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爆笑キャスター物語(がじん渡辺:超短編集)

作者: 我人

超短編集。会話だけで物語が作れるか、という自問で作っています。

☆未来の仙人

「おーい千葉ちゃん、ゲスト用のピンマイクさ、この間落っことしたときに俺踏んづけちゃっただろ? あれ大丈夫? え? あ、交換した? ならOK。えーと、トロちゃんよお、あと何分? あ、そ、わかった。お、美也ちゃん、今日もキレイだねぇ。じゃ、やるか。ゲスト誰だっけ? あ、そうだよな、未来からおいでになった仙人さまじゃん。わかってるよコバさん、調子合わせるからさ。しつこいと嫌われるよ。ん、時間? OK」

(本番十秒前・・・・・・)

「あ、葛西さん、この間はご馳走さま……」

(はい5秒前・・・)

「今度はボクのおごりで、カメハメハ~ね」

(3・・・・・・)

「こんばんは。過ぎ行く『時』、待ち受ける『時』、来し方行く末の狭間で私たちは何を見、何を思うのでしょうか。この番組では『現代の顔』を自他ともに認める方々をお招きして、いろいろなお話を通して私たちの世界を見つめ直す旅をご提供いたします。司会は私、寺代高正と……」

「アシスタントの古泊美也でお送りします」

(はい、前振りOK。四十五秒CM入りまーす。ゲスト、スタンバイお願いしまーす)

「美也ちゃん、きょうの俺の声どう? ちょっとセクシーだろ? 紹介はハデにやってくれよ、なんせ辛気臭いヤツらしいじゃん」

「シーッ、もう入ってますよ。ヤダもう」

(はーい、マイクオン5秒前、4、3・・・・・・)

「こんばんは。今夜お招きしているのは今話題の、まさしく時の人と言えるでしょう、未来からお出での仙人、高砂同仁さんです。さっそくお迎えしたいと思います。ようこそ『時の人』!」

(全員拍手。3カメ、もっと近寄って全身下からパンして、よしイイよ。4、5、OK?)

「おおっ! これが未来人の雰囲気なんでしょうか、輝いて見えますよ」

(照明ちょっと落として、ハレーション気味よ)

「さあ、真ん中の席に着いていただきましょう。番組へようこそ」

「……あなた、座るときに注意してください」

「は? はい、仰せのとおりゆーっくり、よいしょっ……イテ!」

「え? どうしました? 寺代さん」

「あ、いや画鋲が落ちてたみたいで……」

「まあ! みなさんご覧になりました? さっそく噂の未来予知でしょうか、スゴイ!」

「アイタタ、予知されたんですか? 仙人」

「……上から落ちてきたのが見えただけです」

「またまたぁ、上には誰もいませんしぃ」

「……ご想像におまかせします」

(裏の4カメ、5カメ、画鋲置いたところ撮れた? ……OK! すぐに報道デスクにフィルムまわして。これで報道賞いただき! 寺さん、美也ちゃん、お疲れ!)

「美也ちゃん、女優になれるねぇ」

「寺代さんには負けますよ。じゃ、お先に」

「な、なんだこの番組は! インチキか!」

「おい、ディレクター! プロデューサーは誰だ! こんなサギをしおって、親父の親友は稲住会のドンだぞ! 聞いてんのかぁ・・・こらあぁぁ!」

「葛西さん、これも撮れた? ・・・よぉし! じゃ賞金前倒しでギロッポン行きましょ。カメハメハ~~~」

「ウォーーー! キショーーー! サギ集団ーーー!」


[第1話 完]



☆財務省事務次官

「俺もさ、NHKの前に官庁受けたのよ、美也ちゃん」

「で、受かったんでしょ? もちろん」

「それだったらさ、今日のゲストみたいにさ、将来約束された顔をしてるってば」

「今の寺代さんだったら、参議院は当確ですよ」

「今さらねえ……1年前に隠し子スキャンダル暴露されちゃったしな、ガハハ。おっと、もう時間か」

(はい、本番10秒前……)

「ま、人並みに余生を過ごせりゃいいさ」

「あら、めずらしく弱気なセリフですね」

(5…4…3……)

「みなさん、こんばんは。今回の『時の人』は、大臣をも切り倒す話題のエリート官僚です。中高年世代の中間管理職の方々には、私も含め羨望の的の人物です。その人となりを時の流れの万華鏡の中で拝聴したいと思います。司会は私、寺代高正と……」

「古泊美也でお送りします」

(はい、CM45秒入ります)

(寺さん、ちょっと気合いヌケしてます?)

