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9話 秋と祭りと宣戦布告 ②

中途半端な感じはありますが、9話これにて完結です。

 時刻は数時間前に遡る。デニスらが押し寄せる客の波を捌きつつ、応援が来る来ないと話していたのと同時刻。王宮を囲む城壁の上に、大小2つの人影があった。

 小さな影は、地味ながらも質の良い深緑色のローブを纏い、フードで覆った頭からは僅かに金色の頭髪が覗いている。何かを待っているのか、落ち着かない様子で視線を彷徨わせている。

 その人物のそばに控えているのは、白を基調に金色の装飾が施された見るからに高貴な鎧に身を包んだ女の騎士だ。ローブの人物の護衛なのか、落ち着きないその後ろ姿に向けてたまに口を開いては、諌めているようだ。


 その時、佇む2人の目の前の空間が歪み始めた。やがて捻れの中心が黒く丸い球が浮かび、みるみるうちに大きくなっていく。大の大人を悠々と包み込める程度まで成長したそれは、唐突に形を失い、周囲に溶けていった。そしてその中にはーーー


「カケル!」


「おおっとと…。急に抱きついたら危ないよリリアン」


 黒い革鎧を着た少年は、出し抜けに飛び込んできた少女を受け止めると、困った表情をしながらもその頭を撫でた。

 黒い球体から出て来たのは、少年を含めた3人の男女だった。1人は紺色のローブに魔女帽子を被った少女。もう1人は、動きやすそうな独特の軽装に身を包んだシノビだった。


「リリアン様、仮にも次期女王と目されている御身なのですから、お転婆もほどほどに。それと落ちたら洒落になりません。私の心臓をもう少し慮ってください…」


「大丈夫よアリシア。万が一落ちてもカケルが助けてくれますわ。それに、領主不在のホウショウ領を私がずっと取り仕切っていたんですもの。ちょっとくらいご褒美があっても良いと思わない?」


「あはは…、何だかこの感じも久し振りですね」


「笑ってないでリンからも何か言ってやってくれ。最近は口ばかりが達者になって…」


 夕焼け色に染まる王都を背景に、5人の少年少女、現勇者パーティは親しげな会話をしている。


「それにしても、スキル(ストレージ)を応用した長距離の瞬間移動もずいぶんと板についたな」


「はい。最初に『動物も運べるならおれじしんを運ぶこともできるはず』なんて言い始めた時は、ついに働き過ぎでおかしくなったのかな、なんて思ってましたけど」


 感心したようなアリシアに、リンは当時のカケルを思い出したように目を伏せながら答える。


「確かに自分で言っててもどうとは思ったよ。けどほら、前にドラゴンの赤ちゃん達を助けたことがあったでしょ?あの時敵から守るために、赤ちゃんをストレージの中に収めたよね。夢中でやったことだけど、出してみたら皆無事だったから、ひょっとしてって」


「それで、それを応用して、人間のの収納と任意の場所での解放、つまり移動術として用いれないかという発想になったのですね!」


 さすがです、とばかりに両手を打ち合わせ瞳を輝かせるリリアンに、カケルはばつが悪そうに頬をかいた。


「ま、思い付いてからこうして使えるようになるまで、相当時間かかっちゃったけどね。特に難しかったのはストレージの入り口を自分の視界の外に出すところ。目に入る範囲はなんとなーく『あの辺』って感じで出せたんだけど」


