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茶の心と恋心

「あら?武士がお点前してたの?見たかったわ」

「次は雪吹なの?ちょうど良かったわね」


 母親たちが盛り上がっている。


「・・・来るとか聞いてないし」

「ちょうど、柊さんと会ってね。折角だし、一緒に行っちゃおうかって話になったの」

「私のお点前なんて、お稽古でいつも見てるじゃない」

「制服姿って新鮮だわ~」


 文化祭に母親が来るのもむず痒いのに、お茶の先生も兼ねている。非常に居た堪れない。ため息をついていると友子部長が寄ってきた。


「お点前、代わりましょうか・・・」

「大丈夫です。さっさと点てて帰ってもらいます」


 私の目は据わっていたと思う。


 さっさと・・・とは言ったが手を抜くつもりはないだって先生でもあるのだ。変なところを見せたら、次のお稽古で何を言われるか分からない。

 それに『利休七則』には、「茶は服のよきように点て」とある。「お茶は一服が美味しいよう、心を込めて点てよう」という意味だ。だから、私は気を引き締めて水指を持ち上げた。


「じゃあね武士。雪吹ちゃんもまたね」

「ごちそうさま」


 無事に母親二人は帰って行った。私は手を振り返しながら息を吐いた。


「嵐だった・・・」

「お母様で先生でもいらっしゃるから緊張したでしょう」

「なんか疲れました」

「お疲れ様」


 なんだかんだと話していると勇気先輩とヒロインが連れ立って帰って来た。


「戻りました」

「お帰りなさい。桜井さん、みんなで見に行けなくてごめんなさいね」

「いいえ」

「桜井さん、一年生なのにソロパートがあったんだよ」

「へえ、スゴイね」

「とても緊張しました」


 微笑むヒロインは、やっぱり可愛い。


「綺麗な声だったよ」


 勇気先輩が褒めると、ヒロインは顔を赤らめた。やっぱり可愛い。


 その後も、ちょくちょくお客さんが訪れ、順番にお点前をした。無事に文化祭一日目は終わった。


「みんな、明日もよろしくね」

「はい」

「頑張ります」


 友子部長、勇気先輩、ヒロインは最寄り駅が同じだから一緒に帰って行った。


「私たちも帰ろうか」

「ああ」

「お母さんたちが来て驚いたね」

「ああ」

「明日は土曜日だから、今日よりお客さんが多いかな?」

「・・・そうだな」


 他愛もない話をしながら帰るのはいつものこと。


「桜井さんの合唱、本当に見に行かなくて良かったの?」

「ああ」

「勇気先輩、褒めてたよね」

「ああ」


 武士とヒロインの仲ってどうなっているのだろう。


 百合川副会長は友子部長の事が好きなようだった。これはゲームとは違う。武士にもヒロイン以外に好きな子とか居るのだろうか。その子とは、もっと話すのだろうか・・・。


 予想通り、二日目は昨日よりも来客数が多かった。茶道部には、生徒は来ないが、生徒の保護者や近所の年配の方がいらっしゃった。雪吹たちは順番に点前をし、裏方として仕事をし・・・6人で仕事を回していった。


「お昼に順番に行きましょう。二人ずつかな。三年生が一気に居なくなるのは良くないから、私と勇気は別々ね」

「じゃあ、僕と柊君、雪吹くんと桜井さん、姉さんと京香くんで良いかな?」

「分かりました」


 勇気先輩と武士が抜けて帰って来た後、私は桜井さんとお昼を買いに出かけた。


「桜井さん、何食べたい?」

「あ、確かあっちでPTAの人が焼きそば売ってたからどうかな?」

「それにしよう」


 二人で焼きそばを買い、近くのベンチに座って食べる。


「結構、美味しいね」

「うん・・・椿山さんは、茶道部の皆さんと仲が良いね」

「そうだね。人数少ないし」


 あれ?前にもこんな会話しなかったっけ?


「笹本先輩って、みんなに優しいの?」

「友子部長?優しいけど、ときどきスパルタで・・・」

「あ、部長さんじゃなくて・・・」

「・・・勇気先輩のこと?」 

「うん・・・名前で呼ぶくらい親しいんだね」

「部長との呼び分けのためにね。下の名前で呼び合おうってなって」

「そうなんだ」


 もしかして・・・。


「桜井さん、勇気先輩が気になるの?」

「・・・!」

「いや、ごめん。なんとなくだけど・・・」

「・・・私って分かりやすい?」

「いや、話の流れ的に・・・」

「そうだよね・・・あのね、駅で落とし物を拾ってくれた時から気になってたの。茶道部のお手伝いで会えた時は本当に嬉しかったんだ」

「・・・そうなんだ」


 ヒロインからの突然の告白に頭が着いて行かない。だって、勇気先輩は攻略対象じゃないよ?


「昨日も見に来てくれて・・・褒めてくれて」

「うん」

「ドキドキして・・・」

「そうなんだ・・・」


 待って待って・・・私の頭の中では「待って」が踊っている。


「突然ごめんね!椿山さんって武士君と付き合ってるでしょう?だから恋愛話を聞いて欲しくって」

「え!?」


 ヒロインにも誤解されている。『私と武士が付き合ってる』って!!


「わ、私は武士と付き合ってないよ」

「そ、そうなの!?」

「うん」

「ごめんなさい。私てっきり・・・」

「あはは。みんな誤解してるんだよね。武士との距離が近すぎるのかな?考えないとな~」


 どうしよう。もしかして、この誤解が武士とヒロインの仲を引き裂いてしまっていたら・・・。


 私は『じゃない方の幼馴染』。『負け組』でいないといけないのに。

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