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12話 陥落①

 遅くなってしまい申し訳ありません。それと、なんか文量も多くなってしまいました。お納めください。


 それは進む。


ーーー燃え盛る家屋を踏み潰しながら。


 それは進む。


ーーー建国以来一度も犯されることの無かった白亜の城壁を押し崩して。


 それは進む。


ーーー逃げ惑う無辜の民を焼き尽くしながら。



 唐突に訪れた王都の崩壊は余りにも巨大で、容赦がなかった。


 時計の針は、時刻が夜になっていることを示している。王都を焼く炎が街を赤く照らし出す下で、ユリアは自身を抱き締めるようにして押さえ付けているレオナに向かって必死に叫んでいた。そんな彼女らの目の前には、建物のあちこちに火がつき、炎に包まれつつあるあの雑貨屋の姿があった。


「嫌っ!離してレオ!!店長が…店長がまだ中にいるの!!」


ユリアの悲痛な叫びは燃え盛る街の中でもよく響いたが、それが失われつつある見慣れた店に届くことは無く、ただ虚しく木霊していった。



           ☆



 およそ半日前のイムカ連邦議会。ここが全ての事の発端となった。


「只今より、臨時議会を招集する。今回の提言者である前議長、ナキア・ニル様はこちらへ」


「はい」


 半円形を成す議場の中心にて、議長と思しき初老の男性が議場にその鋭い視線を投げる。すると、議席に座っていた若い女が立ち上がり、無言のまま進み出て中央の演壇の前に立った。


「始めたまえ」


「はい。それでは今回の議題について話させていただきます」


 緋色の布地に見事な紋様が織り込まれたイムカの民族衣装ポンチョに身を包んだナキアは議長に一礼すると、演壇に身を乗り出すようにして話し始めた。


「まずは、急な召集にも関わらず多くの方々に集まっていただき、心より感謝申し上げます。国難と呼んで差し支えないこの時期に、皆さんの意識が非常に高いことが確認できたことは正に僥倖と言えるでしょう」


 とつとつと話し始めたナキアではあるが、議場の雰囲気は余り芳しくない。席に並ぶ議員の多くは彼女の口上を聴くこともなく、周囲の仲間とコソコソと言葉を交わしながら嘲笑っていた。


「前口上は良いから早く本題に入って欲しいな」「ああ、我々も暇では無いのだ。次の選挙の準備が目の前まで迫ってきていると言うのに」「ま、次もどうせ私たちが勝つだろうがね」


「はぁ…。貴方たちは国民が血を流して戦っている最中にも自分達の心配なんですね」


 臆面もなく自身の保身にしか興味が無いと口にする議員達に、ナキアは顔をしかめながら小さく呟いた。


「まあ良いでしょう。早く本題に入って欲しい方も多いようですし、ご要望通り本題に入らせていただきます。

―――とりあえず、皆さんはクビです」


 そう言っておもむろに銃を取り出すと躊躇う事なく議場に向けてその引き金を引いた。あまりにも唐突な凶行に議員の多くが呆然と硬直している。さらに彼らが我に返るよりも先に議場のあちこちに黒く丸い空間が発生し次の瞬間、完全武装した多数のイムカ兵が現れた。彼らは迅速に出入り口を封すると、議員達が逃げ出すこことが無いよう各通路を固めた。


「な、ナキア前議長!これは一体どういうことだ‼︎」


 まず口を開いたのは主戦派に属する議員の中でも筆頭格の中年男性だった。普段の余裕ある態度はすっかり形を潜め、立ち上がって唾を飛ばしながら捲し立てている。


「どうもこうも、ご覧の通りクーデターです。なのであまり調子に乗らないでください。1人や2人はお亡くなりになるだろうというつもりで来ていますから、悪目立ちしても得にはなりませんよ?」


