インパール(3/17):ロームシャ
正史ではロームシャは無報酬の強制労働を強いられる奴隷でしたがIF歴史では報酬あり衣食住完備のフロ付きでとんでもない好待遇でした。
タイは実はモータースポーツが盛んな御国柄である。
セパタクロー(球技)やムエタイ(格闘技)などのスポーツでは無い。
そっちではなくレーシング・スポーツのほうだ。
モータースポーツと言っても高級なレーシング競技ではない。
それはゼロヨンドラッグレースだった、耕運機の。
その改造技術はトップクラスで魔改造だった。
タイのチェンマイにはそういった技術屋がいたのだった。
岡田参謀長は工兵連隊長の河野順治中佐に相談した。
そうして2人でヤンゴンのワークショップに向かった。
ヴオォーン、ヴオォーン、バリバリバリ。
近づくにつれ、エキゾーストノートが響いてくる。
なんでも過給器や燃料噴射装置の研究もしているらしい。
亜酸化窒素混合装置の研究もやっているらしい。
河野「才能の無駄遣いですなあ」
岡田「何を考えているのやら」
ワークショップはヤンゴン郊外の倉庫街にあった。
英米日の廃棄車両が所狭しと雨ざらしに放置されている。
電気溶接、ガス溶接の火花が至る所で散っていた。
岡田は事情を説明して、仕様書を見せた。
粘り強い交渉の結果、現地ワークショップの協力を得た。
掻き集めた装甲車60台を魔改造して建機に仕立て上げる。
60台の豆戦車は100台の豆建機に生まれ変わった。
岡田「台数が増えてるのおかしくないか」
河野「まあ魔改造ですからなあ」
英国軍は重機を捨てて、撤退していたので部品はたっぷりあった。
日米英の廃棄部品からのいいとこ取りで40台増えていた。
日本は魔改造の天才だが、彼らは悪魔的改造なのだ。
この豆建機の活躍で自動車道工事は捗った。
本当は18ヶ月掛かる所をわずか4ヶ月で完成した。
100台の豆建機が全線160kmにわたり、等間隔で配備された。
1台に付き1.6kmが担当となり道路を敷設する。
まずは熱帯雨林を伐採する。
かつてはチェーンソーで危険な伐採に挑んでいた。
だが今はフェラーバンチャという伐倒機がその用を果たす。
だいたい1分で1本の立木を伐倒し、そのまま集積する。
残った根っこは伐根粉砕機で90秒で粉砕する。
モーターグレーダーが路床を均していき、ローラー重機が路盤を固める。
アスファルトフィニッシャーが基層工事を行う。
石油産油国なので、アスファルトはたっぷりある。
最後に表層工事をして仕上げ完成だ。
道路工事を請け負った独立工兵連隊も呆れていた。
工兵A「機械力というのはここまでスゴイのか」
工兵B「オレたちがやったのは転圧機の下地転圧ぐらいか」
工兵C「手の震えが止まりません」
プレートコンパクター(転圧機)は振動で路面を締め固める。
慣れないといつまでも振動の余韻が残るのだ。
工兵A「誰だこんないいモノを考え出したのは?」
工兵B「欧米では19世紀から蒸気機関であったらしい」
工兵C「やっぱり米国はバケモノだったな……」
道路には排水勾配が設けられ、撥水効果も考えられていた。
もう泥と水たまりに悩まされる事はないのだ。
その間に憲法の発布も滞りなく終了した。
国会が開催され国権の機関として動き出した。
モウ大統領は労働環境整備と国土改造計画に掛かった。
まずは経済の安定と飢饉の払拭に掛からねばならない。
英国の植民地を脱したためにインドとの通商は停止している。
もっとも枯渇が懸念されるのは砂糖である。
砂糖の世界三大産地はインド・中国・ブラジルだ。
この内インドとブラジルは英米の支配下にある。
今後も復活は望めず、頼りは中国しかない。
すでにフィリピンと豪州では砂糖は窮乏していた。
この上ビルマが加われば全体が飢饉に成りかねない。
現在サトウキビはフィリピン・豪州向けだ。
そこでビルマは甜菜をあてがう事にした。
幸い満州・黒竜江省が甜菜の一大産地である。
そこから山のように輸入を促進した。
帰化ユダヤ人「お呼びですかな」
呼んでないのにユダヤ商人が手を出してきた。
次は経済の安定である。
国民の約半数は農村に住む農民である。
基幹作物はコメで50万トンを輸出している。
ビルマのコメは長粒種で日本のコメとは違う。
ただ多様な品種が混在して砕米率が高く価値が低い。
そのためタイやベトナムの米に負けているのだ。
精米、低温保存倉庫、営農、種子管理、肥料導入。
さらの優良種子の開発と普及が急務であった。
農機具はある程度普及しており問題はない。
肥料に関して化学知識がゼロだったのだ。
そのため広大な農地に対して収穫率が低い。
その結果収益率が低く、利益が出ない。
だがいきなり化学肥料をぶちまける訳にはいかない。
水田の蛙や魚を獲って生活している農民もいる。
農村の半分はそういった「土地無し農民」だった。
肥料や農薬はそういった資源を激減させる。
