再会
それは、校舎を出た時に起こった。桜の下の再会イベントだ。
「武士君?武士君じゃない?」
私と武士が振り返ると、ヒロインが立っていた。思わずマジマジとヒロインを見る。うん可愛い。ストレートの腰まで伸びた髪に、ぱっちりな目。スカート丈は膝より少し上。清楚系ヒロインだ。
武士が振り返ったまま何も言わない。おかしいな?ここで「もしかして・・・〇〇?」とヒロインの名前を言うところだぞ。「ああ」以外の言葉を久々に聞けると思ったのに。仕方ないな・・・。
「武士、知り合い?」
「・・・」
「知り合いじゃないの?」
「ああ」
おい。お前が幼稚園の頃に将来を約束したヒロイン様だぞ?何、忘れてるのさ。
「武士君、忘れちゃった?幼稚園で一緒だった『桜井 愛華』だよ」
「・・・ああ」
へえ、ヒロインってそんな名前なんだ・・・って何の「ああ」だよ!?思い出したって意味か?
「知り合いなんじゃん。私、先帰ってようか?」
「・・・いや」
はい。久々の「ああ」以外が出ました。って、せっかく気を利かせたのになんだよ。
「帰るぞ」
「あ、ちょっと。ごめんね。桜井さん・・・ちょっと武士」
武士がさっさと歩いて行ってしまった。失礼だぞ?ヒロインに謝り武士を追う。
「またね。武士君!」
ヒロインが後ろから声をかけるが、武士は反応しない。私が振り返って会釈した。ヒロインは会釈を返してくれた。良い子だ。
「武士、あの子に失礼だよ」
「ああ」
「本当に分かってる!?」
「・・・」
結局、いつも通り私が一方的に話しながら帰った。武士とはウチの門扉の前で別れた。
それにしても、生徒会長とのイベントはゲーム通りだったのに、武士とのイベントは微妙だったな。やっぱり、ゲームとの差異ってあるんだ。
翌日、武士はやはり門扉の前で私を待っていた。これは、余程のことが無い限りは一緒に登校だな。小学校の時からそうだったし。
今日も授業は無い。やることはクラスの委員決めだ。担任が前に立つ。
「とりあえず、進行役のクラス委員を決めよう。やりたい者は挙手しろ」
「先生。クラス委員って、どんな仕事するんですか?」
「そうだな。こういう会議の進行役とか、月一回の生徒会とのミーティングとかだな」
一部の女子が色めき立った。昨日の入学式で生徒会長のファンになったのだろう。何人かの女子が手を挙げた。
「女子と男子、一人ずつなんだが・・・男子は居ないのか?委員になっても部活は出来るぞ?」
男子の手は挙がらなかった。
「じゃあ、男女ともくじ引きで決めよう。公平にな」
どうやら全員がくじを引かなければならないようだ。そして、その結果・・・。
「男子は柊。女子は椿山だな。同じ中学出身だったよな。知り合い同士で良かったな」
「先生・・・私、図書委員が良いです」
「くじ引きの結果だ。あきらめろ」
ゲームでこんな展開あったのだろうか?隣のクラスのクラス委員はヒロインと爽やか君になるはずだ。
「じゃあ、早速クラス委員。前に出て仕事してくれ」
仕方なく席を立った。武士の寡黙さを知っている私が進行役だな。
「では、図書委員から、やりたい人は挙手してください」
この後はスムーズに委員が決まってホームルームが終わった。帰り支度をしていると担任に呼ばれた。
「放課後にクラス委員と生徒会の顔合わせがあるから出てくれ」
「・・・はい。分かりました」
「場所は201教室だ。よろしく」
担任は言うだけ言って去って行った。
「仕方ない。武士、行こうか」
「ああ」
二人で201教室へ向かった。教室の前に着くと、ヒロインと爽やか君が居た。
「武士君!武士君もクラス委員なの?」
「ああ」
「桜井さん。知り合い?」
「うん。隣のクラスの柊武士君だよ。あと・・・」
「椿山です」
「俺は橘。よろしく」
爽やか君と自己紹介をする。やっぱり爽やか系イケメンだわ。
「一年生。早く入りなさい」
副会長に中から声をかけられた。いそいそと教室に入る。
「一年生はそちら。二年生はこちらに座って。三年生と生徒会はこちらです」
言われた通りの席に着く。並び順は、私・武士・ヒロイン・爽やか君だ。流石ヒロイン。攻略対象に挟まれている。
感心していると俺様系生徒会長が教室に入ってきて、ヒロインに気が付いた。
「昨日、転びそうになった女子か。クラス委員になったのか?」
「あ・・・その節は、大変失礼しました」
「俺に触れたくて、態と転んだのかと思ったぞ」
「ち、違います!!」
はい。自意識過剰ですね乙乙。なんて、顔に出さずいる私。女優だ。
「会長。早く座ってください」
副会長に促され、会長が生徒会の席に向かった。あ、この教室に攻略対象が全員揃ってる!
生徒会長に副会長、爽やか君と武士、生徒会書記の二年生『秋元 紅葉』の5人だ。クラス委員になったヒロインは学校行事を通して攻略対象達と親密になって行くのだ。
生徒会役員から自己紹介をしていく。自己紹介と言っても所属と名前だけの気楽なものだ。一年生に回ってくる。そうだ。ヒロインって確か・・・。
「1年A組のしゃくらいあいかでしゅ・・・よろしくお願いします」
盛大に噛むんだった。この自己紹介から会長に更に揶揄われるようになるんだった。顔を真っ赤にするヒロイン・・・可愛いな。
「自己紹介も終わりました。次のミーティングは5月です。解散」
副会長の合図で三々五々と教室から出て行く。
「武士、私たちも帰ろ」
「ああ」
すると、会長がヒロインに絡み始めた。
「しゃくらい?」
「さ、桜井です」
ヒロインは爽やか君が助けるだろう。横目に見ながら教室を出た。