「ぐっ……」


 ナキアの言葉に応えるように兵士の1人が議員の首元に槍を当て、議員は恐怖で顔を引き攣らせながらゆっくりと席に座った。


「結構です。話を続けましょう。私が皆さんにする要求はただ一つ。本日議会に提出された不信任決議を受諾し、速やかに解散してください。もちろん、この場で、です」


「やはり…」「こんな事が許されるはずが…」


 ナキアの宣言に対する議員らの反応は諦めがその大半を占めている様子だった。しかし、


「納得できるわけが無いだろう!ワシはこの命を賭しても貴様らに要求には従わんぞ‼︎」


威勢の良い議員も中には残っていた。そんな彼らにナキアは冷徹な視線を投げかけ、


「そう仰るのも皆さんの自由です、と言いたいところなのですが状況は差し迫っていまして。実は皆さんのご家族も拘束させていただいているのですが、それでも納得してはいただけませんか?」


「…なっ」


家族までもが既に敵の手中にあると分かると、拘束されている議員達の勢いはいよいよ弱まった。


「理解していただけて嬉しく思います」


 最後まで反発していた議員が黙ったことにナキアは張り付けたような笑顔を浮かべるが、次の瞬間にはそれを収め思案顔になる。


ーーーと、


「ナキア様!カール殿の邸宅を捜索しましたが誰もおらず…。やはり事態を察して先に逃亡したと思われます!」


「…やはり逃げていましたか」


 議場の扉を勢い良く開いて駆け込んできた兵士の言葉にナキアは得心を得たように頷くが、拘束されている議員達はにわかに騒ぎ始めた。


「カール殿が逃亡しただと?」「バカな、我々を見捨てるのか…!」「あの方無しでどうしろと言うのか」


 よほど頼りにされていたのか、はたまたカールの人心掌握術が優れていたのか、彼の逃亡を嘆く議員は多い。


「あなた方には…あなた方にはイムカの民としての誇りは無いのですか?腹の底も計り切れない亡命者を当てにするなど、いくらなんでも醜態が過ぎます!」


しかしそれも、激昂したナキアによって再び静寂の中に立ち戻った。


「んんっ!失礼しました。お見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありません」


 ナキアは静まり返った議会に向けて短く咳払いをすると、いつの間にか彼女の背後に控えていた人影に向けて謝罪した。


「いえいえ、割と自分は見慣れた光景と言いますか…。それよりどうしますか?逃げた宰相の行方はすぐに追った方が良いと思うんですけど」


 その人物、今回のクーデターを実現させた功労者である勇者カケルは、ナキアの横に進み出てくると苦笑しながらも今後の方針について尋ねてくる。


「仰る通りです。直ちに捜索隊を編成してーーー」


「それは無理だ‼︎」


「「っ!?」」


 次の方針を定めようとしたナキアの言葉は、突然開かれた扉から響いた声によって遮られた。

 唐突に現れたのは、全身を覆う鎧を身につけた大柄な男だった。男はゆっくりとした歩調で議場へと入ってくるが、その身に纏った異様な雰囲気が兵士達に恐怖を抱かせるのか、誰一人として止めに動こうとはしなかった。


