5月のミーティング
ゴールデンウィークが明けると、自分が新入生だという新鮮な気分が無くなった気がした。新入生から一年生になったということだろうか。帰り支度をしていると、担任から声をかけられた。
「おーいクラス委員。明日の放課後に201教室でミーティングだそうだ」
明日は私も武士も部活動の無い日だ。気兼ねなくミーティングに出られる。
「分かりました。ご連絡ありがとうございます」
「おう。椿山はしっかりしてるな」
そりゃ、人生二回目ですからとは言えずに茶道部へと向かった。
「雪吹ちゃん、クラス委員なの?すっごーい」
とは京香先輩の言葉だ。
「何がすごいんですか?」
「クラス委員って人気なんだよ。生徒会の人と話せるから」
「話すって・・・それだけで?」
「普段は近寄りがたいからね。生徒会役員って」
「そうなんですか」
「そうそう。友子部長は副会長と同じクラスだから聞いてみ?」
と言われたので、早速、友子部長に聞いてみた。
「ああ、百合川君?冷たい感じで苦手だわ」
「確かに、厳しい感じですよね」
「生徒会とお近づきになりたい人は多いけど・・・私は苦手」
確かに、友子部長はミーハーなタイプではない。苦手というのも納得だ。
「京香先輩は、生徒会の人たちに興味あるんですか?」
「全然。一年生の頃、秋元君と同じクラスだったけど、しゃべったことないし」
京香先輩は女子に囲まれているイメージがある。これも納得。
「ミーティングが部活と重なったら、遠慮なく休んでね」
「ありがとうございます。でも、私は部活の方に出たいです」
「あら、嬉しい」
ちなみに、会話中はずっと三人で帛紗をさばいていた。反復練習は大事である。
翌日の放課後は、あっと言う間に訪れた。武士と共に201教室へ向かい、4月の顔合わせ時と同じ席に座っておく。担任が気を利かせたのか、ホームルームが早く終わったため一番乗りだった。
「ミーティングって何時に終わるのかな?」
「・・・」
最初から返事は期待していない。
「今日の数学、宿題が多かったから早く帰りたいんだよね」
「・・・」
一方的に私が話していると、扉が開いた。
「おや、一年生ですか。早いですね」
入ってきたのは紙の束を抱えた副会長だった。軽く会釈をする。
「丁度いい。資料を配るのを手伝ってください」
「分かりました」
副会長の指示に従い、私と武士で資料を配布する。資料を見ると、どうやら今日の議題は『球技大会』についてらしい。無心で配っていると、他の委員たちも集まってきた。
「配り終わったら、君たちも着席してください」
配るの手伝ったのだから、礼の一つも言えよ!と思うが、副会長のキャラ的に無いよな。武士と共に着席する。と、廊下の方が騒がしくなった。
「いい加減にしてください!」
ヒロインが怒っている。あ、これは生徒会長との会話の選択肢にあった言葉だ。きっと、名前の事で揶揄われたのだろう。
ヒロイン、爽やか君と生徒会長が教室に入ってきた。ヒロインは不機嫌そうだが、やはり可愛い。
「これで全員揃いましたね。早く着席してください。始めますよ」
全員が着席し、5月のミーティングが始まった。司会進行は副会長だった。
ミーティングの内容は『球技大会』について。競技はバレーボール・バスケットボール・卓球。男子だけサッカー。クラス委員の仕事は、各競技のメンバー表を作ること。それを生徒会へ来週までに提出すること。
「あと。各クラスから2人ずつ球技大会委員を出してください。当日の審判など運営を手伝って貰います。以上が球技大会についての説明です。何か質問は?」
非常に分かりやすい説明に資料だった。質問など出ないだろう。
「無いようなので、最後に会長、何かありますか?」
「そうだな。今年の一年生には面白い奴が多いみたいだから期待している」
しっかりヒロインを見ながら言っている。ゲーム通り、ヒロインに興味を持っているようだ。
「では、本日のミーティングは以上。来月のミーティングの開催については、担任を通して連絡します。解散してください」
ミーティングは部活よりは早めに終わった。
「武士、帰る?」
「ああ」
荷物をまとめて立ち上がる。
「あ、あの、椿山さんと武士君は一緒に帰るの?」
ヒロインが話しかけてきた。
「うん。家が隣だから」
「そうなんだ。えっと、私も一緒に帰って良い?橘君も」
「そうそう。一年生同士、一緒に帰ろうよ」
爽やか君、やっぱり爽やか。
「構わないよ。武士も良いよね?」
「ああ」
四人で帰ることになった。流石ヒロイン。攻略対象を二人も侍らせて帰るのか。
帰り道、主に話しているのはヒロインと私だった。
「椿山さんは茶道部に入部したの?」
「うん。桜井さんは合唱部に入ったって聞いたけど」
「そうなの。仮入部の時に聞いた合唱が忘れられなくて・・・素敵だったの」
「へえ」
「あ、あの、茶道も素敵だと思うよ」
「ありがとう。橘君、部活動は?(知ってるけど)」
「俺はサッカー部。柊君は剣道部だって?」
「・・・ああ」
武士、ヒロインともっと話してくれないとイベントが起きない・・・! そう思っていた時・・・
「きゃっ」
「おっと」
つまずいたヒロインを爽やか君が受け止めた。
「あ、ありがとう」
「気を付けて」
あれ?これってスチル在ったよな?でも、爽やか君じゃなくて、武士とのスチルだったはず・・・。イベントは起きたのに、相手が違っている。つまりは・・・。
(武士!!イベント盗られてるよ!?)
思わず武士を凝視してしまった。武士はいつもの通り無表情だった。