球技大会と自己認識
本日は晴天なり。絶好の球技大会日和と言えるでしょう。そんなことを思いながら体操服に着替える。
雪吹はバレーボールに出場する。補欠が良かったが、レギュラーになってしまった。アタックとか出来ないんだけどな。
武士はバスケットボールに出る。もちろんレギュラーで。武士の運動神経は抜群だ。というか、攻略対象は全員、運動神経が良い。文系の副会長と書記ですら人並以上だ。黄色い歓声を浴びる姿が容易に想像できる。
クラスメイト達と会場へと向かう。道すがらパリピな女子たちの会話を聞く。
「球技大会とかウザいよね」
「ウザい。早めに負けちゃおうよ」
「一回戦でね。それで、男子の応援に行こう」
「良いね。生徒会の人たち見たいわ~」
「それな」
女子高生の会話だ・・・!と一人感動していると、いきなり話を向けられた。
「椿山さんだって、柊君の応援に行きたいっしょ?」
「へ?」
「付き合ってるんじゃないの?」
「え!?」
思わず大きな声が出てしまった。
「違うの?」
「違うよ。ただの幼馴染。小学校から一緒だっただけ」
「怪し~」
「ね。柊君、椿山さんとしか話さないし」
「武士、無口だから・・・」
「下の名前で呼んでるし」
「これは癖で・・・」
そんな風に思われてたのか。下の名前で呼ぶのは止めた方が良いのかな?恋人だなんて噂が出回ったら、武士とヒロインの邪魔になってしまう。それとも、私は当て馬か?
武士と私が結ばれる事は無い。だって、私は『ヒロインじゃない方の幼馴染』。生まれながらの『負け組』なんだから・・・。
小学校でも、中学校でもこんな誤解されたこと無いのにな。思わず苦笑してしまう。
試合会場に到着して、トーナメント表を見る。一回戦で二年生と当たるようだ。
「あ、雪吹ちゃ~ん」
後ろから抱き着いてきたのは京香先輩だった。
「初戦は雪吹ちゃんのところか~。雪吹ちゃんは試合出るの?」
「はい。京香先輩は?」
「出るよ~。お腹が空くから、運動嫌いなんだけどね~」
「頑張りましょう」
「ええ~」
京香先輩は二年生の友達に回収されていった。
試合が始まった。驚いたことに、京香先輩は運動神経抜群だった。二年生は京香先輩を中心に試合を進めて行く。バシバシと得点を決める京香先輩。私たちのクラスは完敗だった。
「よくやった!桐山偉い」
「お菓子あげるから、次の試合もヨロシク」
「もう、お腹空いたよ~」
後で聞いた話になるが、もともと京香先輩は運動能力が高いのに、素晴らしく燃費が悪いとのことだった。だから、運動系の部活には入りたくなかった。しかし、助っ人を頼まれることが多く、ある日、部活の助っ人帰りに空腹で倒れていたところを、友子部長に助けられたそうだ。その時、友子部長は干菓子を持っていた。部活でお菓子が食べられると知った京香先輩は、茶道部に入部した。
(そんな経緯があったのか・・・)
京香先輩らしいエピソードにほのぼのした。
パリピ女子たちの思惑通り、一回戦敗退をしてしまった。彼女たちは男子の応援に向かうようだ。
(私はどうしようかな)
クラスで仲の良い女子たちは卓球に出場している。卓球の会場にでも行くかと思って踵を返すと・・・。
「雪吹くん。お疲れ様」
「勇気先輩・・・見てたんですか」
「可愛い後輩が二人も出てたからね」
「・・・二人しか後輩いないですけどね」
「それを言われるとな・・・」
どうやら勇気先輩は男子のバレーボールに出場予定のようだ。
「時間があるなら応援してくれる?」
「喜んで」
勇気先輩の応援をすることにした。すると、話を聞いていた勇気先輩の友人らしき三年生が駆け寄って来た。
「笹本、女子をゲットしたのか!良くやった」
「一年生?茶道部の後輩?是非、応援してくれ」
「生徒会の役員がバスケットボールに出るから、バレーボールの応援が・・・」
「泣くな」
なんか重い・・・。そうか、攻略対象全員がバスケットボールに出場するのか。ヒロインも女子バスケットボールに出場すると言っていた。
(イベント、見れないな)
でも、それで良いのかもしれない。あまり武士に近寄らない方が・・・。ヒロインと武士が仲良くする様子なんて見た日には・・・。
(なに考えてるんだ私・・・)
傷つくことなんてない。最初から私は分かってる。『負け組』なんだって。
(それより今は応援応援)
オーディエンスの少ない観客席に向かった。大声を出すキャラでもないので、精一杯、拍手で応援した。結果、勇気先輩のチームが二年生のチームに勝利した。
「雪吹くん、ありがとう。みんなのテンションが上がったよ」
「お役に立てたなら嬉しいです」
「良かったら、二回戦も見てってくれる?」
「ええ。時間あるんで」
「ありがとう」
勇気先輩は攻略対象達みたいにイケメンではない。でも、優しい顔をしている。
こんな人と恋が出来たら・・・。
(また、何を考えてるんだ私ったら・・・)
武士と付き合ってるなんて言われたから頭が混乱しているんだ。こんな時こそ、点前の順番を思い出せ。精神統一!
「あ、雪吹ちゃん。勇気の応援してくれてるの?」
「友子部長・・・」
友子部長は卓球に出ていたが、負けてしまったらしい。ついでに捕足すると、友子部長の運動神経は切れている。
「京香ちゃんの応援に来たんだけど、雪吹ちゃんが見えたから・・・一緒に応援しましょう」
「はい」
結果、勇気先輩のチームは優勝した。私まで嬉しくなった。
ちなみに、この日から勇気先輩の友達である三年生の先輩方に声をかけられるようになった。
(そんなに応援、嬉しかったのかな?)
生徒会より自分たちの応援をしてくれる女子は中々居るものではないと、三年生の間で評判になることを、この時の私は知らなかった。