「何者ですか!」


 多くの者が気圧される中、平静を保っていたナキアの問いに男は口角を釣り上げ、凶悪な笑みを浮かべる。


「俺が用があるのはあんたじゃない。横のお前だ、ホウショウ・カケル!!!」


「…俺?まさかお前、ユーゴーか⁉︎」


「あぁそうだよ!お前に散々コケにされた上に、親父まで嵌められて落ちぶれたユーゴーだ!俺はこの時を、お前に復讐できるこの瞬間をずっと待っていた‼︎」


 顔を覆うヘルムのせいでよく分からなかったが、その隙間から見える顔は間違いなく、王都の学園で僅かな時間を過ごしたあの青年だった。

 以前からの感情が表に出やすい性格は、その目に宿った怒りによって既に狂気の域に達しているように見える。


「父上をお探しかい?けど残念だったな!あの人はもうこの大陸にはいない!!今頃は忌々しい王国を、その王都を焼き払う準備進めているだろう」


「王都を、焼き払うだって?」


 聞き捨てならない内容に、カケルも焦りを浮かべながら聞き返す。


「ああそうさ。ひょっとしたらもう準備も終えて、始めちまってるかもだが…。ああ、とりあえずお前は邪魔だな」


「っ⁉︎」


 そう言って投擲されたナイフは真っ直ぐナキアへ向かう。カケルは即座にナキアを突き飛ばしてそのナイフを弾いたーーーが、


「かかったな」


宙に弾き飛ばされたナイフの刃が黒い閃光を放ち、カケルとユーゴーを包み込んだ。



             ☆



「ーーーここは?」


 そこは不思議な空間だった。真っ黒に塗りつぶされた空間なのに、自身の体も相手の姿もしっかりと認識することができる。


「ここは、と言うよりさっきのあれはダンジョンで見つかった魔術具だ」


 カケルから少し離れた場所に立つユーゴーは、先ほどまでの激情が嘘だったかのような冷静さで口を開く。


「その能力は、とある効果を持った結界を作り出し範囲内の人間を中に閉じ込めるってものだ」


「とある効果…」


「ああ、もう察したかもしれないな」


 一転、ユーゴーの声に再び狂気が混ざる。


「この結界の中では、誰であろうと()()()()使()()()()()()!なあ、どうだ?お前をブチ殺すのにこうまでぴったりの場所は無いだろ?お前は肝心な時に誰も助けることができないまま、俺の相手をするしか無いんだよ‼︎」


 笑みを深めるユーゴーに、カケルは無言で剣を抜き、構えることで応じるたのだった。



             ☆



 カケルがイムカ議会でユーゴーに足止めされているのと同時刻。戦火の拡大に乗じて密かにベルトルク王国に入国していたカールは、王都近郊に眠るダンジョンの中にいた。


「本当に制御室など存在するのか?」


「安心しろ、もう目の前だ。王国の命運もあと数刻で尽きることになる」

 

 彼の護衛として同行していたイムカ兵が口にした疑問に、カールは錆びついた鉄板によって構築されている入り組んだ通路を進みながら答える。

 戦場から遠く離れたこの地で彼らがダンジョン探索をしているのには、もちろん理由がある。イムカの主戦派に属する軍人であった彼らは、憎き敵であるベルトルクにただ勝利するのではなく、完膚なきまでに叩き潰すことを望んでいた。そんな彼らの前に現れたのが、今まさに自分達を先導するこの男、元王国宰相のカールだったのだ。 


「さあ着いたぞ」


 重い両開きの扉を押し開けた先に広がっていた景色に、カールの後に続いていた兵士達は一様に息を吞んだ。 

 円形に広がるその部屋は幾本もの支柱がその壁際から張り出しており、アーチを描きながらドーム型の天井を形成している。そしてその部屋の中心には、一目で重要だと分かる淡い青色の光を放つ球体が据えられていた。 


 「おお!」「確かに以前トリスで見た物と同じものだ」


 これを見た兵士らは口々に感動を口にする。


「同志カール。トリスの時のサメと同様の手順で目覚めさせることができるのか?」


「ああ、そのはずだ。そしてこれは起動炉心が残るダンジョンの中でも最大級の場所だ。必ず、王国を滅ぼす災厄となるだろう」


「おお!」「素晴らしいな!」


 しばらく間そうして喜びを分かち合うイムカの兵達だったが、それを静かに眺めていたカールが


「では、そろそろ始めようか」


と、口を開くとすぐに冷静になり、同意の意思を示しながら速やかに配置についた。 


「全員、準備は良いな?」

 

 部屋の中央に立ち、光る球体に手をかざしているカールが声をかけると、彼を囲むように等間隔で広がっている兵士達は各々に準備ができていることを伝えた。


「それでは魔力を送ってくれ」


 カールの声に応じて兵士達が自身の魔力を球体へと送ると、何かが接続された感触と共に、自分達の魔力が吸い上げられていく感覚が現れる。これが余り気持ちの良いものではないのだが、これも理想を叶えるためと覚悟を決めてきた彼らの決意は鈍らない。

