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スライム

 車外に出たぼくは、狹間たちが行ったほうへと走りだした。


 空気は乾燥し、吹きつける風は強い。


 空を仰ぎ見れば、照りつける太陽の日射しは強烈で、五秒と見続けることはできなかった。

 モニターに映っているゲームの太陽なら、どんなに見つめたって、目が潰れるような設定にはしてないはずだ。

 ここはゲームじゃなくて、現実なのだと確信する。

 ぼくは、右腕に浮かび上がる薄緑色の幾何学模様の文字を見た。


【異世界勇者】

 クラス特性 【ステータスアップ】【言語解読】【剣術】


 如月さんは先ほど、ここにくる途中でぼくらは異世界勇者だと言われた、と話していた。

 ぼくもそうだとすれば、この【言語解読】の力で異世界の文字が読めるということなのか。

 ゲームみたいに翻訳されるのは、こちらの認識の問題なんだろう。

 クラスのみんなが作った人垣に到着した。

 その中央にいるのは、水色に透きとおったアメーバ状の生物。


「あれが、スライム……」


 笑ってしまうほどにスライムだ。

 ぼくがスライムと聞いてイメージしたスライムのイデアがそこにある。

 人の輪の中から、狭間が飛びだし、スライムと対峙する。

 モンスターとの戦闘にみな興味があったようだが、結局、クラスのリーダーである狭間に逆らうことはできなかったらしい。


「【サモンソード】――【鋼鉄の剣】」


 狭間の取り巻きの一人が、なにもない虚空から剣を出現させた。

【サモンソード】……その名の通り、剣を召喚できるスキルらしい。

 狭間はそれを受け取って、スライムに切っ先を向けた。

 真剣を握るのなどはじめてだろうが、【異世界勇者】のクラス特性【剣術】のおかげか、様になっている。


 まずいな、間に合わない……。


【スライム騎乗】でスライムを手に入れるためには、操りたいスライムの中に腕を突っこんで、ぼくの中にある魔力を流し込む必要があると、スキルに関しての知識が頭の中に流れこんでくる。

 魔力とは、人間の生命力とか精神力みたいなもので、【異世界勇者】はそれを糧にして【スキル】を行使するようだ。


 なるほど……疑問を抱けば、ぼく自身のことは、わかるんだな。


 しかし、つくづく残念なスキルだ。

 スライムといえば最下級のモンスターで、それを一匹だけ自在に操れたって、なにができるっていうんだろう。

 なんでも触れたものを切断できる【斬鉄】のスキルを手に入れたという狭間を黙らせることは、できるのか。


 ……いや、道具は使いようだ。


 ひかえめにいっても、ぼくと狭間とでは頭のデキがちがう。


 ぼくは、ぼくが住みやすい空間をつくって見せるぞ。


 決意を新たにしているうちに、バカと単細胞生物の戦いははじまっていた。

 狭間の右腕が薄緑色の光り、手にした剣に【斬鉄】の効果が付与される。


「見てろよ、オレの必殺剣!」


 狹間が振り上げた銀色の剣は、陽光を受けて輝き、次いで、その刀身も光を放った。

 直径七十センチくらいのスライムは、ゴム毬に見たいに跳ね上がり、狭間に襲いかかる。


「うらあああっ!」


 紫電一閃――狹間が振り下ろした剣は見事にスライムを両断した。


「へへ……へへへへ、どうだっ」


 剣をふりぬいた狹間が、勝ち誇った笑みでこっちを振り返った。


「モンスターなんか大したことねぇ。オレは勇者――」


「まだだ狹間!」


 人垣から響く声。

 真っ二つにされたスライムは、両方ともまだ生きていて、左右から狭間を襲う。


「なんだと――!?」


 驚きつつも、狭間は回転斬りで同時に対処する。

 スライムは四つに分かれた。

 なおもスライムは生きていて、狭間に襲いかかっていく。


「お、おい――」


 狭間の顔に、焦りの色が浮かんだ。

 クラス特性【剣術】のおかげで狹間は高校生にしては常人離れした動きをしている。しかし、攻撃すればするほどスライムは細切れにされ、小さくなり、数を増やしながら襲いかかる。