「いや、別に」

「寺代さん、同い年のゲストにやきもち焼いてるみたいですよ。フフ」

「何言ってんの。そんなんじゃねーや」

「あら、スネてるぅ」

(はい、ゲスト入ります。マイクオン10秒前…拍手よろしく…5、4、3……)

「……」

「こんばんは、ようこそ。こちらの席へどうぞ」

「こんばんは、間岳真治です。お招きありがとうございます」

「……」

「えー、寺代が風邪の病み上がりで元気がなくて、申し訳ありません」

「お仕事がら、喉は大切ですからね。お大事に」

「あ、よろしくお願いします。いや、声は大丈夫です。そんなことより、財務省の花形である事務次官に風邪をうつしたら国民から怒られてしまいますので、少し離れてお話しさせていただきますね」

「(もう、大人気ない人ねぇ)さっそくですが、間岳事務次官の幼少の頃からお話をうかがわせていただきたいと思います。寺代と同じ昭和32年のお生まれで、出身はどちらですか?」

「はい、神奈川県川崎市です」

「ん? 偶然ですね。私も川崎出身なんですよ」

(寺さん、マイク遠いよ。近づいて)

「あら、お二人とも同年代で出身も同じでしたか」

「川崎大師という由緒あるお寺の近くで生まれました」

「お? 俺…いや、私も近くで生まれ育ってますが……」

「そういえば、間岳事務次官は失礼ですが養子縁組でご結婚されましたので…」

「そうです、今は間岳姓ですが、それまでは斉藤姓でした」

「……斉藤…真治って、まさか、あの真ちゃん!?」

「寺代さん、どうしたんですか、急に」

(美也ちゃん、ちょっとリードして)

「俺、俺だよ、芸名は寺代だけど、本名は木村。タカマサだよ」

「寺代さん! 本番中!」

「あ、あぁ失礼しました。私の本名は木村と申しまして…」

(美也ちゃん、CM後に例の「不適切な言動が」ってヤツ入れといて)

「お! おお?! 木村って、もしかしてあのタカちゃん?」

「思い出したか? 俺のこと」

「寺代さん! あ、あの、お二方とも、あの、お知り合いだったということで、あ、どうしよう…」

(美也ちゃんもかよ、かんべんしてくれよ。冷静に、冷静に!)

「なーんだよ、真ちゃんだったのかぁ。まいったなぁ、ガハハハ」

「タカちゃんこそ、メイクのせいかよお、全然気がつかなかったよ。ハハハ」

(おい、CM入れるぞ、5秒前!)

「ここで一旦CMに行かさせていただきます。感動の出会いの場面をお送りしました。ハイ」

(はい、CM60秒。寺さん、困るよ私的な言動は)

「ハハ、そんなこと言ったって、ヒヒヒ、こいつが事務次官だってさ、ゲハハ」

「カカカ、タカちゃんだってよ、売れっ子キャスターときたもんだ、ダハハ」

「寺代さんも、間岳さんも、公共の電波なんですから、本番中はわきまえてくださらないと、私、退席しますよ。フントにもう、ぷぅっ」

「わかってるよ、美也ちゃん。ヒヒ、しかしさあ、コイツがねぇ……シシシ」

(はい、CM終了します。マイクオン10秒前、頼んますよ、みなさん)

「タカちゃん、これから学校の話になるの? まさか、アレはやめようよね、クカカカ」

「あー、あれねー! あの話はヤバイよな…ブタの尻に火がついちゃっギャハハハ」

(あーーー、3秒前!)

「ススス、ス」

「んんっ。さて、間岳事務次官は先ごろ財務大臣の暴走ともとれる言動に対し、国民の側に立って憤然と抗議し、結局大臣に辞意を決意させたわけですが…」

「キ、ククゥ、フフフ」

「…んんっ。その行動力と正義感は中学時代の恩師にまつわるお話があるそうですが?」

「ああ、はい。(恩師ってアレだよ、アレ、タカちゃん)ギヒヒ、腹イテェ」

(事務次官の音声入っちゃってるよ、おい)

「オーホッホッホ、アレ、ヒャーハッハ、アレかあーーーカッカッカ」

(美也ちゃん、なんとかしろ! 寺さんダメだよ、もう)

「(間岳さん! あなたこれじゃイメージダウンですよ! いいんですか!)」

「え? あ、これは私としたこ…コ、コ、」

「コケーッのスカート事件もあったな~、ダハハハ」

「ドハハハハ、ハハハ、それを言うなって、ドヒヒヒ、ヒック、ヒック」

(VTR入れるぞ! 今すぐだ!!)

