部活
立礼の描写は私が記憶している限りを書きました。間違っているかもしれませんが、あたたかくお読みください。
ヒロインが攻略対象と仲良くなるにはクラス委員としてのイベントの発生と『文』『武』のレベルアップが必要だった。『文』のレベルを上げるには勉強に力を入れ、文系の部活に入る。『武』のレベルを上げるには行事に力を入れ、運動系の部活に入ることが必要だった。バランス良く育てるのに、勉強重視の運動系という選択肢を選んだこともある。ヒロインは何の部活に入るのだろうか。
そんな考えが浮かんだのは、授業と共に部活のお試しウィークとやらが始まったからだ。私は茶道部に入る気満々だが、人付き合いというものもある。気の合う先輩や同級生がいないなら学校で茶道をする必要は無い。どうせ、家でもお稽古するんだし・・・。まずは仮入部だ。
『茶道部』と書いた紙が貼ってある扉を見つけた。ノックをすると中から「どうぞ」と返って来た。
「一年生なんですが、仮入部をお願いしたくて・・・」
「一年生!?やった!先輩、仮入部希望者が来ましたよ!!」
「本当?」
中には二人の上級生が居た。
「とりあえず、中に入って」
「ありがとうございます」
扉から入ると小さな玄関の様になっており、二畳くらいのフローリングに水場。奥が和室の様だった。
「一年生の椿山雪吹と言います。家が茶道教室で、中学でも茶道部でした」
「あら、経験者なのね。嬉しい」
「わ~。私より茶道経験が長い!!」
和室に招き入れられた。小さな机が何個か置いてあり、これから準備をするところの様だった。
「今週は仮入部者向けに、正座をしなくてもいい様に立礼にしようと思って」
立礼とは簡単に言うと、椅子に座ってやる点前のことだ。
「あ、自己紹介がまだだったわね。部長の笹本友子です。三年生よ」
「二年生の桐山京香だよ」
「今日は居ないけど、副部長を含めて部員は三人だけなの」
「少数精鋭なんですね」
「ありがとう。気ままに出来るのは良いんだけど、寂しくてね。椿山さんが来てくれてホッとしたわ」
「今日は生菓子だよ。いつもは干菓子なんだけどね」
なかなか優しそうな先輩たちだ。準備を手伝うと申し出ると恐縮されてしまった。
「今日はお客様だから、気にしないで」
「うんうん。今日は楽しんで。それで入部して欲しい」
「分かりました。お言葉に甘えます」
用意された椅子に腰かける。念のために、帛紗や懐紙を持ってきたのだが、今日は必要なさそうだ。
「炉が無いから、IHを使ってるの。火を使うのも禁止で・・・」
「仕方が無いですよね」
そんな会話をしていると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します。」
入ってきたのは・・・ヒロインじゃん!!
「仮入部をしたくて・・・あ、椿山さん」
「桜井さん、偶然だね」
「あら?お知り合い?」
「はい。クラスは違いますが同じクラス委員なんです」
「まあ、そうなの。こちらへどうぞ。お座りになって」
ヒロインが私の隣の椅子に腰かける。
「準備も出来たし、始めましょうか。京香ちゃん、半東がんばってね」
「緊張します」
思わず笑ってしまう。ヒロインが小さな声で話しかけてきた。
「椿山さん、半東って何かな?」
「ああ。簡単に言うと、亭主・・・お茶を点てる人のサポート役かな。お菓子を運んだり、点てたお茶を運んだりするの」
「へぇ。全部、一人でやるのかと思ってた」
話している内に、桐山先輩が菓子鉢を運んできた。正客は雪吹だ。雪吹の前に菓子鉢を置き、一礼して去って行く。入れ替わるように笹本部長が和室に入り一礼した。本来ならば、客も立って礼をするところだが、本当にお試しのため今日は省略されている。
笹本部長が「始めます」と点前を始めると、桐山先輩が「お菓子をお取り回しください」と言ったので、箸を手にし、お菓子を懐紙の上に取る。ヒロインも見よう見真似で菓子を取った。
「わ、かわいいお菓子」
思わずと言ったようにヒロインが言った。
「本日は『糸桜』をご用意しました」
「ピンクがかわいいですね」
「ありがとうございます」
黒文字で切り分け、口に運ぶ。うん。甘い。
「和菓子って美味しいですね。なかなか食べる機会がなくて・・・」
「是非、入部して機会を増やしてください。と言っても、普段は干菓子なんですが」
「干菓子?」
「落雁とかだよ」
話している内に、笹本部長は茶筅を手にしていた。カシャカシャという音が響く。この音が好きだ。点てた茶を半東である桐山先輩が運んでくる。
「お先に」
「あっと、どうぞ」
「お点前頂戴いたします」
右手で茶碗を取り、左手に載せ、正面を避ける様に二回ほど回す。そして口をつけ、一口飲む。
「替え茶碗で失礼します」
笹本部長が次の作業に移る。私は薄茶を味わう。「スッ」と吸い切りをする。飲み口を指で拭き、懐紙で拭う。正面に戻し、茶碗を見る。季節に合わせてこちらも桜柄だ。こういう心配りが、茶道の楽しいところだと思う。
ヒロインにも薄茶が運ばれてきた。
「えっと」
「気楽にお楽しみください」
「右手で取って、左手に置いて」
「こう?」
「そう。で、時計回りに2回くらい回して」
「うん」
「右手を添えていただく」
ヒロインが茶碗に口をつける。あれ?と思っていると一気に飲み干そうとしているようだった。
「あ、何回かに分けて飲むの」
「・・・ごめんなさい。あまり苦くないんですね。」
「美味しかったです」
「良かった。今日は拝見は無しにしましょう」
「椿山さん。拝見って?」
「使った道具を見る事かな?」
「難しいんだね」
「慣れればそうでもないよ」
「本当は正座なんだよね」
「正座も慣れるよ」
私がヒロインを茶道部に勧誘しているようだ。
「本当に正座は慣れるよ。私がそうだったから」
とは、半東を務めた桐山先輩の台詞。
「茶道部は週に2回活動しています。文化祭では茶席を設けます。でも、楽しんで活動するのが一番だから、気軽に入って欲しいわ」
部長が締め括った。私は入部する気満々だが、ヒロインはどうするのだろうか。
「「ありがとうございました」」
片づけを手伝うと申し出たが、まだ入部もしていないから今日は帰ってと言われたので素直に帰る。ヒロインと茶道部を後にした。
「椿山さんは入部するの?」
「うん。そのつもり。桜井さんは?」
「私は他の部活動も見てみる」
果たしてヒロインが何の部活に入るのか、少し気になる雪吹であった。