帰還
「どこにいってたんですか!」
ぼくが鮫島さんを連れてバスに戻ると、すでに如月さんは回復していて、半壊していたバスはもとに戻っていた。
顔を見せるなり声を上げたのは福原さんで、駆けよってくるなりぼくの腕にしがみついた。
「心配したんですよ。なにかあったんじゃないか……あるいは、私たちを放って、どっかに行ってしまったんじゃないかって……」
眼鏡の奥の瞳に、大粒の涙を浮かべる。
「なんで泣くんだ……?」
理解できずに首を傾げると、如月さんが助け船を出してくれた。
「古河くんは、あたしたちのことを助けてくれた命の恩人なんだから、そりゃ心配だってするでしょう?」
「それは、これから生き延びるのに、ぼくの力を当てにしてるってことか?」
尋ねると、「うーん」と如月さんまで頭を抱えてしまった。
「それもあるんだけど、それだけでもないっていうか……」
「と、とにかく、無事でいてくれて良かったです」
福原さんはこちらの存在を確かめるように手を握って、心底安心したように微笑んだ。
「で、古河くんはどこにいってたの?」
「生き残りがいた」
ぼくは、背後に隠れていた鮫島さんを二人に見せた。
その顔を見た途端、福原さんの表情が凍りつく。
ぼくは「あ」と思い出した。福原さんは、狭間のグループにいじめられていたのだ。当然いじめには鮫島さんだって加わっていて、そんな相手の生還を喜べるはずがなかった。
鮫島さんはビリビリに破れてしまった制服姿にもかかわらず、福原さんをにらみつける。
ただでさえ小柄な福原さんは、ひとまわり小さくなったように見えた。
これは、よくないのを助けてしまったかもしれない。
まぁ、いいか。
面倒なことになりそうなら、ラピスに食わせて、スキルにしてしまえばいいのだ。
「とりあえず、積もる話は後だ。すぐにこの場所を離れよう」
「誰か、大型車の免許を持ってる人いる?」
場を和ませるように「にゃははは」と笑いながら、如月さんがいった。
いるわけないだろう、と突っこもうとすると福原さんがサッと手をあげた。
「マジで!?」
「いや、も、持ってないけどっ! でも、去年お姉ちゃんが免許取り立てのときに、隣で手順とかチェックするのを手伝わされたから……それに、如月さんはまだ本調子じゃないし、古河くんにも、休んでて欲しいの」
福原さんが、すがるようにぼくを見上げる。
その頬は、ほんのりと赤くなっていた。
「わたし……古河くんの役に立ちたい」
男女の恋愛に興味のないぼくだけれど、ここまでくれば、さすがにわかる。
どうやら福原さんは、ぼくに惚れたらしい。
普段の生活の中ならば邪魔くさいから断るけれど、いまこの場においては、都合がいいかもしれない。
ぼくは福原さんの手を握りかえし、ポケットに入れておいたバスの鍵を渡した。
「わかった、福原さんにお願いする。協力してこの状況を乗りきろう」
「はいっ!」
顔をほころばせる福原さん。
「バカじゃないの?」
鮫島さんが吐き捨てた言葉に、反応する者はいなかった。
古河奏人のスキル……11個