「えーー、視聴者のみなさまには、大変お見苦しい映像をお送りしておりまして、まことにお詫びのしようもない状況ですが、ここでコイツ…失礼…んんっ、事務次官の大学時代の貴重な映像があるということで、ご紹介させていただきます。VTRどうぞ」

(5分あるからな、寺さん、スポンサー怒ってるぜ。俺ゃ知らんぜ)

「誰だよ、真ちゃん呼んだの。呼んだヤツが悪いよ。だってあの真ちゃんが財務省のトップだぜぇ。わ、笑っちゃうの無理ないよ、なあ、真ちゃん、ムフフフ」

「みんなにはわからないよな。ンフフフ、俺たちだけの秘密だもんね」

「あれ、これ京大時代のフィルムじゃねえの。いや、マジメそうにしてんじゃん」

「あー、これね。実家にさ、送ろうと思って悪友に撮らせたんだっけ、ハハハ」

「あ、そう言えば、大学受験前に俺に言ってたっけな。舞妓をコマすために絶対京都行くんだって、ナハハハ」

(あんたら! VTR終了10秒前だ! さ、勝手にしろ!)

「あ、うん、残り10分ちょいか? OK。さ、マジで締めるかな」

「今さら遅いですけど、フン」

「まあ、たまにはこんな映像もいいんじゃないの? 美也ちゃんカタいんだから」

「私でなく、この番組がカタいはずなんです!」

(あ、ちょっとオンエアになってるんですけど、ふたりとも)

「何してるの? 秒読みしなかったの? もう!」

(だから、声、入っちゃってるの)

「あ、失礼しました。ただいま不手際がありました。申し訳ありません」

「えー、それでは、時間も迫ってきまして、事務次官の省内における評判など声が届いておりますので、少々ご紹介してみます」

(今ごろかい、寺さんよぉ)

「直属の部下の方からですね。匿名の金子タラコさんから…『次官の仕事ぶりは、まるで戦車とスーパーカーが合体したようです』。ほう、つまりは剛健かつスピーディということですね。う~ん、クク、なるほど~。もうひと方…これは他省庁の幹部の方のようです。『間岳さんは、我々東大閥にも人気ありますよ。なんせ人柄がモノを言ってますね。いやあ、人望厚いホープです。頭下がりますよ』(ほんとかよ、コレ)」

「何か、おっしゃいましたか? 寺代さん」

「あ、いや、ところで古泊さんは、実際次官と会った感想は? 今日を楽しみにしていたんですよね」

「(なに、いけしゃーしゃーと)ええ、今の関係者の方の言葉どおりの方だと思います。(アンタと同類でしょ、ホントは!)」

「とんだ偶然で、幼友達という光栄にあずかったわけですが、私の思い出の中の間岳さんは……」

(もうヨセ! ちゃんと締めてくれよ、寺さん)

「え~、思い出は……ブ、ブ、ブタと…フフヒヒ…ニワトリと…クククク…恩師…」

「そ、それを言うなって、バカ、アーッハッハッハ」

「ダメです。番組になりません。視聴者のみなさん、どしどしクレームください」

(やーめたやめた、乱れ映像入れて。ここまで! 後は4分後に美也ちゃんお詫びコメントね。よろしく! なんでふたりで抱き合ってんだよ、バカーーー!)


[第2話 完]




☆料理の巨人

「お? 美也ちゃん、今日は入りが早いね」

「おはようございます。寺代さん、いつもこんなに早くから来てるんですかぁ?」

「ああ、ほかにやることねえしな、昼間は。ガハハ」

「あっそうか、趣味は仕事とお酒でしたね」

「わかってんじゃん。で? 今日はなんで早いの?」

「いえ、別に……」

「いいよ、わかってるんだから。アレだろ? 今日のゲスト目当て。なんたって世界一を決める『シェフ・デュ・モンド』に優勝し、しかも若くてイケ面だもんな。メイクにも念を入れると。うん?」