「た、助けろっ!」


 とうとう、狹間は取り巻きたちに助けを求めた。


「お、オレの【サモンソード】で!」

「バカ、剣はダメだったろ」

「誰か、炎魔法を全部修得してるって奴がいたろう!」

「あ、あたしだけど、狭間くんにも攻撃があたっちゃう――」


 みんなが躊躇しているうちに、取り返しはつかなくなっていた。

 十数体に増えたスライムを狹間は処理しきれなくなり、その左脚に取りつかれてしまう。


「ぎゃ、ぎゃあああああああああ! あつい、あついいぃ!」


 直径五センチにも満たないジェル状の生物が溶解液を発し、制服を貫いて皮膚を焼いた。

 激痛にバランスを崩して尻餅を突いた狭間に、分断されたスライムたちが殺到した。


「やめろ、やめろ、やめろぉっ!」


 無数のスライムたちは、再び一つの大きなスライムへと合体して、狹間のその身体の中にすっかり取りこんでしまった。

 狭間の身体は、スライムの半透明の組織の内側で、みるみるうちに溶けていく。

 まず、真っ先になくなったのは、目玉だった。

 皮膚と髪と服の順番は分からない。

 狭間は大量の泡粒を発して、半透明のスライムの身体が、一時的に中を見通せなくなってしまったからだ。

 それでも、スライムの身体からドロドロになった手とも足とも区別のつかないものが突きだして、狭間はまだもがき苦しんでいて、生きているのがわかった。


「狭間くんっ! いやあああああああっ!」


 誰かが悲鳴をあげる。

 もう助からない。

 この場にいる全員が、それを理解した。

 泣き出す者もいれば、胃の中のものを地面にぶちまける者もいる。


 狭間は、骨の一片すら残らなかった。


 人間を溶かしたことで身体の中に溜まったガスを、スライムは頭の上から放出する。


 まるで、ゲップだな。


 ぼくは、笑うしかなかった。


 ヌメリ。


 単細胞生物がこちらをむく。

 むくといっても、スライムに前後の区別があるのかは分からないけど、とにかく人の輪へとにじり寄っていく。


「い、いや……」


 初めて間近で見たクラスメイトの死。

 みんなの心が折れる音を、ぼくは聞いたような気がした。


「待て逃げるな!」


 迫るスライムに後ずさりをはじめたクラスメイトたちに発破を掛けたのは、クラス委員の相沢だった。


「びびるな。狹間は相性が悪かっただけだ。こいつは、俺たちでブッ――」


 その口から、真っ赤な鮮血がほとばしった。

 相沢の胸から、針のように鋭く尖ったなにかが、生えている。


「タオス……」


 血の滲む制服。

 相沢を背後から貫いた透きとおった針は、地面から伸びていた。

 ニュル。

 地面から、スライムが姿を現す。


「……ライムの、しょく、しゅ?」


 自らを貫いたものの正体を知った相沢の、最後の言葉だった。

 触手が蠕動して、相沢からなにかを吸い上げる。

 女子のあいだではイケメンと称されていたベビーフェイスが、老人のようにしわくちゃになり、髪は禿げ落ちて、ミイラのように干からびてしまう。


「相沢ァ……おいっ、どうすんだよ」

「二匹目のスライムだと……」

「いや、二匹だけじゃねぇぞ」


 ニュル。


 地面から、スライムが出てくる。

「そっちにも」


 ニュル。ニュル。


「あ、あっちも……」


 ニュル。ニュル。ニュル。


 地面から、スライムはどんどん湧き出てくる。

 ぼくたちは、無数のスライムに囲まれていた。

古河奏人のスキル……1つ

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