第一話 加減ができない侯爵令嬢 その名はソフィア いきなり竜の討伐に挑む
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「いい、ソフィア。
今度こそあんたは見ているだけにするのよ」
マルグリットは焦げた前髪をかき分けながらキョトンとしている親友に念を刺す。
「分かっているわマルグリット。
でも、さっきみたいに危なくなったら私我慢できるか自信が無いわ」
ちょっと頬を膨らませてソフィアが反論する。
「それでモンスターと一緒に味方まで蒸発させたら意味ないでしょ!」
叫ぶマルグリット。
「だから、まとめて生き返らせたじゃない」
反論するソフィア。
「ええ、そうね。
味方と一緒に敵のモンスターまで完全復活したわね。
体力・魔力とも全回復で……」
あきれたようにいうマルグリット。
「それは仕方ないわ。
私の絶対復活は敵とか味方とか区別できないもの」
開き直り気味のソフィア。
「そうね、その前に私たち以外の敵も味方も蒸発させた絶対光熱球も加減できなかったものね」
事実を指摘するマルグリット。
「そう、仕方ないのよ」
旗色の悪いソフィア。
「だから、見てるだけにして」
とどめとばかりに言い放つマルグリット。
「うっ、できるだけ我慢するわ」
言い負かされて旗色が悪いソフィアであった。
双剣士のゾーン、盾使いの騎士バグラ、風魔法使いのマルグリット、そしてオールラウンダーながら加減のできないソフィアがパーティーを組み始めたのは高等部最初のサバイバル演習からであり、それからずっとこの4人でチームを組んでいる。
当初は役立たずと思われていたソフィアがスキル『絶対』の使い方に目覚め、それまでの評価を覆して切り札的立場になったのが、その最初のサバイバル演習の時だった。
従来全魔法・全スキルに適性を持つ反面全て初級までしか習得できないという制約の中で自信を喪失していたソフィアが仲間の危機に反応してスキル『絶対』を開花させたのがそのサバイバル演習だ。
他のスキルと同時に使うことで真価を発揮するスキルだった『絶対』を、偶然ファイアービームと同時に発動させ、魔物に囲まれ絶体絶命に陥っていた味方を、たった一発で救って見せた。
というか、ソフィアの発動したファイアービームはゾーンとバグラの間を通過し、正面のキラーグリズリー3頭を瞬時に焼き尽くしただけでなく、魔物の後ろの森もその通り道に沿ってきれいに焼いてしまい、森を貫通した後、空の彼方に消えていった。
あまりの火力に木々が一瞬で燃え尽き、類焼しなかったのは不幸中の幸いであった。
ファイアービームが偶然にも味方に当たらなかったことと言い、このときは本当についていたと言える。
その後パーティーはこのときできた焼け跡を通って無事に森の外まで出ることができ、森を貫通する街道がこの焼け跡に沿って後日整備されることとなった。
ちなみにパーティーを囲っていた残りのキラーグリズリー2頭は、ソフィアの魔法に恐れをなして逃げ出した。
これは、ソフィアの魔法が周りにあまり被害を出さずに使用された数少ない逸話であり、大半は彼女が魔法を使うと大変なことになる。
先ほどの会話からも分かるとおり、今回の魔物の討伐ではかなり不味いことになった。
多頭竜を含む7頭の竜を討伐する依頼を遂行中なのだが、さすがに竜は手強く、味方がやられそうになって我慢できずにソフィアが放った絶対光熱球は竜と一緒にゾーンとバグラもそこらの地面ごと蒸発させてしまい、後にはガラス化したクレーターが残っただけだったのだ。さすがに味方をフレンドリファイアーで討伐してしまったのは計算外で、すかさず唱えた絶対復活によってゾーンとバグラは完全復活したが、同時に多頭竜たちも完全に復活し、振り出しに戻った状態が今なのである。
ちょっとした小遣い稼ぎ感覚で、学園の休日にいつもの4人組が受けた魔獣の森での高品質薬草採取依頼で、なぜか竜と遭遇するあたり、ソフィアを含む4人はトラブル遭遇体質なのだろう。
「上級シールドバッシュ」
「最上級クロススラッシュ」
「上級竜巻斬」
バグラの盾技、ゾーンの剣技、マルグリットの風魔法が竜たちを直撃する。
しかし、竜は硬い。
一戦目の反省から、連携を意識して戦う3人だが徐々に押され始める。
それを見ているソフィアはだんだんそわそわし始める。
そもそも、絶対を付与しないソフィアの魔法は初級のみなので、とても弱い。
竜はおろか、スライムにすら致命傷を与えることはできない。
援護するには『絶対』を魔法に付与するしかない。
「うおっ」
そうこうしているうちにバグラが竜の尻尾の一撃で体制を崩された。
さっきはこのような状況で我慢できずに『フレア』に『絶対』を付与して放ったところ、竜と一緒に味方もやってしまったのだ。
「そう、フレアは強すぎるのよね。
ならこれで……」
ソフィアはソフィアなりに考えて、最も弱いとされている火の魔法を放つ。
「絶対火弾」
直径1センチにも満たない小さな火の弾丸が青白い炎を纏いながら目視不能の高速で打ち出された。
それは青く輝く軌跡を残して、マルグリットの左の袖をかすめ、ゾーンの右の横髪をかすり、バグラの大盾を裏から貫通し、三つ首の竜の胸に吸い込まれた。
味方を直撃しなかったのはただの偶然である。
竜のうろこに空く小さな穴から何やら光が漏れる。
竜は自身のうろこを貫いた火球に驚き動きを止める。
しばし世界がフリーズした。
そして……
3つ首の竜は……、目、鼻、耳、口、胸に空いた穴、その全てから炎が吹き上がる。そして凄まじい衝撃とともに爆発し、竜は巨大な火球となった。その爆発で周りにいた眷属の竜たちもバラバラになる。
味方はバグラの盾のおかげで直撃は避けられたが、術者のソフィアもろとも爆風で数メートル程、吹き飛ばされた。全員余波の炎で髪がチリチリである。
しばし無言だった一同だが、マルグリットがいち早く正気に返る。
「ソフィアーーーーー
あれほど言ったのにーーー」
「ごめんなさいマルグリット。
さすがにあのままでは前衛の二人が危ないと思ったら我慢できなかったのよ。
でも今回は、味方に死者は出してないわよ」
胸を張って言い訳するソフィアを生暖かい目で他の三人が見つめた。
全員軽いやけどを負い、顔はすすけ、髪はチリチリである。
「うっ、ごめんなさい」さすがに悪いと思ったのか謝るソフィア。
「すぐに治すわ」
そう言うとソフィアは全員に絶対の付いた回復魔法を施す。傷んだ防具も『絶対修復』の魔法で元通りだ。
「ふう、これで元通り」
やりきった感をにじませるソフィアだったが、他の三人はため息をついてつかれた表情のままだった。
しばらく休憩して、ソフィアの魔法の直撃にも耐えた魔物の核と使えそうな素材を回収し、一同は帰路についた。
なんやかんや言っても仲の良い4人組は、若干焦げてしまった竜の素材がいくらくらいで売れるか楽しそうに予想しながら冒険者ギルドを目指した。
ストックはありません。
続きは気力があれば書くかも……
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