「それだけでも普通はできないんですけどね。世の運送屋が聞いたら卒倒する芸当です」


 勇者特有の常人離れした感性にはいい加減慣れてきてはいるが、それでも非常識な彼の言葉にリンは呆れた様子で相づちを打った。


「結局それも『千里眼』のスキルで解決しまして、今に至りました」


 自分が動くことなく、人も物も好きな場所に運ぶことができる。世の運送屋が聞いたら市中引き回されて磔にされてもおかしくはない所業だ。


「易々と言ってくれるな、この後輩は」


「まあまあ、アリシア先輩。『ストレージ』のスキルはともかく、『千里眼』については厚意で頂いたものですからーーーって、ん?どうしたの?ヨミさん」


カケルは、話の途中で背後から肩を叩かれ、そちらを振り返った。


「この後少し用事がある。私はここで離脱するね」


「ああ、オーケー。でも用事って…もしかして収穫祭?」


 話し掛けてきたのは、先程からカケル達と少し距離を取ってその様子を見ていたシノビだった。そんな彼女に、カケルは笑顔で応じる。


「正解でもないけれど、間違いでもない。祭りの時にはその環境だからこそでやれる仕事もあるから」


「祭りに乗じた仕事かぁ。まあ、気を付けてね」


 シノビの不明瞭な回答に後ろ暗いものを感じたのか、カケルは苦笑いをしながらそう口にした。


「……気を付ける」


 カケルの真っすぐな言葉に僅かな間の後に短く返したシノビは、次の瞬間には音も無く姿を消していた。


「さて、皆。国王陛下に伝えないといけないことがあるんだ。そろそろ行かないと」


 シノビがいなくなったことを確認したカケルは1つ頷き、いまだ賑やかに話を続けている仲間に向き直って呼び掛けた。

 その言葉に、明るい表情で話し込んでいた彼女らの表情は僅かに曇った。


「…そうですわね。少し、怖じ気いてしまったのかもしれませんわ」


「リリアン様…」


「大丈夫よアリシア。覚悟は、できてるから」


 そう言う王女の瞳には、確かに一筋の決意が映っていた。



                 ☆


 城壁を後にした勇者一行は今、国王を含めた王国が並ぶ会議室にいた。彼らの中心に据えられている広い机には、王国の西方を描いた精巧な地図が広げられている。

 カケルらと正面から向きあっている国王の手には、イムカ連邦議会の正式な印が押された書面が握られていた。


「宣戦布告…か」


「はい。イムカの使者から受け取ったと同時に、国境線への侵攻が開始。配置されている各砦は即座に対応し頑強に防いでいますが、既に3か所の防衛線が破られています」


 低い声で呟く国王に対し、カケルは簡潔に最新の戦況を報告する。これに部屋に集まる有力諸侯らからはどよめきが上がるが、そこに戦争に対する恐怖の色は無く、むしろ驚きの感情が強い。

 それもそのはずで、本来であれば早馬を出しても2日はかかる開戦の報せが、戦端が開かれて間もなく届いたのだ。加えて戦況についても、その情報の非常に精度は高い。


「直接見て来た君達の目から見て、我が軍の形勢はどうだね?」


 諸侯の1人がカケル達に声をかける。


「…全体的には、王国の兵士達は皆戦争に慣れている印象を抱きました。ただ、突破された3箇所にいた方々はその事態を想定していなかったようで、必要以上に混乱していたと思います」


実際、その撤退には我々も手を貸しましたし、と少し考えるようにしてから、カケルは卓上に広がる地図を指で示しつつ答えた。


「よく分かった、ありがとう。前後したが、突破された箇所の話もしなければならないな。ふむ…北のベルグマン大渓谷が2箇所に、中部のオットー平原か」


「陣地構築が済んでいなかったオットー平原はともかく、まさか天然の要害であるあの渓谷が抜かれるとはな。せっかくの改修工事も無駄に終わったか」


 軍の重鎮達はさっそく今後の方針について話していく様子だ。

 と、所在なさげにそれを眺めていた勇者一行に気が付いた国王が声を掛ける。


「とにかく此度の働き実にご苦労であった。我々はこれより軍議に移る故もてなすことはできないが、先に戻って王宮でしっかり休養を取ってほしい」


「ありがとうございます。お言葉に甘えて、休ませて頂くことにいたします」


 カケル達は深く頭を下げると踵を返し、速やかに退室していった。


「渓谷が落ちたのは、おそらく奴の差し金だな?」

 

 扉が閉まり、勇者達の足音が遠ざかったのを確認すると諸侯の1人が口を開いた。


「だろうな。対イムカについて、外交についても防衛についても、担っていたのは先の宰相カールだ」


それに対し、国王は無関心な様子で同意する。

 

「やれやれ…、ワの連中もしっかり始末しておいてくれればこうはならなかったろうに…。暗躍するのであればせめて、こちらに迷惑はかけないで欲しいものだな」


 小さく独りごちた国王の言葉は、誰の耳にも入る事なく中空へと消えていった。


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