「な、なーにを言ってるんですか。だからオヤジって言われるんですよ!」

「ま、いいさな。うまい料理を食わせてもらえるってことだし」

「そうですよねぇ。世界一のシェフの手料理ですから、とっても楽しみ!」

「美也ちゃんの魅力で、シェフに力入れてもらおうぜ」

「アタシをダシに使っておいしい料理をですか?」

「お! 今日は冴えてるねえ。その調子で頼むよン」


「おはよーす。お、今日は大勢いらっしゃいますねぇ、スタジオは」

(あ、寺代さん。今日はPも中ですから。ご相伴にあずかりたいって)

「あ、そう。大プロデューサーでも世界一料理のためなら、いつどこへでもってか」

(えー、今は僕の隣にいらっしゃいますけど)

「あいやー。葛西さん、いらっしゃったんですか。先日の店、良かったでしょ? カメハメハー」

(うそでーす!)

「こらっ! コバさんよー、冗談ジョーダン場女バスケだけにしとけよ」

(いえ、冗談(上段)は剣道(今度)にします)

「う、寒っ。コバさん、だからADにもバカにされるんだぜ」

(え? 誰、そいつ)

「ヤボ、ヤボ。さて、おさらいしとくかな。今日は視聴率グッと行くからな」

「おはようございまーす」

「よ、必殺仕掛け人!」

「あのぅ、人聞きの悪い例えはやめてくださいね、寺代さん!」

「だってさぁ、元々今回の企画の仕掛け人じゃん、キミ」

「そりゃ言いだしっぺはアタシですが、視聴率を考えての企画ですから」

「ほーーー。『とーっても楽しみ』って聞いたような気がするんだけどなぁ」

「そ、それは、別にアタシだって視聴者のみなさんと同じ気持ちなだけです」

「あ、そう。料理の話? それともイケ面好みの話?」

「(このぅセクハラおやじ)はいはい、そうです。両方ですよ!」

「あら、すんなり認めちゃったよ」

(ハイ! じゃマイクテスト始めますよ。おふた方よろしく)

「あ、あーーー、本日は曇天なり、本日は曇天なりーー」

「節回しはいりません。小林さんも何か言ってください」

(はい、OK。美也ちゃん、いつものことだからさ。流して流して)

「今日はアタシの企画なので、打ち合せどおりメインでやらせていただきます。いいですね! 寺代さん」

「はいよー、わかってますって。じゃ前振りから行く?」

(寺代さん、かんべんしてよ。いつもどおりでお願いしますよ)

「あら、いいわよ、私がやっても」

(美也ちゃん、機嫌なおしてさ。ほら、もうすぐゲスト入るから)

「さ、みんな今日もよろしくね。緊張、緊張」

「(なに、ひとりで調子乗ってんのよ、まったくもう)」

「え? なんか言った?」

「いいえ、口では言ってません!」

「あ、そう。なら、いいや」

「ぷぅーー」

(はーい、本番10秒前)

「……」

(やだねぇ、寺代さんの無口って。5秒前、4、3・・・・・)

「4千年の舌を満足させてきた中国料理人、はたまた古代ローマ帝国から脈々と宮廷のグルメたちに研鑽されたヨーロッパの職人たち。世界には歴史と伝統を受け継いだ『料理の巨人』たちがひしめいております。そして、彼ら超一流のシェフたちがその腕を競い合う唯一の権威あるコンテストが、毎年パリで催されています。その名も『シェフ・デュ・モーーーンド』。地球の歴史史上、これほど熾烈な闘いがあったでしょうか? 今回は、みなさんお待ちかねの『時の人』をお呼びしております。司会は私、寺代高正と……」

「古泊美也でお送りします」

(はいCM45秒。寺代さん、ちょっと長めでしたね。モーンドは、サッカーのゴールじゃないんですから)

「ま、たまにはイイじゃん。どのくらい押した?」

(15秒。スポンサークレームぎりぎりですよ。頼んますよ)

「OK、OK。今日は美也ちゃんの仕切りだから、なんとかなるよ。ね、美也ちゃん……って、もうメイク直しかよ」

(じゃ、ゲスト入ります。マイクオン10秒前)

「料理もいっしょ?」

「なわけないでしょ!」

(拍手よろしく! 5秒前、4、3・・・・・)

「ようこそ! 時の人」

「お待ちしておりましたぁ。さあどうぞ、こちらのお席へ」

(拍手、止めて)

「いやあ、スタッフ全員、この喜びようですよ」

(拍手、もういいから、声が聞こえない!)

