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最終話 焼け跡と避難所と私達のこれから④

最終話ラストです!よろしくお願いしますm(_ _)m

 『雄牛』の侵攻により火と黒煙に包まれる王都。そんな中で1カ所だけ穴が開いたように鎮火している場所があった。そこはつい数時間前まで王都の中心街として大小の家屋が並んでいた場所であり、現在はただ黒く焼けた焦げた建物の残骸が積みあがっている路地裏である。


「結局何があったんですか?」


「それが、私にもよくわからなくて」


 私は曖昧な返事をしながらことの当事者であるシノビの少女に視線を送るが、


「悪いが、あなた方だけに構っている時間はない。逃げ道は作るからすぐに脱出してほしい」


説明してくれるつもりは無いようだ。

 だが、そんな我々に意外な人物が手がかりを寄越してくる。


「逃がしてくれるのはありがたい。それに、まさか勇者のお仲間に直接助けてもらえるとはな。国王辺りがそこら辺の指示を出したのか?」


「いや私は……そうだ。既に他の仲間達も動き出している」


「勇者ってあの?」「ふーん、勇者ねぇ」


 ゴルドンの口から出てきた予想外の人物の名前にユリアは感嘆の声を上げ、レオナは瞳の色を深めた。ただ、私は驚きよりも納得の方が大きかった。それは、


「なんだか見覚えのある雰囲気があったので少し引っかかっていたんですが、勇者の仲間の方だったんですね。恐らくどこかの式典などでお見かけしていたんでしょう」


「ーーああ、恐らくは」


 僅かに顔を背けながら答える少女。


「それでさっきの話ですがーーー」


 その時、私達の背後で凄まじい爆発が起こり、大きな揺れが襲ってきた。


「きゃあ!?」「うおっ!」「っ!!」


何事かとその場の全員が震源の方を見ると、今まさに激しい攻撃を受けながらも悠然と王宮に踏みこんでいく『雄牛』の姿が目に入った。

 王宮は我々のいる場所からかなり離れている。それでも、あの怪物を中心に行われている戦闘の様子は縦横無尽に走る攻撃からいくらか窺い知ることができた。


「ありゃぁ、勇者直属の特殊部隊だな。空を飛びながら戦ってるのはこの前の作戦の時にも何度か見たぜ」


「イムカ軍にはかなり効いてたけど…アレが相手じゃ厳しいかもね。攻撃が届いてるかどうかも、正直…」


 実際に戦場を共にしてきたゴルドンとレオナの声は明るくない。

 

「今から道を開く。皆んなはすぐに逃げて」


 勇者の仲間である少女はあの光景を見て危機感を抱いたのだろう。より切迫した雰囲気を纏いながらそう言うと、僅かに歩いて我々から距離をとった。

 そして自身の懐から片手に収まる程度の大きさの装飾品を取り出した。


「あれは…マガタマでしょうか?」


「分かるのか?」


 マガタマを握り締めた手を掲げ、何事かを唱え始めた少女を眺めながら呟くとゴルドンが聞いてきた。


「ええ。以前アカツキさんに見せていただいたので。ワに伝わる貴重な品らしいですが…」


『……古より続く神々との……皇家の後継者たる我が血に従い……』


 漏れ聞こえる祝詞のりとが進むごとに、少女の周囲を素人の私でも分かる程の濃密な魔力が渦巻き始める。淡く青い光を放ちながら漂い絡み合っていく様子には、こんな状況に陥っているはずの私達ですら見惚れる美しさがあった。

 そしてーーー


『…その力を解き放て!!』


堂々とした宣言と共にその魔力は収縮し、次の瞬間、巨大な水の渦と成って少女のマガタマから空へと溢れだした。

 天と地を結ぶ激流の竜巻は、少女がゆっくりと振り下ろす腕の動きに従って少しずつ傾き始め、やがて完全に横倒しになる。その進路にあった全ての火はかき消え、焼落ちた建物や固く造られていたはずの城壁すらも吹き飛ばされる。そして、竜巻が城壁も越えてその外側へと破壊をもたらした辺りで、唐突にその姿をほどけさせた。

 後には、竜巻によって穿たれた壁外へと伸びる広い更地のみが残った。


「これが…道」


「まさか、魔術で根こそぎ切り開くとはな…」


 眼前で起きた出来事に、一同は言葉を失った。そんな私達に魔術の行使を終えたらしい少女が声を掛けてくる。


「早く逃げて。戦闘はまだ続いてる。この道もいつまで保つか分からないから」


有無を言わせぬその雰囲気に私達は黙って頷くほか無かった。


「では、急ぎましょう」


「うん」「ですね」「おうよ」


 私が背後に立つユリア達に声を掛けると、一様に返事をして各々に歩き出した。

 その様子を静かに見つめていた少女は、我々が避難するだろうことを認めると踵を返して、未だ火の勢いが収まらない王都の中心部へ足を向ける。


「ーーーあの!」


 その後ろ姿に柄も言われぬものを感じた私は、思わず彼女を呼び止めてしまった。


「………?」


 それに反応したようにその小さな肩をピクリと跳ねさせた少女は、ゆっくりと、窺うようにこちらに振り返った。


「ああ、ええと…」


 とっさの事で何も頭に浮かんでおらず、僅かに良い淀む。


「…命を救っていただき、ありがとうございました。私は雑貨屋を営んでおりまして。今はこんなですが……いつか必ず再建します。その際は是非お訪ね下さい。大したおもてなしはできませんが、精一杯お礼させていただきます」


どうにかそれらしい事は言えたと思う。

 少女はしばらくの間何か言いたげな様子で瞳を揺らしていたが、やがて無言のまま1つ頷くと、再び燃える街へと体を向け、彼方へと跳躍した。


「デニス…」


「なんですか?」


 少女が去っていった方を眺めている私の肩に、ゴルドンが静かに手を置いてくる。


「…お前、またあの客入りの悪い場所に建て直すつもりだったのか?」


「ーーーゴルドン、あんたって奴は本当にブレませんね!」


変わらぬ友人の軽口に突っ込みを入れながら、胸につかえていた違和感を飲み下す。まあ、彼のお陰で飲み下せたのだから、感謝くらいはしても良いかもしれない。

 どうにか切り替えることができた私は、ユリア、レオナ、ゴルドンに向き直る。




「さあ、逃げましょうか!」


最終話と言ったな、あれは嘘だ。

来週のエピローグで本当に完結になります。


よろしくお願いします!

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