 ただ、これが数刻と時を重ねるごとに、徐々にその様子が変わってきたのだ。魔力を吸われ続けた彼らの額には汗がにじみ始め、息遣いも荒くなってきている。


「ど、同志カール。我々は後どのくらいこうしていれば良いんだ?」


「…最後までだ」


「最後まで?…それはつまり、我々の魔力が尽きたら勝手に接続がカットされるということか?」


そう聞き返した兵士に、カールは冷徹に言い放つ。


「違う。お前達の魔力、肉体、そしてその魂の全てを捧げてようやく起動に至る」


「なっ…⁉︎」


「王国を滅ぼすことができる兵器。その起動には上質で大量の魔力と、王国の存在そのものを強く憎む魂の方向性が必要だった。貴様らはそれを考慮した上で選定された、言わば人柱だ」


 カールの口から訥々と語られる真実に、ただでさえ悪くなっていた兵士達の顔色は一層その色を深めていく。


「馬鹿な!そんな話、我々は何一つ聞いていない!トリスの時同様、時限式での安全な軌道を行うと言っていたではないか⁉︎ましてや人柱などと…!」


「ああ、そう言う反応が予想できていたからな。敢えて伝えることはしなかった。トリスでの実験はお前達を油断させるための布石だ」


 秘匿されていた余りの真実に怒りを露わにするイムカ兵達に対し、カールは終始冷静に、ともすれば冷徹に事実を明かしていく。

 生命の限界を迎えつつあるイムカ兵達は、1人また1人と膝を着き倒れていく。

  

「さあ、どのみちここで命を落とすことには変わりは無いのだ。せめてその魂を憎しみに燃やすが良い」


「きさ…ま、許…さんぞ。わ、我々の理想を…こうも、踏みにじる…など」


「ああ、そうだな。さぞや許し難いだろうさ。だがその憎悪もまた、王国を滅ぼす業火の種火となる」


 最後の1人が途切れ途切れに口にした怨嗟の言葉に、カールはあくまでも静かに答えるが、


「ふん、既に聞いてはいないか」


その答えを聞くよりも先に兵士は力尽き、その肉体も魔力へと変換されて球体の中へと消えていった。

 部屋にいた者の全てを吸収した球体は、淡く広がるその光を明滅させて始めてはいたがそれ以上の変化の兆しは見られない。


「これだけではまだ届かない、か。まあ分かってはいたがな」


それを確認したカールは自嘲気味に息を吐くと、自身の手を球体へと向けた。


「我が命、我が生涯、我が魂の全てを捧げよう。さあ、目覚めるが良い‼︎」


 カールの口から出た言葉はやはり静かではあったものの、そこには間違いなく深い激情が込められていた。

 彼の注ぎ込んだ魔力を受けた球体はその色を燃えるような赤へと変え、凄まじい光を放ちながら宙へと浮かび上がる。


「さあ、私の憎しみを糧に蘇れ、太古の厄災よ。全ては、ベルトルクを滅ぼす…ためにーーー」


 球体が放射する熱線にその身を焼かれながら、カールは自身の願いを口にする。


 

  

 赤い光は既に消え去った起動者の願いに応えるかのように瞬くと、その光をダンジョン全体へと広げていった。



                 ☆



 不意の始まった地響きは、近郊に位置する王都をも揺らすほどの規模だった。この天変地異の発生源を目にする者があれば、誰でもその原因に気づくことができただろう。



 長い間、静かに大地に横たわっていたはずの巨大な鉄屑ダンション。およそ数百年前の戦争で用いられ、今やその役目を終えて大陸各地に点在する遺物。その1つが今、目を覆うような赤黒い光を全体から放ちながら動き始めたのだ。

 


 ゆっくりと緩慢に動くダンジョン。巨大な体を支えるようにして、その重さを支えるための脚が大量の土砂を伴いながら立ち上がる。

 それはまるで、巨大な四足歩行の動物が身を起こすような光景だった。



『ーーーーーーーー!!!!!!!』


 長い時間をかけて立ち上がったそ《・》れ《・》は、全身に赤い光を纏い、凄まじい熱量を放射しながら天高く嘶いた。


 これから王都を襲う災厄の始まりを告げるかのように。 


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