「テレビ番組へのご登場は、今回初めてということで、光栄です」

「いえ、こちらこそお招きいただき光栄に思います」

「いや、皇族のような気品あるお言葉ですねえ」

「あ、いや、慣れないもので」

「私からご紹介させていただきます。ゲストは、今年度の『シェフ・デュ・モンド』最優秀賞を受賞されました桐原信也シェフです。おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「それにしても、噂に違わぬイケ面ですねえ」

「んーー、どうなんでしょうかぁ、はは」

「すみません、いきなり。寺代の究極の願望がイケ面になりたいということらしく、ご勘弁ください」

「はあ、そうですか」

「……(ちぇ、どうぞお好きに、俺黙り決め込むからな)」

「受賞作は、和食だったんですか?」

「ええ、和に若干の洋テイストを織り込んでつくりました」

「あ、今写真が出ました。はー、まずデザインからも受賞がうなづけますねぇ」

「日本庭園のイメージに、洋の色合いを組み合わせてみたんですが」

「いやぁ、これは納得!って感じですぅ」

「ま、見た目だけでは勝てないので、中身が肝腎なんですが」

「審査員全員がトップの得点をつけたということですので、味わいの方も断トツだったのでは?」

「そうですねぇ、辛口の審査員もいましたが、大方はこれまでに経験したことのない味覚だったと」

「ほう、今までにない味ですかぁ。どんな味わいなんでしょう、ホホホ」

「今日は、みなさんに試していただこうと思ってます」

「わぁ! ほんとですか? 幸せですぅ」

「……(って、よく言うよ)」

(はい、料理入れて)

「あ、来ました! へぇえ、ほぅう、ひゃあ!」

(美也ちゃん、擬音だけじゃ困るよ)

「はい、それではシェフ自ら取り分けていただけるようです」

「どうぞ、お気に召すかどうか」

「うわぁ、これが世界最高の料理なんですねぇ、もう感動です! では、さっそくいただいてみます。寺代さんもいただきましょう!」

「あぁ、では、ご相伴にあずかりますです」

(ふた口くらいで話を続けてよ。美也ちゃん、がっつかない)

「おお、これは昔なつかしい味わいですねぇ」

「寺代さん、なつかしいって、いつ頃どこでですか?」

「う~ん、ちょっと待って」

「私は経験の無い味ですぅ。すばらしい深い味わいですねぇ」

「あ、そうだ! うちのお袋の料理の味に似てるな」

「ありがとうございます。お褒めいただいて」

「そうそう、よく作ってた味だよ、これ」

「(寺代さん、何を言ってるのよ、そのコメント)」

「いやぁ、なつかしいなぁ」

「そ、それはどうも。寺代さんのお母さまは、時代が時代なら最高のシェフになれたかもしれませんね。ははは」

「ご冗談を。こんなに深い味は滅多に出せませんよぉ。女の私にはよくわかりま・・う・・・?・・かゆ・・」

「え? どうかした?古泊さん」

「どうされました? 何か硬いものでも入ってましたか?」

「いえ、ちょっと・・かゆ・・ああ、かゆい、痛い」

「あれれ、顔や手が赤くなってるよ。アレルギー!」

(あ、マネージャー、ダメだよカメラに入ってるぞ)

「どうした? 美也ちゃん! しっかりしろ!」

「あ、視聴者のみなさん、こちら古泊のマネージャーの高梨です」

(寺さん、紹介してる場合じゃないよ、仕切ってよ早く)

「えー、ただいま古泊キャスターが食あたりをしましたようで・・」

「な、何を言うんですか、私の料理のせいだとでも」

「おい! おまえ、料理に何を入れたんだ!」

「高梨さん、番組中だからね、落ち着いて」

「こら! 桐原とか言ったなおまえ! 世界最高なんてふざけんなよ。さっきから聞いてりゃ、おまえなんか世界最古でセコイ最高じゃねえか!」

「な、な、侮辱するのかアンタ!」

「うるせぇ、うちの美也をこんな目に合わせやがって!」

(おい、やめろ、やめさせろ、寺さん、なんとかしてくれ!)

「これ以上、お見苦しい映像は流せませんので・・・」

「ばかやろう! 偽シェフ!」

「うるせー、死ね! おまえもこの女も!」

「うげぇええ、気持ち悪いわ、助けてぇ!」

「・・・番組途中ですが、今夜はこの辺で、また来週お会いしましょう。寺代がお送りしました。とんだ時の人でしたね、ではまた」


[第3話 完]


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