貧困は根深く、一筋縄ではいかないのだ。
全体を広い視野で眺めてリフトアップしなければならない。
土地無し農民を公共事業労働者として雇用する。
彼らは何十万人と道路・鉄道の土木工事に駆り出された。
土地無し農民は「ロームシャ」と呼ばれ労働に従事する。
彼らには充分な宿泊設備、衣食住とフロまで用意した。
特に作業服はポリエステル混紡で吸水速乾作用があり涼しい。
綿が吸湿してポリエステルが蒸発を促すいいとこ取りの服だ。
農民A「ポリエステル混紡の服はお土産にしよう」
農民B「英国風食事より日本風食事の方が肌に合うな」
農民C「生まれて初めてお湯に入ったが行水より楽しい」
この評判が村々に伝わり、我も我もとロームシャ募集に殺到した。
資格も検査もいらないとあって、物凄い数の応募があった。
翌日宿舎の人員が倍になっている事もあった。
入りきれないほどの人員は廊下にハンモックで寝ていた。
とうとうロームシャは100万人を越えた。
こうなるともはや大都市の人口である。
ケンカや万引きや横領など犯罪が目立ち始めた。
ビルマ警察に任せて日本軍は関わらない。
そういう放任でもよかったが、如何せん数が多すぎる。
100万人は当時の首都ヤンゴンの約2倍にあたるのだ。
そこには一般教養のある者もふしだらな怠け者も悪人もいる。
学校の教室で考えれば分かる事だが悪心ある者は1/50である。
つまり100万人いれば2万人に悪心が湧く可能性がある。
軍の管轄下なら見せしめのために殺す事もある。
ビルマ独立に伴い軍政部はすでに解散していたがこれではいけない。
当時第15師団参謀長だった諫山春樹は手を打った。
軍政部長の彼はロームシャを50人のクラスに分けた。
そしてお互いが独立したグループとして行動することにした。
グループには作業の成果によって報酬が与えられた。
お互いを競い合わせておけば報酬を競い合うようになる。
リーダーが生まれ、参謀役のブレインも生まれる。
効率良く働き、規律が生まれ、統率が効くようになる。
そこまでいかなくても日本人のコントロールが効くようになる。
無統制の100万人がダラダラしているよりはよっぽどマシだ。
労働も全部機械化されていて、人力での部分は僅かだった。
人力が必要なのは機力の及ばない不整地の土木作業である。
傾斜地の難所などは人夫の出番なのだった。
ある程度切り開いた後は重機の出番である。
ブルドーザ、パワーショベル、モータグレーダ、油圧スクレーパ。
ハーベスタ、フォワーダ、フェラーバンチャ、プロセッサ。
1935年日本はコマツがガソリントラクタを開発。
陸軍軍馬補充部は軍馬の代わりに軍用牽引車として徴用した。
それ以来10年間満州大連工業地帯で様々な建機を製造してきた。
コマツ「人件費の方が安いが機械の方が効率がいい」
「今にきっと機力が認められる日がくる、きっとくる!」
そしてその日がビルマでやって来たのだった。
ロームシャたちは効率良く働き、そして報酬を得た。
報酬の支払いは軍票で兌換紙幣ではなかった。
ロームシャの宿舎は100万人収容の、いわば街なのだ。
敷地内には一杯飲み屋あり、焼き鳥屋あり、風俗店ありである。
そこでロームシャたちは軍票支払いの可能な店で豪遊した。
カラオケとパチンコがあり、珍しさもあって大繁盛した。
カラオケ:ジュークボックスを備えた歌声喫茶のこと。
パチンコ:1900年代欧州で大ヒットしたウオールマシン。
パチンコに嵌まってスッテンテンになる者もいたが気にしない。
翌日また稼げばいいだけだったからだ。
娯楽はロームシャの心を仕事から解放させる遊びとなった。
これに目をつけた賢い者達は街でパチンコ屋を経営した。
さらにはカラオケルームなるモノを起業する者まで現れた。
作業衣は人工繊維のポリエステルと綿の混紡である。
これをすべてほどいて混合比を調べ、自分で作るモノまで現れた。
紡績と撚糸、製織は英領ビルマの頃からのお家芸である。
ポリエステル糸はまだ日本しか製造していない。
これを輸入して製織するビルマのアパレル産業。
元々文明開化は紡績/撚糸/製織から始まる。
明治文明開化しかり、英国産業革命しかり。
100万人のロームシャは鉄道や基幹道路を作った。
水利設備を整え、山稜に高圧鉄塔を建てた。
発電ダムは5年の歳月が掛かるが着工はした。
火力発電所も沿岸に着工し、完成は数年後だ。
戦争が終わる頃、流通と電力という産業の基礎が整う。
電力でモーターを回しモノを造り、流通がモノを運搬する。
蒸気機関時代をすっ飛ばして、ビルマは一気に近代化する。
かつての日本が江戸時代265年間をすっ飛ばしたように。
ビルマは「東南アジアの日本」になるのだ。
こうしてビルマは少しづつ近代化への道を歩みはじめた。
ロームシャは流通と電力を全国津々浦々に通じさせ、経済の基盤を作ります。次回はインパール(4/17):牟田口廉也という男です




