやけに真剣な顔で真理愛の手を取った。
――これはろくでもないお願い(例・婚姻届書いて)をするときの顔だ、と今度は真理愛が顔をしかめた。
「真理愛さん、恋人に向ける顔じゃないよ」
「だって、その顔は結弦さんが突拍子もないことを言う顔だもん」
「ひどいなぁ、僕はね、誕生日プレゼントは決めてるんだ」
「何が、欲しいんです? 言っておきますけど、婚姻届は書きませんよ」
「それも魅力的だけど……僕ね、真理愛さんに思う存分、プレゼント買いたい」
「……は?」
胡乱な目つきになってしまった真理愛に反して、結弦はちょっとリッチなおやつを前にした時のジャスティンと同じくらい目をキラキラと輝かせていた。
「真理愛さんに似合いそうなもの全部、僕が自由に買いたい」
「何で結弦さんの誕生日なのに、私が貰う側になるんです??」
至極真っ当な真理愛の疑問に結弦は「だって」と眉を下げた。
「真理愛さん、プレゼントさせてくれないんだもん」
「だもんじゃありません。毎日、プレゼントはいらないんです。それに二月の私の誕生日、信じられないくらいあれこれ買ってくれたじゃないですか」
「あれは春物でしょ? 今度は夏物! ね? いいでしょ?」
結弦が真理愛の顔を覗き込んで来る。真理愛は、うっとたじろぐ。この恋人は百九十センチを超える図体のくせに、顔がいいので上目遣いがとっても可愛いのだ。
「だ、だめです、だって結弦さんの誕生日なんですよ?」
「だからこそ、だよ。僕は真理愛さんへの贈り物を選んでるとき、めちゃめちゃハッピーなんだよ⁉」
「でも、私だって大好きな結弦さんにプレゼントしたいもん」
むっと頬を膨らませると結弦が「うぐっ」と声を漏らした。
好きな人に贈るものを選ぶのが楽しいのは、万国共通だと思う。真理愛だって結弦がそう望むように、あれこれ悩んで選びたいのだ。
「でもやっぱり! ここは誕生日である僕の主張が通るべきだと思うんだ!」
「そういうこと言い出すのずるいです! だって私の誕生日、結弦さん言うこと聞いてくれなかったじゃない。もういらないって、二十回は言ったのに!」
「ずるくない! だから、真理愛さんへプレゼントを僕は好きなだけ買います!」
大人げない二十八歳児は、両腕を組んで、ふふんと胸を張った。
「んもう。当日まで日がありますから、私だって諦めませんからね」
「僕の気は変わらないよ。それに……本当にいらないんだ」
結弦は、苦笑交じりに言って、再びお揃いのマグカップを手に取った。ごくり、と彼がコーヒーを飲めば、真理愛にはないとがった喉ぼとけがそれに合わせて上下に動いた。
「誕生日のプレゼントはもらう側じゃなくていいんだ。僕は、上げる側でいいんだよ」
そう言って結弦は、からり、と笑った。